ウクライナの原子力発電所の状況 #97
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第181号(現地時間2023年9月1日)[仮訳]
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長がザポリージャ原子力発電所(ZNPP)を初訪問し、IAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)を発足させてから、本日で1年が経過した。IAEAの専門家がZNPPに常駐することは、原子力事故の可能性を低減する上で不可欠である。
IAEAは、紛争が始まって以来、ウクライナのすべての原子力発電所(NPP)へミッションや専門家の派遣、資金援助の促進、情報共有など、ウクライナにおける継続的な支援と監視を行ってきた。
「1年前にも述べたように、IAEAがZNPPに常駐していることは大きな意味がある。IAEAの存在がゲームチェンジャーとなったことは間違いない」「紛争の最前線にある欧州最大の原子力発電所ZNPPにISAMZチームが常駐することは、状況を監視し、ウクライナを支援するIAEAの活動において極めて重要な役割を果たしている」とグロッシー事務局長は述べた。
「IAEAの存在は、事態の安定化を支援し、ZNPPに関する情報を世界に発信し続ける上で不可欠。私は、他のウクライナの原子力発電所やチョルノービル・サイトの職員と同様に、この重要な仕事を遂行する勇気あるIAEA職員を特に誇りに思う」とグロッシー事務局長は付け加えた。
人々と環境に影響を及ぼす可能性のある原子力事故を防止するためには、ZNPPを保護するための5つの基本原則が尊重され、遵守されることが引き続き最も重要である、とグロッシー事務局長は語った。
この記念すべき日は、ISAMZの10回目のローテーションが成功裏に終了した翌日であり、IAEAの専門家チームはZNPPを出発・到着する際、再び最前線を通過した。
2023年8月3日に行われた前回のローテーションでは、IAEA専門家は3号機と4号機の原子炉建屋屋上への立ち入りを許可され、原子炉建屋やタービン建屋の屋上に地雷や爆発物が設置されていないことを確認した。そのためISAMZチームは、今回のローテーション期間中に残りの4基の屋上にも同様の立ち入りができるものと期待していたが、今回は立ち入りは許可されなかった。
グロッシー事務局長は、5つの基本原則の完全遵守を監視するため、IAEA専門家がZNPPの全エリアに適時に立ち入ることができるようにすることの重要性を改めて強調した。
IAEA専門家は、ZNPPから少し離れた場所で、爆発音や軍事活動の音を聞き続けている。また、8月23日にドローンがエネルホダルの住宅を直撃したが、死傷者は出ていないとの報告をZNPPから受けた。IAEA専門家は、これらの事象によるサイトへの影響はないことを確認している。グロッシー事務局長は、軍事紛争中にZNPPが直面する潜在的な原子力安全とセキュリティ上のリスクを改めて思い起こさせるものであると述べた。
ZNPP4号機は、4基の蒸気発生器のうち1基で水漏れが確認され、8月12日から冷温停止状態にある。水漏れの原因は修理され、初期テストは成功。さらなるテストが進行中である。6号機はサイト内へ蒸気を供給するため、温態停止のままである。1~5号機は引き続き冷温停止中である。
既報の通り、ウクライナの国家規制当局であるSNRIUは、6基すべての運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発出している。
ZNPPでは、蒸気発生器のメンテナンスに加え、原子炉の安全システムや電気系統のメンテナンスも実施している。
しかし、紛争以前と比べると、保守要員は大幅に減少しており、現在は約3分の1になっている。ZNPPの安全とセキュリティにとって重要なシステムや、構造物、部品を適切に保守する現場能力について、さらに懸念が高まっている。ZNPPでは新たに職員が採用されたが、彼らが訓練を修了し、現場で働くために必要な経験を積むには時間がかかる。ロシアのロスエネルゴアトムの保守契約者は、保守作業の実施を今すぐにも支援できるという。
IAEAの専門家によれば、ZNPPの大きな冷却池と、もう1つの主要な水供給源である近くのザポリージャ火力発電所(ZTPP)の放水路は無傷のままである。ZNPPの冷却池の水位は、1日あたり約1センチずつ低下し続けている。一方、ZTPPの放水路には、冷却使用と自然蒸発により失われた水を補うために、ZTPPの取水路から定期的に水が送りこまれている。これにより、数か月間は十分な水量を確保している。
IAEAチームは、発電所のスプリンクラー池の近くでの井戸の掘削を見守っている。今週4本目の井戸が掘削され、現在4本の井戸が稼動している。ZNPPはISAMZに対し、今後数週間のうちにスプリンクラー池の周囲に合計10~12本の井戸を掘削する計画であることを伝えた。井戸は、停止中の原子炉6基と使用済燃料プールの冷却水の主要な供給源となる。
IAEAチームはまた、敷地内の定期的な実地調査も続けている。過去10日間、専門家たちは、1号機の中央制御室/緊急制御室/その他の安全関連室/原子炉建屋/メインポンプ、蒸気発生器/安全システム室、4号機の中央制御室/緊急制御室/その他の安全関連室、発電所の周囲および敷地内の放射線モニタリングステーション2か所を視察した。
これらの実地調査中、チームは1号機のタービン建屋で軍用トラックの存在を確認したが、既報以外の地雷や爆発物は確認されなかった。
さらに、チームは8月25日にZNPPの750kV開閉所を訪れ、可能な修理がすべて完了され、冬に備えていることを確認した。4系統ある750kVの外部送電線のうち1系統だけが接続されているが、直近の8月10日には、この送電線が日中2回切断され、サイトでは330kV予備送電線からの外部電力に頼ることになった。
IAEAの専門家は、ウクライナの他の原子力発電所とチョルノービリ・サイトに引き続き常駐している。IAEAは来週、リウネ、フメルニツキー、南ウクライナの原子力発電所でチームの交替を実施する。
今週、IAEAはチョルノービリ・サイトに医薬品を提供し、2022年2月に紛争が始まって以来、ウクライナへの医薬品提供は22件となった。この医薬品は、チョルノービリ・サイトの職員だけでなく、同サイトにいるIAEAの職員にも役立つものである。これらの医薬品は、ドイツが提供した資金で調達された。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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