ウクライナの原子力発電所の状況 #99


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第183号(現地時間2023年9月15日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)サイトで、さらなる井戸の掘削作業を継続していることを明らかにした。これは、3か月前に下流のカホフカダムが破壊されたことにより、新たな冷却水源を確保する取組の一環。

先週以降ZNPPは、6基の原子炉と使用済燃料を冷却するスプリンクラー池に水を供給するため、さらに2本の地下水井戸を掘削。新たな井戸は合計9本となった。

井戸は、毎時約200㎥の水をスプリンクラー池に送り、停止中の6基の冷却に必要な水のほぼすべてをまかなっている。残りの水は、排水システムとプラントの化学水処理施設から定期的に放出される浄化水から供給される。ZNPPでは、10本目の井戸が掘削された後、さらに井戸が必要かどうか水の供給状況を評価する予定である。

グロッシー事務局長は、「ダムが破壊され、貯水池が失われたことにより、サイトの水資源の安定化に向けた措置がなされ、現在の状況では数か月分の冷却需要は十分に供給できる」との見方を示した。

同氏はまた、「しかし、IAEA専門家がこの地域での軍事行動の活発化の兆候を報告しているように、欧州最大の原子力発電所であるZNPPにおける全般的に不安定な原子力安全とセキュリティの状況を、水供給問題がさらに悪化させている」と述べた。

ウクライナでの紛争中、原子力安全とセキュリティの潜在的な危険性を強調するものとして、IAEA専門家は、最前線に位置するZNPPから少し離れた場所で多数の爆発音を引き続き耳にしている。

IAEA専門家はまた、9月11日に多くのZNPPスタッフが家族と住んでいる近くのエネルホダル市でさらなるドローン攻撃があり、建物2棟に軽度な被害が発生したことについて報告を受けた。死傷者はなかったと聞いている。

グロッシー事務局長は、「いかなる形にせよ、ZNPPの原子力安全とセキュリティを危険に晒す可能性のある行動は取るべきではない。この悲劇的な戦争中に原子力事故を防ぐべく、我々ができることすべてをこれまでどおり行う決意である。リスクは厳然と存在している」と述べた。

ZNPPでは、IAEA専門家がサイトの特定エリアの見回りを継続し、現地スタッフから聞き取り調査している。

専門家らは、新たな地雷や爆発物の存在を発見していないが、周囲のフェンスの間にまだ地雷があることを確認した。IAEAは、1,2,5,6号機の原子炉建屋の屋上および全6基のタービン建屋へのアクセスを要求し続けている。

この1週間、専門家らは大型冷却池の隔離ゲートを訪れ、ゲートの完全性を確認し、6月初めのダム決壊後にカホフカ貯水池の側面に施された補強工事も視察した。

IAEAチームはまた、4号機の中央制御室や3号機の原子炉建屋、2号機のタービン建屋、液体廃棄物処理施設を訪問した。

6基は引き続き停止中であり、うち1~5号機は冷温停止状態、6号機は温態停止状態にあり、さまざまな原子力安全機能を維持するために必要な蒸気を供給している。例えば、6号機からの蒸気は、IAEA専門家が今週訪問した液体廃棄物処理施設で使用されている。

視察やZNPPスタッフとの協議を通じて、IAEAの専門家は、廃棄物の日常的な発生とその後の処理により、サイト内の液体廃棄物のインベントリは多様であることを知らされた。現在、処理すべき液体廃棄物があるが、使用済燃料の冷却に必要な水を含む、水の純度を維持するために不可欠なイオン交換樹脂の再生から生じる廃棄物なども処理せねばならない。

既報のとおり、IAEA専門家はZNPPに対し、必要な蒸気を供給するための外部ボイラーを設置し、全基を冷温停止状態にできるよう、あらゆるオプションを検討するよう強く求めてきた。また、以前報告したとおり、ウクライナの国家規制当局であるSNRIUは、6基すべての運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発出している。

ウクライナのその他の3つの原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームはこの1週間、新たな原子力安全とセキュリティ上の問題はなかったと報告した。IAEA専門家の交替が、今週初めにチョルノービリ・サイトで無事実施された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-183-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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