ザポリージャの原子力安全、セキュリティ、保障措置の現況
―IAEA事務局長による第2回サマリーレポート(2022年9月6日発表)から抜粋―
ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の概況
18
ウクライナ最大の原子力発電所であるZNPPは、VVER-1000(出力100万kW級のロシア型PWR)×6基で構成され、エネルゴアトム社が運転を担当している。ウクライナからの3月4日付報告によると、ロシア軍は同日までにZNPPサイトを制圧した。ウクライナ国内への電力供給のため、8月24日時点で2基が運転を継続し、残る4基はメンテナンスなどで冷温停止中。運転中だった2基のうち1基は9月1日に自動停止(原因は現在調査中)したが、2日には運転を再開した。
19
9月3日、外部送電線の切断により、運転中だった2基に必要な電力が減少し、うち1基は運転を停止した。残る1基は運転を継続している。
20
ZNPPでは4月以来、数多くの事象が発生し、IAEAが掲げる「原子力安全およびセキュリティの7つの不可欠な原則」を脅かしてきた。
施設の物理的な健全性
21
原則1は「原子炉、核燃料用プール、放射性廃棄物保管施設等の施設の物理的な健全性が維持されること」である。
22
ウクライナからの3月4日付報告によると、ロシア軍は同日までにZNPPサイトを制圧した。運転員訓練センター、研究棟、事務棟がなんらかの発射物により甚大な損害を被った。6号機の変圧器も被害を受けたが、数日後に復旧された。ウクライナは、ZNPPの6基の物理的な健全性および安全/セキュリティシステムは影響を受けていない、とIAEAに報告。プラントは通常通り運転されており、サイト内の放射線モニタリングシステムも十分機能しており、放射性物質の外部への漏洩もないと強調した。サイト内の使用済み燃料プールも通常通り管理されており、使用済み燃料の乾式貯蔵施設を目視により確認したが、いかなる損害も見受けられなかったという。
23
その後ウクライナからの報告では、4月に入り、巡航ミサイルがZNPPサイト上空を通過するなど、原子力施設の物理的な健全性を脅かす可能性のある事態が発生。7月~8月には、1号機のタービン建屋および2号機のタービン建屋にロシア軍の軍事物資が保管され、装甲兵員輸送車2台と軍用トラック6台がサイト内に配備されている。
24
8月5日には、砲撃でプラントの運転を支援する窒素・酸素ステーションと補助建屋が損傷。消防隊が速やかに消火したものの、修理が必要となった。
25
ウクライナからの報告では、この砲撃によりZNPPの外部電源システムが損傷した。750kVの外部送電ラインの配電盤付近で爆発が起こったために、変圧器が停止したという。続く8月6日には、砲撃により外部電源システム、使用済み燃料施設、放射線管理システムを構成する通信ケーブルなどが損傷した。
26
ZNPPサイトへの砲撃によるこうした被害報告を受け、グロッシー事務局長は8月6日に声明を発表。サイトで進行中の事態に警鐘を鳴らし、ZNPPへの攻撃もZNPPからの攻撃も破滅的な事態をもたらしうる極めて危険な火遊びであると指摘。ウクライナおよび周辺国の公衆衛生を脅かす事態を回避するため最大限の自制を求めた。また事務局長は、ZNPPの原子力安全とセキュリティを脅かすいかなる軍事行動も容認できないとし、軍事行動の即時停止を強く求めた。
27
8月11日には砲撃によりZNPPの消防署や下水処理場が損害を受けた。いずれも施設の物理的な健全性を損なう事態である。
28
8月20~22日の砲撃では、スタッフが建屋へのアクセスに利用する渡り廊下、研究棟や化学施設などZNPPのインフラが損傷した。
29
ウクライナ規制当局(SNRIU)の8月24日付報告によると、依然として多数のロシア軍の軍事物資がサイト内に保管されている。
30
IAEA支援/調査ミッション(ISAMZ)の派遣中の9月3日も、ISAMZのメンバーはZNPPサイト周辺での砲撃に遭遇しており、メンバーは事務棟地下へ避難している。それ以外にもISAMZは、原子炉建屋付近での以下の損害状況を確認した。
- タービン潤滑オイル保管タンク
- 使用済み燃料移送車車庫など各種一般建造物の屋根部分
- 新燃料や放射性固体廃棄物を保管する原子力用建屋
- 訓練センター
- 物理的防護システムの集中監視建屋
- 使用済み燃料の乾式貯蔵施設付近の放射線モニタリング装置が設置されたコンテナ
31
ISAMZはZNPPサイト内の路面状況、各種建屋の壁面や窓、各号機をつなぐ通路などの損害状況を、実地で確認した。
32
ISAMZは、砲撃は安全系の構造物やシステムおよびコンポネントの健全性を損ね、死傷者を伴う甚大な事態が起こりうると懸念を表明。ZNPPから帰還したグロッシー事務局長は、これまでは幸いにも原子力非常事態には至らなかったが、重要な安全機能(閉じ込めや冷却)に影響を及ぼす可能性があり、原子力安全とセキュリティにとって甚大な脅威であると強調した。
33
ISAMZは現地で実施済みあるいは進行中の修理作業を評価し、砲撃による損害の完全な復旧にはさらなる修理作業が必要であると確認した。現地の放射線レベルは通常の範囲内だという。
これまでの砲撃は幸いにも原子力非常事態には至らなかったが、重要な安全機能に影響を及ぼす可能性があり、原子力安全とセキュリティにとって甚大な脅威であることに変わりはない。
勧告1
ZNPPのスタッフの安全とプラントの健全性を護るため、IAEAはZNPPサイトおよびその周辺への砲撃を直ちに停止するよう勧告する。ZNPP周辺に原子力安全/セキュリティ保護エリアを設定すべく、関係者が合意することが必要。
安全・セキュリティに関わるシステムと設備
34
原則2は、「すべての原子力安全・セキュリティに関わるシステムと設備が、常に完全に機能すること」である。
35
IAEAは、最近の砲撃が安全性に影響を及ぼし、プラントシステムと設備に損傷を与えたとの報告を受けた。具体的には、6基中1基で緊急防護装置が作動し、非常用ディーゼル発電機が稼働、窒素・酸素ステーションと補助建屋が損傷した。
36
継続的な砲撃は、その他の重要なプラントシステムや設備に損害を与えかねず、放射性物質の環境への大量放出など、より深刻な事態につながる可能性がある。したがって、ZNPPの安全性とセキュリティを脅かす砲撃はすべて回避されるべきである。現地に存在する軍事物資や重要地域のすぐそばで発生している軍事行動は、物理的防護システムを損なうものである。
37
ISAMZの派遣中、ウクライナ人プラントスタッフとマネージャーは、ZNPPのすべての安全システムは正常に稼働しており、物理的防護システムも稼働しているとISAMZに伝えた。しかし、彼らは、ZNPPがロシア軍に占拠された後、物理的防護の責任は既存のウクライナの法律のもとではZNPPの管理者にあるにもかかわらず、サイト(防護対象)への警備やアクセス制限などの重要な機能の一部はロシア軍司令部に掌握されていることも報告した。
38
9月2日、ISAMZは6号機の中央制御室を訪れ、同機のすべての安全システムが正常な状態にあることを確認した。
39
ISAMZは、ZNPPのさまざまな場所で、ロシア軍関係者、車両、軍事物資の存在を確認し、そのなかには、1、2号機のタービン建屋の地上階に数台の軍用トラックや原子炉建屋をつなぐ高架下に配置された軍用車両もあった。ISAMZは、ロスエネルゴアトム社の専門家グループの存在も確認した。この専門家グループの役割は、ZNPPの管理者に原子力安全、セキュリティ、運営に関するアドバイスを提供することだ、とウクライナ人プラントスタッフとマネージャーからISAMZに対し説明があった。
ZNPPのすべての安全システムが通常運転を維持し、物理的防護システムが稼働していることは、運転員の努力の賜物である。しかし、こうした努力は、軍関係者や装備、ロスアトム社の代表者が現場にいるという、非常に厳しい状況下で行われている。
勧告2
IAEAは、物理的防護システムが設計および認可通りに運用され、ZNPPにおける安全性とセキュリティシステムの継続的な機能とシステムおよび設備の運用が確保されるべきであることを勧告する。そのためには、安全・セキュリティに関わるシステムと設備の運用を妨げる可能性のあるエリアから車両を撤去することが求められる。
運転スタッフ
40
原則3は、「運転員は原子力安全・セキュリティ上の義務を果たし、不当な圧力から解放された意思決定ができる能力を有していること」である。
41
3月4日以降、通常の幹部とスタッフは、引き続きZNPPの運営と日常業務を行っているが、サイトはロシア軍司令官の管理下にある状態が続いている。3月13日、ウクライナはIAEAに対し、ロシア国営原子力企業「ロスアトム社」からの派遣者少なくとも11名が、サイトに常駐していることを報告した。4月29日、ウクライナ当局は、ロスアトム社傘下のロスエネルゴアトム社がZNPPに原子力専門家グループを派遣したことを報告した。専門家らは、発電所の管理・運営やメンテナンス・修理活動、セキュリティ・アクセス管理、核燃料・使用済み燃料・放射性廃棄物管理に関連する側面など、原子力発電所の機能に関する「機密事項」について、プラント幹部に対し毎日報告を要求した。IAEAは、ロスアトム社のシニア技術スタッフの存在が、通常の業務上の指揮・命令系統の干渉につながり、意思決定の際には潜在的な摩擦を生む可能性があると考えている。エネルゴアトムのプラント運営チームは、1日3交代制でローテーションを組んでいるが、この状況はスタッフに悪影響を及ぼしている。
42
IAEAは4月、ウクライナの規制当局(SNRIU)から「ZNPPのスタッフは信じられないようなプレッシャーのなかで働いている」「ZNPPのスタッフのモラルとメンタルの状態は非常に悪化している」と報告を受けた。プラント幹部はIAEAに対し、直近の砲撃が安全システムに影響を与え、プラントのシステムや設備が損傷したと報告した。このような最近の事象は、同時にZNPPの運転スタッフに対する不安とプレッシャーを増大させた。シフトの変更を止めざるを得ないケースもあった。運転スタッフが常に高いストレスとプレッシャーに晒されながら原子力発電所を運転している状況は持続可能ではなく、ヒューマンエラーの増加につながり、原子力安全に影響を与える可能性がある。
43
8月6日、乾式使用済み燃料貯蔵施設エリアで作業中のスタッフ1名が、新たな砲撃で負傷した。施設に物理的損害も発生した。さらに、ウクライナがIAEAに報告したところによると、ZNPPスタッフはオンサイトの緊急時危機センターへのアクセスを制限されている。
44
グロッシー事務局長は声明のなかで再三、ウクライナ人のスタッフが直面している困難な状況にますます懸念を抱いていることを強調し、スタッフをめぐる状況の悪化について懸念してきた。スタッフはロシア軍の支配下で、極めてストレスの多い状況で発電所を運営している。事務局長は、この状況は明らかに手に負えないものであり、スタッフの日常についてさらに懸念が深まったと述べている。事務局長は、ZNPPやその周辺、あるいはそのスタッフに対して行われた暴力行為を非難し、ロシアの占領下で発電所を運営しているウクライナ人スタッフが、彼ら自身の安全だけでなく、施設自体の安全を損なう脅迫やプレッシャーを受けずに、重要な任務を遂行できることが不可欠であると指摘した。
45
ISAMZの派遣中、ウクライナ人プラントスタッフとマネージャーはISAMZに対し、ZNPPの運転に係る決定は、技術仕様書やその他の関連技術文書に基づいてプラントのシニア運転マネージャーが行っていると報告した。また中央制御室では、ライセンスを有するスタッフが不足しているものの、8時間の定期的なシフト交代が行われており、通常のオペレーションを行うのに十分な人員が配置されているという。
46
ウクライナ人プラントスタッフとマネージャーは、中央制御室の運転スタッフは必要に応じて訓練を受け、定期的な訓練やその他の演習に参加しているほか、フルスコープ・シミュレータは訓練や演習のためにまだ完全に機能していることを保証した。
47
さらに、現場で見つかった破損のなかには、窓ガラスが割れていたり、建物の構造が破損していたりと、スタッフにとって危険な状態が続いていることも報告された。またISAMZは、ZNPPスタッフが、スプレー冷却池、建物の屋上、取水口付近の建物など、一部の場所に自由に立ち入ることができず、冷却池エリアへの立ち入りは、現場の軍人が許可する必要があることを確認した。ISAMZ後、事務局長はこのような制限は、緊急事態が発生した場合に運営スタッフの一部の場所への出入りが制限され、その結果、通常業務や緊急時対応の有効性が損なわれる可能性があると懸念を表明した。
48
ウクライナ人プラントスタッフとマネージャーはISAMZに対して、物理的防護分野の40%のポジションに必要な人員が配置されておらず、サイトでの継続的な物理的防護を確保するために、既存スタッフの作業負担が大幅に増加していると報告した。さらに、放射線安全部門のスタッフ数は172名で、これは通常の職員数の93%に相当し、残りの職員は産休や通常休暇(6%)、避難中(1%)という。
49
緊急時対応への準備と対応(EPR)のための人員配置について、ウクライナ人プラントスタッフおよびマネージャーによると、通常の人員配置は3シフト1,230名であるのに対し、現在は3シフト907名だが、ISAMZはそれでもEPRを効果的に実施することができると評価した。また、プラントの消防団も通常150名のところ、80名しかおらず、人員不足を補うため、通常4交代・24時間体制のところ、3交代・48時間体制に変更している。
ロシア軍の占領下でプラントを運営しているウクライナ人スタッフは、特に限られた人員の中で、常に高いストレスとプレッシャーに晒されている。これは持続可能なものではなく、原子力安全に影響を与えるヒューマンエラーの増加につながりかねない。十分な数の運営スタッフが、脅威や圧力によって彼ら自身だけでなく、施設自体の安全が損なわれることなく、重要な職務を遂行できること、またスタッフとその家族の健康を確保するために必要なあらゆる支援が提供されなければならない。ISAMZが現場にいることで、適用される基準に沿ってこれらの問題を特定、対処を支援することができる。
勧告3
IAEAは、運営スタッフに対し家族への支援を含む適切な労働環境を再確立するよう勧告する。さらに、事業者は原子力安全とセキュリティの第一義的な責任を負っているため、明確な責任と権限のもと、その使命を果たすことができなければならない。
外部電源による電力供給
50
第4の原則は、 「すべての原子力サイトで、外部電源(送電線)からの電力が確実に供給されること」である。
51
ZNPPを送電網に接続する送電線への影響が懸念されている。このサイトには、高電圧 (750 kV) の外部送電線が4系統と予備状態の1系統がある。4系統のうち2系統がロシアの管理下に置かれていた初期の頃に損傷を受け、3系統目も一時失われた。IAEAは3月に、発電所がその時点で利用可能な送電線で安全に運転できたこと、ならびに、外部電源が失われた場合に原子炉の安全な運転に必要な電力 (と原子炉を冷温停止に導く能力) を供給することができる非常用ディーゼル発電機 (EDG) がサイト内に20基装備されていたことを評価した。それにもかかわらず、2系統の送電線の喪失は施設の深層防護に影響を与えた。ウクライナによると、ZNPPは同国の原子力・放射線・環境安全基準に準拠して運転を続け、環境、火災、放射線の状況は国の基準の範囲内であり、サイト内の放射線レベルは自然放射線レベルと同等だという。
52
ウクライナの報告によると、軍事活動の影響で、サイトへの外部からの電力供給がより少ない送電線に依存することとなり、少なくとも1回はディーゼル発電機を起動する必要が生じた。これらの事例はいずれも、外部電源による確実な電力供給に関する原則に反していた。設計どおりに外部電源による電力供給を利用可能な状態に維持し、外部電源の予期せぬ、意図しない損失を最小限に抑えて、あらゆる条件下で発電所の安全な運転を確保することが極めて重要である。
53
8月5日、ZNPPが砲撃の標的となり、750 kV送電線の配電盤付近で数回の爆発が起こり、変圧器と予備変圧器が停止した。原子炉1基が影響を受け、緊急防護システムが作動し、同機の電源を確保するために非常用ディーゼル発電機が作動した。同機は送電網から切り離されたままである。
54
8月13日、Kakhovska送電線(750 kV)の開閉装置も砲撃で損傷した。
55
ウクライナによると、8月22日の砲撃は近くの火力発電所の変圧器に損傷を与え、この発電所とZNPPを結ぶ送電線の切断が数時間にわたって続いたものの、同日中に復旧したという。
56
8月22日時点で、火力発電所への復旧した予備の送電線の他、合計4系統の送電線のうち、ZNPPが送電網に接続できたのは1系統しかなかった。
8月6日、ZNPPサイトへの砲撃が再開された。ウクライナの報道によると、使用済み核燃料貯蔵施設周辺で作業をしていたZNPPの職員が負傷した。ZNPPの乾式使用済み燃料貯蔵施設の近くでの砲撃は、発電所の外部電源による電力供給システムを損傷し、使用済み燃料貯蔵施設のエリアの壁、屋根、窓、及び放射線制御システムの一部である通信ケーブルを損傷し、3つの放射線検出センサーの機能に影響を与える可能性があった。今回の砲撃の結果、750 kV高圧送電線が停止した。同時に、4号機の緊急防護システムが作動した。ウクライナはさらに、ZNPPのスタッフがZNPPのサイト内にある危機管理センターに立ち入ることを制限されたと報告した。SNRIUは、ZNPPとの通信は 「非常に限定的で断片的」 であり、発電所の外部電源の利用は引き続き限定的であると述べた。事務局長は、8月5日~6日までの報告書を分析し、砲撃が紛争の開始時に概要を示した7つの原則のほぼすべてを危うくしたことを強調した。
57
8月25日、ウクライナは、ZNPPがかろうじて残る750 kV送電線によって供給される電力を一時的に失ったと報告した。同日中に、ZNPPはこの接続から電力を少なくとも2度失った。750 kV送電線はその後復旧した。電力遮断の間、ZNPPは、必要に応じて予備電力を供給可能な近くの火力発電所からの330 kV送電線に接続されたままだった。また、ウクライナの報告によると、750 kV送電線による電力遮断の結果、ZNPPの二つの運転中の原子炉が電力網から切り離され、それらの緊急防護システムが作動したが、すべての安全システムは作動したままであったという。送電線が復旧した後も、6基すべてが送電網から切り離されたままだった。8月6日、事務局長は、原子力安全を確保するためには、送電網からの外部電源による確実な電力供給が不可欠であることを改めて強調した。
58
IAEA支援/調査ミッション(ISAMZ)は、8月14日に750 kVのKakhovskaおよびSouth Donbas送電線の変圧器などが破壊されたZNPPの開閉所への砲撃による損傷、ならびにZNPPと火力発電所を結ぶ150 kVと330 kV送電線への砲撃による損傷を視察した。さらに、9月3日、ZNPPのウクライナ人プラントスタッフとマネージャーから、残る750 kV/330 kV送電線だけが前夜に軽微な損傷を受け、修理が必要であると報告を受けた。
59
ZNPPのウクライナ人プラントスタッフとマネージャーは、火力発電所への750 kV/330 kV送電線が復旧する前の8月25日、発電所が4系統の送電線すべてを喪失したとき、1号機から5号機の17基のEDGs (サイト内の2基の共通EDGを含む) が設計通りに稼働開始し、6号機は単独運転モードに入り、独自の電源を供給したと報告した。6基すべてのユニットは、単独運転モードに入り、接続プロセスを完了するために他のユニットに3~4時間、電力を供給する能力を備えている。
60
また、通常、各EDGには10日間の稼働を維持するための燃料インベントリがあり、サイト全体で2,250トンのディーゼル燃料が利用可能であることも確認された。発電所は、燃料供給業者と契約していた。しかし、ZNPPサイトへの燃料の輸送は現状では困難な状況にあり、同サイトへの燃料の輸送を可能にするための検討が進められていた。
61
ISAMZは、ZNPPの各ユニットには800 kW (e) の移動式ディーゼル発電機が搭載されており、必要に応じて他のユニットにも使用できることを確認した。また、サイトでEDGが失われた後、約一時間で接続プロセスが完了して完全に機能し、基本的な安全システムに電力を供給できるようになることを確認した。ISAMZはまた、サイトの各ユニットに移動式の大容量水ポンプが利用できることにも言及した。
62
ISAMZは、開閉所周辺の機器が最近の砲撃により損傷していることを確認し、スペアパーツが特注品であるため、この機器の一部の修理には長期間を要することを確認した。
ZNPPは、幾度か軍の活動の結果、外部電源による電力供給を完全にあるいは部分的に失った。発電所の安全運転を継続するためには外部電源が不可欠である。
勧告4
IAEAは、外部電源を供給する送電線の冗長性が設計通りでいつでも再確立され、利用可能であるべきであり、また、電力供給システムに影響を与える可能性のあるあらゆる軍事活動の終了を勧告する (勧告1を参照) 。
物流サプライチェーン
63
第5の原則は、 「原子力サイトへ、またはサイトから、途切れなく物流サプライチェーンと輸送が行われること」 である。
64
IAEAは、ZNPPへのサプライチェーンが中断されたことを何度か知らされており、保守及び修理工程のための予備品及び消耗品を有することに問題が生じた。
65
ISAMZでは、重要なセーフティーストアとセキュリティストアを支えるロジスティックサプライチェーンを維持する上で、前述の課題が確認された。この事実にもかかわらず、ISAMZはZNPPのウクライナ人プラントスタッフとマネージャーから、予備部品の不足のために使用不能になった安全システムはないと知らされた。しかし、一部の重要なオーバーホール保守作業 (EDGや主循環ポンプなど) は、予備部品不足のために遅れ、定期保守に切り替えられていた。
66
ISAMZは、サイトへのスペアパーツとディーゼル燃料の輸送は非常に困難であり、スペアパーツの輸送はケースバイケースでのみ可能であり、個人の手配に基づいて予測不可能な方法であることに留意した。同様に、現在の消防車隊を維持することは、スペア部品が入手できないために困難である。
67
ZNPPによると、緊急時対応に必要な資材の備蓄は98.5%完了しており、これは十分であると評価された。しかし、緊急事態が発生した場合、備蓄物資の輸送やその他の支援のために、他の発電所ら外部支援を受けることは困難であると、ISAMZは知らされた。例えば、発電所の消防署が損傷したため、その人員と設備はエネルゴダール市の消防署に移転されたが、その結果、火災が発生した場合に発電所の消防隊が発電所に到達するのにより多くの時間が必要となり、火災の進行のリスクは増加する。
機能的かつ効果的な物流サプライチェーンを維持することは、重要な安全・セキュリティ・システムの運用性を支援し、それらの損傷が適時に修復され、オンサイトまたはオフサイトでのいかなる予測不可能な事態を回避することになる。
勧告5
IAEAは、関係者すべてがIAEAの支援及び支援プログラムを適宜利用して、安全な輸送回廊を含むあらゆる条件の下で、原子力発電所の継続的な安全ならびにセキュリティのために効果的なサプライチェーンを確保することにコミットし、貢献すべきであることを勧告する。
オンサイトおよびオフサイトでの効果的な放射線監視システムと緊急時対応計画と対策
68
第6原則は「オンサイトおよびオフサイトでの効果的な放射線監視システムと緊急時対応計画と対策が存在すること」である。
69
8月6日の砲撃で使用済み燃料貯蔵施設の放射線モニタリングシステムの一部である通信ケーブルが損傷し、3つの放射線検出センサーの機能に影響が出た可能性がある。発電所職員がZNPPのサイト内危機管理センターへのアクセスを制限し、サイト外のセンターへのアクセスが可能であっても、緊急時対応活動に影響を与える可能性がある。
70
ウクライナの規制当局(SNRIU)が8月10日に発表した資料によると、オフサイトでの緊急時対応計画と対策はZNPPでは準備されていない。
8月11日にさらなる砲撃が行われ、ZNPP内の消防署が被害を受けたとウクライナから報告されたが、これらはすでに損なわれていた緊急時対応能力をさらに損なった。
71
9月2日付の報告では8月25日と26日の砲撃により、サイト全体で約24時間放射線モニタリングシステムが停止した。これは電源ケーブルの損傷によるもので、その後復旧した。現在は通常の放射線モニタリングが行われており、ZNPPの周囲30kmの放射線レベルは通常通り。発電所南側は、放射線測定器の電源ケーブルが損傷のため、測定できておらず復旧作業中。
72
ISAMZは、ZNPPのプラントスタッフとマネージャーは緊急時対応計画と訓練について確認した。
前回の訓練は2021年11月に実施し、次回は2022年11月に予定されている。
73
ISAMZは、現場での緊急対応措置の最終決定の責任は、発電所所長に委ねられていることを確認した。しかし、発電所側は現在、地元自治体とコミュニケーションがないため、市民保護の観点から自治体へ提言することができない。
74
ZNPPスタッフはロシア軍が拠点にしている危機管理センターへの立ち入りはできない。代替の危機管理センターが設置されているが、この代替センターは必要なすべての機能を果たすことができない。例えば、代替センターには独立した電力供給や換気システムがなく、緊急対応に関わるすべての関係者とのコミュニケーションを可能にするインターネット接続もない。ザポリージャ市内にあるオフサイトの緊急センターは完全に機能しているとの報告は受けている。
原子力また放射線に関する緊急事態にオンサイトおよびオフサイトにおいて効果的な対策を確保することは、プラントの安全性とセキュリティを常に脅かす状況が続く中で最も重要である。
勧告6
(1)緊急時対応を訓練・演習し、これらの機能を支える緊急時対応施設を再構築すること。(2)定期的な訓練、明確な意思決定プロセス、利用可能な通信手段と後方支援を通じて緊急対応を再構築すること。ISAMZは、このような訓練の準備と支援を提供することができる。
コミュニケーション
75
第 7 の原則は、「規制当局などと信頼できるコミュニケーションが行われること」である。
76
ZNPPとSNRIUの間の通信は、3月以降、多くの通信回線が機能しないか、不安定である。現在、携帯電話や電子メールによるコミュニケーションは可能であるが、ウクライナ規制当局による現地視察は行われていない。
77
5月1日にインターネット接続が失われたと報告されたが、5月3日に再接続され、完全に稼働している。
78
ZNPP との通信は8月6日の砲撃後、「非常に限定的で断片的」。SNRIUが8月10日に発表した資料では、「携帯電話と電子メールのみ利用可能であり、外部からの影響を受けやすい」としている。
79
同資料で、ZNPPでは物理的な検査が不可能であるため、当局の検査官はその機能を果たせていない。ZNPPでの主な活動は、情報の収集、分析、レビューである。規制当局との確実なコミュニケーションという原則は、過去数か月間一貫して違反状態が続いている。
80
ZNPPのスタッフはSNRIUやオフサイトの緊急組織との連絡は携帯電話で部分的にしか行えず、その他の連絡手段(ファックス、音声・ビデオ会議、インターネット接続、衛星回線など)も利用できなかった。もしインターネット接続が可能であれば、SNRIUやエネルゴアトム、他のプラントとの通信が可能であっただろう。
81
SNRIUによっての現場検査が2022年4月まで行われていたが、現在はリモートのみで行われている。
82
通信システム能力の欠如に関連する課題を確認。この重大な欠点は、現在の緊急時対応の指揮統制の相互運用性の問題を悪化させ、あらゆる安全またはセキュリティ事象に地域、地方、国内、国際的に結束して対応する能力を失わせる。既存の携帯電話によるコミュニケーションを強化するために、インターネットや衛星への接続を早急に復旧させることが最優先である。
紛争が始まって以来、コミュニケーション手段やチャンネルの不足が指摘されている。この重大な欠点は、適切な規制監督を受けながら安全かつ確実なプラントの運転を維持し、現地で効果的な対応を確保するという現在の課題を悪化させるだけである。この重大な欠点は、原子力安全やセキュリティに関する事象に対して、国際的にも結束して効果的な対応を確保する上で、現在の課題をさらに悪化させるものである。
勧告7
施設の安全かつ確実な運用に必要な全ての外部組織と、インターネット及び衛星接続を含む、信頼性のある十分な通信手段及びチャンネルを確保すること。
第2回サマリーレポート(2022年9月6日発表)はこちら
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)