米政府 2050年原子力3倍化に向けたロードマップを発表
2024年11月29日
米バイデン―ハリス政権(ホワイトハウス)は11月12日、アゼルバイジャンのバクーにおける第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29、11月11日~24日)会期中の11月12日、今後の同国の原子力発電拡大に向けた目標と取組みを示した「米国の原子力を安全かつ責任を持って拡大する:展開目標と行動の枠組み(Safety and Responsible Expanding U.S. Nuclear Energy: Deployment Targets and a Framework for Action)」を発表しました(11/25付原子力産業新聞にて既報)。
同資料によると、米国は、2050年までに温室効果ガス排出量をネットゼロにするためには、出力規模でおよそ15億~20億kWのカーボンフリー電力を導入する必要があるとしており、このうちの約30~50%は、原子力発電などのクリーンで安定した電源が必要、と分析しています。そのため、米国政府は、現在の約1億kWの原子力発電設備容量について、2050年までにさらに2億kWを新規導入する目標を打ち出し、これらを大型炉や小型モジュール炉(SMR)、マイクロ原子炉のいろいろなサイズの第三世代+(プラス)炉および第四世代炉の新規建設、さらに既存炉の運転期間延長、出力増強、経済性を理由に閉鎖された原子炉の再稼働などでまかなうとしています。
そして、政府は、この目標を達成するために、より近い将来の目標として下記を掲げています。
- 2035年までに3,500万kWの新規設備容量を稼働または着工し、原子力導入を活発化させる。
- 2040年までに導入ペースを年間1,500万kWに加速、拡大し、国内外のプロジェクト展開を支援する。
また、これらの目標に従って米国の原子力発電設備容量を拡大すると、下記を実現するとしています。
- 何十万もの持続可能かつ高サラリーな雇用の創出
- 国内の原子力サプライチェーンと製造業の強化
- エネルギーの信頼性とグリッドの強靭性(レジリエンス)の強化、および手頃な電力価格の実現
- 2050年ネットゼロエミッション経済の目標達成
- 原子力エネルギー技術とイノベーションにおける米国のリーダーシップと国際競争力の強化
一方で、政府は、これらの目標達成に必要な行動を実施するためには、①公衆衛生と安全の確保、②環境保護、③エネルギーの手頃な価格の確保、④コミュニティとの有意義な関与とコミュニティの利益の提供、⑤先住民の主権の尊重、⑥環境正義の推進、⑦国家安全保障の促進、という米国政府の中核的価値観と指針に沿ったものでなければならないともしています。
今回提示した原子力拡大に向けた行動の枠組みは、エネルギー省(DOE)、原子力規制委員会(NRC)、国防総省(DOD)などによる既存の取組みを基盤としており、米国政府が既存の法定権限の範囲内で、民間部門や電力需要家と協力して取り組むことができる行動を概説しています。具体的には、①新規大型炉の建設、②小型モジュール炉(SMR)の建設、③マイクロ原子炉の建設、④許認可の改善、⑤既存炉の延長、拡大、再稼働、⑥労働力の育成、⑦コンポーネントサプライチェーンの開発、⑧燃料サイクルサプライチェーンの開発、⑨使用済み燃料管理――の計9つの主要な柱にわたって、具体的な行動を詳述しています。これらは全部で約30あり、「税額控除による原子力の納入コストの削減」、「原子力プロジェクトのファイナンスの促進」、「初期プロジェクトの追跡」など一部の行動は、複数の柱において必要な行動として概説されています。
ここでは、政府が示した行動枠組みである「9つの柱」と各柱で示された「具体的な行動」を紹介します。
新規大型炉の建設
- 税額控除による原子力の納入コストの削減:IRA(インフレ抑制法)は、温室効果ガスを排出しない発電事業者に対して、新しい技術中立的クリーン電力生産税額控除とクリーン電力投資税額控除を制定した。これらの税額控除、特に、クリーン電力投資税額控除は、資本コストをより管理しやすくする。財務省と内国歳入庁は、原子力発電がクリーン電力生産および投資税額控除の対象となるゼロエミッション技術であることを明確にするための提案を初期のガイダンスで発表し、今後も必要に応じて追加ガイダンスを提供する予定である。これらの税額控除の価値は、エネルギー・コミュニティや、閉鎖した石炭火力発電所のサイトなど、ブラウンフィールドに立地するプロジェクトで高めることができる
- 原子力プロジェクトのファイナンスの促進:DOE融資プログラム局(LPO)は、対象となるプロジェクトに融資や融資保証の形で魅力的な資金を提供し、原子力のような資本集約的なクリーンエネルギー技術の導入に関連する借入コストを大幅に削減することができる。LPOは、大量かつ大規模な展開を促進し、ファスト・フォロワー(fast followers)を促す、革新的なプロジェクトに融資することで、安全、クリーンで確実、信頼性のある電力を供給する原子力技術を支援する準備ができている。LPOは、タイトル17革新的クリーンエネルギー融資保証プログラムの下、大型の新規原子炉のような革新的原子力プロジェクトや、タイトル17エネルギーインフラ再投資プログラムの下、既存のインフラを再利用して既存のサイトに大型原子炉を増設するような、資産・インフラ転換に対して融資することができる。
- 初期プロジェクトの追跡:大型原子炉の開発プロジェクトの開始に伴い、米国政府はこれらの初期プロジェクト(early-moving projects)を綿密に追跡し、将来の新規炉のフリート・モード(fleet-mode)での展開を可能にするために市場ニーズを注視し続ける。
- 新規建設のための既存サイトの適合性:米国政府は、現在運転中、および最近閉鎖された原子炉の所有者との関与を強化し、既存サイトに新規炉を追加する能力があるかどうかを評価する。
- これまでの大型炉の許認可に係る取組みの活用:効率的な許認可を支援するため、大型炉の早期サイト許可および/またはCOL(建設・運転一括認可)の申請済みの申請を更新し、これまでのNRCの安全性と環境に関する調査結果との関連性を証明したい申請者のために、NRC は、最新の公衆および政府の関与、必要に応じた最新の高品質データの考慮、最新の安全性および環境基準の遵守を確保しつつ、これまでの審査をベースに、活用する可能性を評価する。
- プロジェクト管理と納入:バイデン—ハリス政権は、原子力および巨大プロジェクトの建設業界の第一人者を集めた原子力発電のプロジェクト管理・納入ワーキンググループを立ち上げ、コストとスケジュールの超過リスクの原因を積極的に緩和する機会を特定し、新規炉プロジェクトをスケジュールどおりに予算内で完了させる能力の向上を支援する。
- 電力需要顧客との協力:米国政府は、クリーンな電力調達の意欲、大規模かつレジリエントな電力需要、新規原子力発電導入プロジェクトに向けて電力会社と効果的にリスクを分担できる財務力がある、有望な電力需要顧客との協力を継続する。
- 国際連携の拡大:米国は、カナダ、英国、欧州、その他の海外の電力会社、規制当局、サプライヤー、労働者団体、および関連団体との連携を拡大し、国際的な大型炉展開の教訓を国内展開に最大限に活かすことをめざす。
- 州およびコミュニティの関与:米国政府は、各州(特に公益事業委員会、エネルギー局、知事室)との連携を強め、展開が促進される可能性のある地域の解決策を各州が評価し、実施する態勢を確保する。米国政府は、影響を受ける可能性のあるコミュニティと協力し、展開が米国政府の環境正義の公約を反映するようにする。有意義な関与には、情報へのタイムリーなアクセス、意見交換の機会に関するタイムリーな通知、一般からの意見に対する慎重な検討の実証、環境正義に係わるコミュニティが効果的に関与できるよう支援するための適切な技術支援、ツール、リソースが含まれる。
- 先住民との協議と関与:米国政府は先住民と協力し、原子力の展開とそれに関連するサプライチェーンが連邦政府の信託責任、先住民の条約上の権利、および米国政府の先住民との協議と環境正義への取組みを反映するようにする。先住民との協議は、行政命令13175号および14112 号と、該当する覚書に準拠する必要がある。
小型モジュール炉(SMR)の建設
- 第三世代+SMRの展開に向けた資金支援:DOEは、第三世代+SMRの展開と設計、許認可、サプライヤー開発、およびサイト準備作業のための競争的資金として2024会計年度連結歳出法(FY 2024 Consolidated Appropriations Act)により利用可能になった、9億ドルを迅速に展開するよう取り組んでいる。このプログラムの1つ目は、複数の原子炉からなる第3世代+SMRの受注を促進しながら、最初のプラントの展開に取り組む電力会社、原子炉ベンダー、建設業者、電力需要顧客からなる最大2つの先発者チーム(first mover teams)を支援するため、マイルストーン・ベースの資金として最大 8 億ドルを提供する。2つ目は、設計、許認可、サプライヤー開発、サイト準備などの分野で国内の原子力産業を妨げてきた主要なギャップに取り組むことにより、第3世代+SMRの追加展開に拍車をかけるため、最大1億ドルを提供する。
- 先進的原子炉実証プログラム:DOEの先進的原子炉実証プログラム(ARDP)は、BIL(インフラ投資・雇用法)で計上された約25億ドルを含め、原子力の実証およびリスク低減プロジェクトに多額の資金を提供している。米国政府は、これらのプロジェクトを成功裏に完了させるため、ARDPの獲得者と引き続き協力していく。
- 原子力プロジェクトのファイナンスの促進:DOE融資プログラム局(LPO)は、対象となるプロジェクトに融資や融資保証の形で魅力的な資金を提供し、原子力のような資本集約的なクリーンエネルギー技術の導入に関連する借入コストを大幅に削減することができる。LPOは、大量かつ大規模な展開を促進し、ファスト・フォロワー(fast followers)を促す、革新的なプロジェクトに融資することで、安全、クリーンで確実、信頼性のある電力を供給する原子力技術を支援する。LPOは、タイトル17革新的クリーンエネルギー融資保証プログラムの下、先進型の第三世代+、あるいは第四世代SMRプロジェクトや、タイトル17エネルギーインフラ再投資プログラムの下、閉鎖した火力(化石燃料)発電所を原子力発電所に転換するような、資産・インフラ転換に対して融資することができる。
- 税額控除による原子力の納入コストの削減:IRAは、温室効果ガスを排出しない発電事業者に対して、新しい技術中立的クリーン電力生産税額控除とクリーン電力投資税額控除を制定した。これらの税額控除、特に、クリーン電力投資税額控除は、資本コストをより管理しやすくする。財務省と内国歳入庁は、原子力発電がクリーン電力生産および投資税額控除の対象となるゼロエミッション技術であることを明確にするための提案を初期のガイダンスで発表し、今後も必要に応じて追加ガイダンスを提供する予定である。これらの税額控除の価値は、エネルギー・コミュニティや、閉鎖した石炭火力発電所のサイトなど、ブラウンフィールドに立地するプロジェクトで高めることができる。
- プロジェクト管理と納入:バイデンーハリス政権は、原子力および巨大プロジェクトの建設業界の第一人者を集めた原子力発電のプロジェクト管理・納入ワーキンググループを立ち上げ、コストとスケジュールの超過リスクの原因を積極的に緩和する機会を特定した。
- 初期プロジェクトの追跡:複数の米国設計のSMRプロジェクトが北米で開発中である。米国政府はこれらの初期プロジェクトを綿密に追跡し、将来の新規炉のフリート・モードでの展開を可能にするために市場ニーズを注視し続ける。
- 電力需要顧客との協力:米国政府は、クリーンな電力調達の意欲、大規模かつレジリエントな電力需要、新規原子力発電導入プロジェクトに向けて電力会社と効果的にリスクを分担できる財務力がある、連邦政府機関を含む、有望な電力需要顧客との協力を継続する。
- 州およびコミュニティの関与:米国政府は、各州(特に公益事業委員会、エネルギー局、知事室)との連携を強め、展開が促進される可能性のある地域の解決策を各州が評価し、実施する態勢を確保する。米国政府は、影響を受ける可能性のあるコミュニティと協力し、展開が米国政府の環境正義の公約を反映するようにする。有意義な関与には、情報へのタイムリーなアクセス、意見交換の機会に関するタイムリーな通知、一般からの意見に対する慎重な検討の実証、コミュニティが効果的に関与できるよう支援するための適切な技術支援、ツール、リソースが含まれる。特に、石炭から原子力への移行のように、コミュニティがすでにエネルギー部門から過剰な負担を強いられている可能性がある展開には注意が必要である。
- 先住民との協議と関与:米国政府は先住民と協力し、原子力の展開とそれに関連するサプライチェーンが連邦政府の信託責任、先住民の条約上の権利、および米国政府の先住民との協議と環境正義への取組みを反映するようにする。先住民との協議は、行政命令13175号および14112 号と、該当する覚書に準拠する必要がある。
- 国際連携の拡大:米国政府は、カナダ、英国、欧州、その他の海外の電力会社、規制当局、サプライヤー、労働者団体、および関連団体との連携を拡大し、国際的なSMR展開の教訓を国内展開に最大限に活かすことをめざす。
- 国防施設および連邦施設:米国政府は、エネルギーのレジリエンスを高めるため、電力会社やや開発業者と連携し、国防施設やその他の連邦施設にSMRを導入する可能性を継続的に追求し、施設と周辺コミュニティのニーズに応えていく。
- リスク情報、技術包摂的な許認可:2019年原子力エネルギー革新・近代化法(NEIMA)の指示に従い、NRCはSMRと非水冷却炉のリスクと運転プロファイルを反映させるため、リスク情報に基づく、技術包摂的な10 CFR Part 53許認可枠組み(risk informed, technology-inclusive 10 CFR Part 53 licensing framework)を開発している。
- HALEU*の利用可能性:米国政府は、SMRやマイクロ原子炉を含む、非水冷却原子炉向けのHALEUの利用可能性を促進するための支援に引き続き取り組む。燃料サプライチェーンの開発において、米国政府は、既存のレガシーの影響を低減し、環境、コミュニティ、先住民への新たな悪影響を防止すること、経済的に困窮している地域を含む、コミュニティの経済成長を促進すること、そして全米のあらゆる地域にわたって経済活動の地理的分散を確保することを考慮し、追求する。
*HALEU(高アッセイ低濃縮ウラン)=U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン。
マイクロ原子炉の建設
- マイクロ原子炉の規制枠組み:ADVANCE法(クリーンエネルギーの多用途かつ先進的な原子力展開の加速化法)に沿って、NRCは製造施設で建設され、燃料が装荷された原子炉など、マイクロ原子炉の許認可および規制に向けた規制枠組みの開発を継続している。この作業は、DOEが柔軟かつ効率的な規制プロセスを実行した、プロジェクト・ペレから得た教訓を活用することができる。
- 国防施設および連邦施設:米国政府は、エネルギーのレジリエンスを高めるため、国防施設およびその他の連邦施設でマイクロ原子炉の展開可能性や自然災害の復旧作業を支援するための電力供給オプションとして、マイクロ原子炉を引き続き追求する。
- 初期プロジェクトの追跡:マイクロ原子炉の展開プロジェクトの開発に伴い、米国政府はこれらの初期プロジェクトを綿密に追跡し、将来の新規炉のフリート・モードでの展開を可能にするために市場ニーズを注視し続ける。
- HALEUの利用可能性:米国政府は、SMRやマイクロ原子炉を含む、非水冷却原子炉向けのHALEUの利用可能性を促進するための支援に引き続き取り組む。
- 州およびコミュニティの関与:米国政府は、各州(特に公益事業委員会、エネルギー局、知事室)との連携を強め、展開が促進される可能性のある地域の解決策を各州が評価し、実施する態勢を確保する。米国政府は、影響を受ける可能性のあるコミュニティと協力し、展開が米国政府の環境正義の公約を反映するようにする。有意義な関与には、情報へのタイムリーなアクセス、意見交換の機会に関するタイムリーな通知、一般からの意見に対する慎重な検討の実証、コミュニティが効果的に関与できるよう支援するための適切な技術支援、ツール、リソースが含まれる。
- 先住民との協議と関与: 米国政府は先住民と協力し、原子力の展開とそれに関連するサプライチェーンが連邦政府の信託責任、先住民の条約上の権利、および米国政府の先住民との協議と環境正義への取組みを反映するようにする。先住民との協議は、行政命令13175号および14112 号と、該当する覚書に準拠する必要がある。
既存炉の延長、拡大、再稼働
- 第2回運転認可更新(80年運転認可)申請審査:NRCスタッフが運転認可更新ロードマップに文書化し、さらに委員会が指示したように、NRCは第2回目の運転認可更新申請の審査を効率的かつ予測可能なものにするという目標達成に努めている。この目標を支援するため、申請者は、NRCがより一貫した審査作業を行えるよう、第2回運転認可更新申請の提出時期を調整することを検討すべきである。NRCは、このような申請のタイミングを理解し、運転認可更新および第2回運転認可更新審査の目標達成に必要なリソースを確保し、優先順位を付けるために、引き続きライセンシーと関わるべきである。
- 80年超の長期運転に向けた備え:NRCと原子力産業界は、既存原子力発電所が80年を超えて100年運転ができるよう、構造材料の継続的な健全性を確保するための研究を特定し、実施を継続すべきである。
- 出力増強と再稼働の税額控除の適格性:財務省と内国歳入庁は、クリーン電力生産税額控除およびクリーン電力投資税額控除の対象となる設備容量の追加(出力増強)および再稼働した原子力発電所の適格性を明確にする規則を提案した。米国政府は、今後の税額控除のガイダンスが、既存の原子力発電施設への投資に関して、さらなる明確性と確実性を提供するよう努める。
- 大幅な出力増強:米国政府は、DOEの軽水炉持続可能性プログラムを通じて、事故耐性燃料やLEU+を含む、大幅な出力増強を可能にする技術の開発、実証、許認可を可能にするための取組みを実施する。
- 閉鎖原子炉の再稼働:米国は、再稼働を予定しているパリセード原子力発電所の復旧・再稼働を通して得られる経験を活用し、ライセンシーがNRCの安全性、セキュリティ、環境基準を満たす場合に限り、最近閉鎖した他の原子炉の追加再稼働の可能性を評価する。
- 原子力プロジェクトのファイナンスの促進:DOE融資プログラム局(LPO)は、対象となるプロジェクトに融資や融資保証の形で魅力的な資金を提供し、原子力のような資本集約的なクリーンエネルギー技術の導入に関連する借入コストを大幅に削減することができる。LPOは、安全、クリーンで確実、信頼性のある電力供給を継続できる閉鎖済み原子炉の再稼働を支援する準備ができている。パリセード原子力発電所の再稼働もそうであったように、LPOは、タイトル17エネルギーインフラ再投資プログラムに基づいて、原子炉の再稼働に融資することができる。
- 州およびコミュニティの関与:米国政府は、各州(特に公益事業委員会、エネルギー局、知事室)との連携を強め、設備容量の追加(出力増強)が促進される可能性のある地域の解決策を各州が評価し、実施する態勢を確保する。米国政府は、影響を受ける可能性のあるコミュニティと協力し、運転期間延長、出力増強、再稼働が責任ある原子力の米国政府の指導原則を確実に反映するようにする。有意義な関与には、情報へのタイムリーなアクセス、意見交換の機会に関するタイムリーな通知、一般からの意見に対する慎重な検討の実証、コミュニティが効果的に関与できるよう支援するための適切な技術支援、ツール、リソースが含まれる。
- 先住民との協議と関与:米国政府は先住民と協力し、閉鎖原子炉が再稼働する可能性のある場所の近隣先住民と協議し、これらの原子炉が彼らのコミュニティに及ぼしたこれまでの影響を考慮に入れるようにする。米国政府は、連邦の信託責任、先住民の条約上の権利、および米国政府の先住民との協議と環境正義への取組みに対する米国政府のコミットメントがすべて盛り込まれるよう努力する。先住民との協議は、行政命令13175号および14112号、ならびに該当する覚書に準拠する必要がある。
許認可の改善
- NRCの許認可審査: ADVANCE法に沿って、NRCは、同一設計の反復展開と既存原子炉サイトの利用に対処することにより、許認可審査の効率化を実施している。ADVANCE法以外にも、NRCは、商業用原子力発電所の許認可決定に関する必須の公聴会の効率性と透明性を向上させる手続きの簡略化を承認し、原子炉安全諮問委員会(ACRS)の審査のさらなる改善を検討している。NRCは、気候変動による影響を含む自然災害による安全への影響を引き続き評価し、気候変動に対する十分なレジリエンスを確保する。
- NRCの環境審査:ADVANCE法および2023年財政責任法(Fiscal Responsibility Act of 2023)に沿って、NRCは、カテゴリーの除外、環境アセスメント、包括的環境影響声明書(generic environmental impact statements)の利用拡大などを通じて、効率的でタイムリー、かつ予測可能な環境審査の促進に取り組んでいる。
- NRCスタッフのキャパシティ:ADVANCE法の指示と権限に従い、NRCは、あらゆるタイプの申請を審査し、その後の建設と運転を効率的に監督するために必要な技術的および非技術的スキルを備えたスタッフを適切な時期に、かつ人数を確保できるよう、スタッフのキャパシティ強化に向けた、新規採用や拡大採用に取り組んでいる。
- これまでの大型炉の許認可に係る取組みの活用:効率的な許認可を支援するため、大型炉の早期サイト許可および/またはCOLの申請済みの申請を更新し、これまでのNRCの安全性と環境に関する調査結果との関連性を証明したい申請者向けに、NRC は、最新の公衆および政府の関与、必要に応じた最新の高品質データの考慮、最新の安全性および環境基準の遵守を確保しつつ、これまでの審査をベースに、活用する可能性を評価する。
- リスク情報、技術包摂的な許認可:2019年原子力エネルギー革新・近代化法(NEIMA)の指示に従い、NRCはSMRと非水冷却炉のリスクと運転プロファイルを反映させるため、リスク情報に基づく、技術包摂的な10 CFR Part 53の許認可枠組みを開発している。
- マイクロ原子炉の規制枠組み:ADVANCE法に沿って、NRCは製造施設で建造され、燃料が装荷された原子炉など、マイクロ原子炉の許認可および規制に向けた規制枠組みの開発を継続している。
- 第2回運転認可更新(80年運転認可)申請審査:NRCスタッフが運転認可更新ロードマップに文書化し、さらに委員会が指示したように、NRCは第2回目の運転認可更新申請の審査を効率的かつ予測可能なものにするという目標達成に努めている。この目標を支援するため、申請者は、NRCがより一貫した審査作業を行えるよう、第2回運転認可更新申請の提出時期を調整することを検討すべきである。NRCは、このような申請のタイミングを理解し、運転認可更新および第2回運転認可更新審査の目標達成に必要なリソースを確保し、優先順位を付けるために、引き続きライセンシーと関わるべきである。
- 効率的な許認可に向けた申請者と原子力産業の役割:申請者は、NRCとの生産的な申請前審査をふまえて、質の高い申請を提出することにより、高い効率性のある許認可を可能にする点において、重要な役割を担っている。申請者はまた、一部の原子炉技術に絞り込むことで、NRCの審査を迅速化することができる。
- 人工知能および高度計算ツールの活用:原子炉システムの計算モデリングを改善し、効率的な許認可審査を支援するために、米国政府は、人工知能(機械学習、大規模言語モデルなど)やその他のツールを活用する可能性を引き続き評価すべきである。
労働力の育成
- 労働力育成のためのDOEの資金:米国政府は、将来の需要を満たすために原子力の継続的な安全運転に必要な人材育成を支援する能力を最大化するため、2024年度連結歳出法(FY 2024 Consolidated Appropriations Act)で原子力発電所の人材育成に利用可能となった、最大1億ドルの資金を迅速に展開するよう努める。
- 労働組合などと協力し、機会を拡大:米国政府は、労働組合を含む労働団体と協力し、将来予想される展開に合わせて労働力育成プログラムが策定されるようにする。これには、閉鎖した火力(化石燃料)発電所の労働者を原子力プロジェクトに再雇用する機会も含まれる。地域に重点を置いた検討をすることで、あらゆる新規建設に同じ経験を積んだ作業チームを活用することができる可能性がある。
コンポーネントサプライチェーンの開発
- 原子力コンポーネントサプライチェーンのファイナンスの促進:DOE融資プログラム局(LPO)は、対象となるプロジェクトに融資や融資保証の形で魅力的な資金を提供し、原子力コンポーネントのサプライチェーン開発のような資本集約的なクリーンエネルギー技術の導入に関連する借入コストを大幅に削減することができる。LPOは、米国議会が2020年エネルギー法(Energy Act of 2020)で定めた新たな権限を活用して、原子力コンポーネントのサプライチェーンプロジェクトをタイトル17革新的クリーンエネルギー融資保証プログラムに追加するなど、先進原子力サプライチェーン全体にわたる、革新的プロジェクトに融資することができる。これには、先進原子炉のコンポーネントを製造するプロジェクトやそのための製造施設を建設するプロジェクトも含まれる。
- 原子力サプライチェーンの税額控除:IRA(インフレ抑制法)は、先進エネルギープロジェクトへの投資に対する税額控除である、48C税額控除(48C tax credit)に100億ドルの資金を提供した。2024年5月、財務省と内国歳入庁はDOEと共同で、クリーンエネルギーの製造とリサイクルを拡大するプロジェクトなどに最大60億ドルの48C税額控除を割り当てる第2弾を発表した。DOEの製造エネルギーサプライチェーン局は、内国歳入庁と財務省にかわって、そのプログラムを管轄している。申請を評価するにあたり、DOE は、プロジェクトがエネルギーサプライチェーンおよび製造の優先分野に対応しているかどうかを考慮する。この優先分野には、既存炉および新規炉の双方について、原子炉またはその燃料(燃料の製造、転換、濃縮、再転換のための装置の製造を含む)のための特殊なコンポーネントおよび装置の製造が含まれる。
- 原子炉品質のサプライヤー:米国政府は、産業界が原子炉品質規格保有のサプライヤー(nuclear reactor-quality supplier)を増やし、既存のサプライヤーの生産能力を拡大し、非原子力メーカーや加工業者が原子力分野に参入し、原子力品質規格の認証を取得するための訓練を受けるよう、奨励する機会を追求する。
- 原子力グレードのコンポーネント:ADVANCE法で指示されたように、NRCは、原子力プロジェクトの製造および建設における原子力グレードのコンポーネントの要件のほか、標準的な材料、部品、コンポーネントを使用できる場合はそれらを使用する機会を検討する。
- コンポーネントのサプライチェーンにおける民間部門の投資促進:米国政府は、ボトルネックとなる可能性を低減するため、国内の原子力発電所のモジュール製造工場や大型鍛造品施設の開発を促進する機会を追求する。
- 北米のサプライチェーンとの連携:米国政府は、カナダの展開を支援するサプライヤーを活用して、北米のサプライチェーンとの連携拡大を図る機会を引き続き追求する。
燃料サイクルサプライチェーンの開発
- 国内ウラン転換と濃縮:米国政府は、競争的調達プログラムを実施し、さまざまなサプライヤーに対して利用可能な資金を提供することにより、国内のウラン濃縮能力を拡大する取組みを継続する。
- グローバルな燃料サプライチェーンとの連携:米国政府は、カナダ、フランス、日本、英国のいわゆる「札幌5」を中心に、ロシアの影響から解放された、世界の民生用核燃料サプライチェーンの厚みとレジリエンスを高めるため、国際的なパートナーとの協力を継続する。これには、平和的な原子力導入をめざし、安全性、セキュリティ、核不拡散の最高基準へのコミットメントを共有する国々に対して商業用核燃料を供給するための、共同能力の拡大をめざした、補完的な国内政策の調整が含まれる。
- 核燃料サプライチェーンのファイナンスの促進:DOE融資プログラム局(LPO)は、対象となるプロジェクトに融資や融資保証の形で魅力的な資金を提供し、原子力の燃料サプライチェーン開発のような資本集約的なクリーンエネルギー技術の導入に関連する借入コストを大幅に削減することができる。LPOは、米国議会が2020年エネルギー法(Energy Act of 2020)で定めた新たな権限を活用して、原子力部品サプライチェーンプロジェクトをタイトル17革新的クリーンエネルギー融資保証プログラムに追加するなど、先進原子力サプライチェーン全体にわたる、革新的プロジェクトに融資することができる。
- 先住民との協議と関与: 米国政府は、国内での採掘、製錬、原位置回収(ISR)、先住民の土地でのウランと燃料の輸送を含む、ウランのサプライチェーンを注視し、先住民との協議のための適切なメカニズムと透明性を確保する。
- 放棄されたウラン鉱山のクリーンアップに向けたロードマップ:米国政府は、先住民の土地内および付近でのウラン採掘の重大かつ有害な遺産を認識し、連邦政府機関の上級者を参集し、修復を加速するためのロードマップを策定するなど、放棄されたウラン鉱山のクリーンアップを引き続き優先して取り組む。
使用済み燃料管理
- 統合中間貯蔵:米国政府は、政府、先住民、コミュニティ、ステークホルダーの関与と信頼を最大化する方法で、使用済み燃料キャスクと高レベル廃棄物のための1つ以上の連邦統合中間貯蔵施設(CISF)について、同意に基づくアプローチを用いた取組みを継続する。米国政府は、連邦の信託責任、先住民の条約上の権利、および米国政府の先住民との協議と環境正義への取組みに対する米国政府のコミットメントがすべて盛り込まれるよう努力する。先住民との協議は、行政命令13175号および14112号、ならびに該当する覚書に準拠する必要がある。
- 長期廃棄物管理に向けた省庁間協力:米国政府は、使用済み燃料および高レベル廃棄物の長期管理のための同意に基づく立地プロセスの開始に向けて、省庁間協力を拡大する。
- 包括的処分場基準:米国政府は、リスク情報に基づく、技術包摂的な包括的処分場基準(generic repository standards)を早期にアップデートするよう努めるなど、強固な長期使用済み燃料ソリューションのための技術的、法的、立法的、政策的基盤を確立する。
- 使用済み燃料撤去の優先付け:米国政府は、使用済み燃料キャスクを最終的に撤去するサイトの優先順位を付けるために、可能性のあるオプションを検討し、原子炉が運転を終了したサイトの近隣のコミュニティや先住民への影響を考慮する。
- 持続可能な先進燃料サイクル:米国政府は、先進燃料サイクルの技術的課題を評価するための研究開発を継続し、商業活動が経済的および技術的課題の解決に集中するよう、産業界と連携していく。
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