米国の国内原子力産業強化に向けた取組について
バイデン・ハリス政権は5月29日、国内の原子力配備に関するホワイトハウス・サミット(White House Summit on Domestic Nuclear Deployment)を主催し、原子力産業界、政府、学界のリーダーが一堂に会し、米国のエネルギー政策における原子力の役割について議論しました(6/6付原子力産業新聞にて既報)。
ホワイトハウスが同日発表したファクトシートでは、原子力建設プロジェクトのリスク軽減策を検討する新たな作業部会の設置や米国内の複数の軍事施設に電力供給するための最新鋭原子炉配備計画、先進原子炉の安全性向上に関する新たな入門書の発行など、国内の原子力産業を一層強化し、米国のクリーンエネルギーの未来を前進させるための新たな取組が発表されました。またこれに併せて、これまで政府が進めてきた原子力産業強化に向けた取組も紹介されています。
ファクトシートはこれらの取組について、米国における民生用原子力配備の加速に向けた持続的な推進力としては、過去50年近くで最大規模のものと指摘したうえで、バイデン大統領は、既存原子力発電所の運転継続、先進的原子炉技術の実証と導入の支援、許認可手続きの効率化と効果の向上、核燃料供給の確保と拡大、原子力の安全性、セキュリティ、保障措置の強化、そして米国の原子力リーダーシップを確保する野心的な戦略の支援など、原子力業界における米国のリーダーシップの再構築に向けた措置を引き続き講じていくとしています。
また、J. M. グランホルム・エネルギー省(DOE)長官は5月31日、訪問先の米国南部ジョージア州のボーグル原子力発電所でスピーチし、そのなかで、2050年ネットゼロ目標を達成するためには、米国の現在の原子力発電設備容量を少なくとも3倍に増やす必要があるとし、2050年までにさらに2億kWを追加する必要があると表明しました。
ここでは、ファクトシートで詳述されている、原子力産業強化に向けた米国のこれまでの具体的な取組について紹介します。
米国の原子力産業強化に向けた取組
雇用を維持しながら、既存の原子力を復活し活性化する
- ミシガン州のパリセード原子力発電所は、閉鎖後に再稼働する米国初の原子力発電所となる。ミシガン州コバート・タウンシップ(Covert Township)にある80万kWの原子力発電所の復旧と運転再開の資金を調達するため、DOE融資プログラム局(LPO)がホルテック・パリセード社(Holtec Palisades, LLC)に対し、15億ドルの条件付き融資を実施して支援している。このプロジェクトは、パリセード原子力発電所を再稼働させ、少なくとも2050年までにクリーンなベースロード電源を生産できるようアップグレードすることをめざしている。
- カリフォルニア州のディアブロキャニオン原子力発電所は、運転期間延長のための資金を調達するために、DOEの民生用原子力クレジット・プログラム(Civil Nuclear Credit program)を活用している。
- インフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)は、既存の原子力発電所に対して生産税額控除(production tax credit)(内国歳入法(IRC)セクション45U)を創設し、運転を継続するための経済安全保障を強化した。
新しい原子力技術の実証と展開
- DOEの先進的原子炉実証プログラム(ARDP)は、原子力実証およびリスク低減プロジェクトに多額の資金を提供している。受賞者(Awardees)には、第四世代原子炉ベンダー、開発者のテラパワー(TerraPower)、X-エナジー(X-energy)、ケイロス・パワー(Kairos Power)、ウェスチングハウス(Westinghouse)、BWXテクノロジーズ(BWX Technologies)、サザン(Southern Company)が含まれる。
- 大統領は、最大2つの第三世代+SMR実証プロジェクトに資金を提供する8億ドルの議会歳出パッケージ(Congressional appropriations package)に署名した。この実装は、今年後半にも発表される予定である。このパッケージにはまた、第三世代+SMRの設計、許認可、サプライヤー開発、サイト準備に1億ドルが計上されている。
- インフレ抑制法(IRA)は、新規の原子力発電を含むすべての温室効果ガス排出ゼロの発電の展開を支援するために、クリーン電力生産税額控除(Clean Electricity Production tax credit)(IRCセクション45Y)およびクリーン電力投資税額控除(Clean Electricity Investment tax credit)(IRCセクション48E)を制定した。
- DOEは、石炭から原子力への技術調査と情報ガイド(coal-to-nuclear technical study and information guide)を発表した。300を超える石炭発電所の転換の可能性や雇用の移行のほか、コミュニティにとって経済的な好景気になる可能性を強調している。
- 国防総省(DOD)は、防衛施設で将来使用するためのプロトタイプのマイクロ原子炉(第四世代)を開発するために、プロジェクト・ペレ(Project Pele)に資金を提供している。
- 米国輸出入銀行(EXIM)と米国国務省(DOS)は、SMRの展開を支援し、米国の輸出業者が世界のSMR市場で競争できるようにするための一連の金融ツールである「EXIM SMR資金調達ツールキット(EXIM SMR Financing Toolkit)」を発表した。
- DOEは、学際的な国立研究所の支援を受けて、産業界のパートナーと協力し、国際的な保障措置の義務とセキュリティを、最初の計画から配備に至るまで、新しい原子力施設の設計プロセスの早い段階でどのように適切に統合できるかを評価するためのリソースを提供している。
新規原子炉の建設、既存原子炉の運転期間延長、既存原子炉の容量拡大のための許認可プロセスの合理化
原子炉配備への関心が高まるなか、原子力規制委員会(NRC)は、安全性を損なうことなく効率的に審査と分析を行えるよう、許認可プロセスの改革を引き続き進めている。
- 効率的な許認可の実証:NRCは昨年12月、ヘルメス試験炉(Hermes test reactor)の建設許可をケイロスに発行した。非軽水炉に対する建設許可は、米国で56年ぶりに発給された。NRCは、ケイロスのへルメス試験炉建設許可申請の安全性と環境に係わる審査を予定よりも早く、そして予算内で完了した。
- 新しい技術中立の許認可のパスウェイ:NRC委員会は、ステークホルダーのフィードバックに応じて、申請者にとってより有用なものとするため、新しい10 CFR パート53(new 10 CFR Part 53)の技術中立の許認可パスウェイ(licensing pathways)の規則案を改善する重要な措置を講じた。
- 規制の不確実性の低減:NRCは、新しいオプションのパート 53が完成する前に、既存のパート 50および52の許認可パスウェイの使用を希望する申請者向けに、許認可ガイダンス(licensing guidance)を発行した。このガイダンスは、従来の原子炉技術の型に当てはまらない新しい原子炉コンセプトに対し規制の不確実性を低減するもの。
- 環境審査の合理化:NRCスタッフは、新しい原子炉の許認可のための環境審査を合理化するために、先進原子炉の一般環境影響評価書(advanced reactor generic environmental impact statement:GEIS)を利用する、委員会承認のための規則案を承認した。NRCスタッフはまた、既存の原子炉の運転認可を延長するための環境審査を合理化するために、運転認可更新のためのGEIS(GEIS for license renewal)をまもなく発行する予定である。
- 工場で製造されるマイクロ原子炉の準備:NRCスタッフは、工場で製造されてから配備サイトに輸送されるマイクロ原子炉の許認可を可能にする潜在的な規制ソリューション(regulatory solutions)を特定した。
- 海外パートナーとの協力の活用:NRCはこのほど、先進原子炉やSMR技術の技術審査に関する協力を強化するために、カナダ原子力安全委員会(CNSC)および英国原子力規制庁(ONR)と協力覚書(memorandum of cooperation)に署名した。
- 安全性およびセキュリティ審査の近代化:NRCは、規制の安定性、予測可能性、明確性を提供し、申請者にとっての不確実性を最小化または排除するために、代替の物理的セキュリティ(physical security)の規則案、およびSMRや非軽水炉に対する緊急時対応(emergency preparedness)要件の新規則など、新しい原子炉の許認可に関するいくつかのプロセス改善に着手した。
- 透明性と説明責任の向上:NRCは、ステークホルダーが許認可審査の進捗状況をより適切に追跡できるように許認可状況ダッシュボード(licensing status dashboards)を開始した。
サプライチェーンと労働力の向上
- バイデン・ハリス政権は、信頼できるエネルギー・セキュリティのためのサプライチェーンを確保し、ロシア産エネルギーへの依存を減らすという公約を実現しつつある。バイデン大統領は5月13日、ロシアからの濃縮ウランの輸入を禁止する「ロシア産ウラン輸入禁止法」(Prohibiting Russian Uranium Imports Act)に署名し、輸入業者がエネルギー省長官の免除を受けない限り、ロシアからの濃縮ウランの輸入を禁止した。また、2024年の連結歳出法(Consolidated Appropriations Act of 2024)により、大統領の要請で、LEUとHALEUの米国での新たな濃縮能力を飛躍的に向上させるために、最大27億2,000万ドルの資金が利用可能になる。
- セントラス・エナジー(Centrus Energy Corporation)は、多くの先進的な原子炉設計に不可欠な材料である高アッセイ低濃縮(HALEU)ウランを国内で初めて100kgを生産した。これは、米国では70年以上ぶりの生産であり、オハイオ州パイクトン(Piketon)でのDOEのHALEU実証プロジェクト(HALEU Demonstration project)における重要なマイルストーンを完了した。セントラスは、2024年からHALEU材料の生産量を年間900kgに引き上げる予定である。2022年のインフレ抑制法はまた、HALEUを使用する先進原子炉の燃料の信頼できる国内供給を確立するために7億ドルを提供している。
- X-エナジー(X-Energy)は、TRISO粒子燃料を製造する先進核燃料製造施設に対して、適格先進エネルギープロジェクトクレジットプログラム(Qualifying Advanced Energy Project Credit program)(IRCセクション48C)の下、1億4,800万ドルの税額控除を割り当てられた。
- 2024年連結歳出法(Consolidated Appropriations Act of 2024)は、大学、2年制大学、専門学校での原子力労働力の研修プログラムに1億ドルを利用可能にした。
- エネルギー省のエネルギー高等研究計画庁(Advanced Research Program Agency-Energy:ARPA-E)はまた、資本コストの削減、O&Mコストの削減および使用済燃料の低減を目的とした30のプロジェクトに対し、8,700万ドルの資金提供を含む、先進原子力の初期段階の研究開発プログラム(R&D programs)をいくつか実施している。
(2024年6月)■
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