ロシアATOMEXPO-2010原産協会参加団 概要報告(2010.6.6~12)

 原産協会の服部理事長を団長とする9名(うち4名は現地参加)からなる団が、6月5日~12日までロシアを訪問しました。同団は、7~9日にモスクワで開かれたロシア最大の原子力展示会と原子力会議「アトムエクスポ2010」に参加し、服部理事長はプレナリー・セッションで講演を行いました。またキリエンコ・ロスアトム総裁ほかのロシア原子力首脳と意見交換し、またカリーニン原子力発電所、クルチャトフ研究所、原子力大学等の関係原子力機関を訪問・見学しました。

(1)ATOMEXPO 2010

○ プレナリー・セッションと服部理事長の講演
 モスクワ中心部、クレムリン近くのマネージ中央展示会館で、ロシア最大の原子力展示会と原子力会議「アトムエクスポ2010」が6月7~9日に開かれました。「原子力発電――革新的発展の原動力」をテーマとする今年の同会議は、1,200人以上が参加(国外から約150名)、ロスアトムが主催、エネルギー省、WANO、ドゥーマ(議会下院)などが後援。8日にはキリエンコ・ロスアトム総裁も参加しました。プレナリー・セッションが開かれました。

 8日午前中のプレナリー・セッションでは、最初にS・ソビャニン・ロスアトム会長(副首相兼内閣府官房長官)が挨拶。ロシアが原子力発電において競争力と革新性を向上させるため、2020年までに40億ドルを投資する予定であり、海外に対しては「特別のパッケージ」を用意しており、トルコとは建設・所有・運転(BOO)契約を結んだほか、アンガルスクでは燃料供給保証を目的とした国際濃縮センターの設立を進めるなど、ロシアの原子力界が国際的な活動を進めていることを紹介しました。

 ロスアトムのキリエンコ総裁は、世界の原子力発電開発計画の大部分が新規導入国にあり、原子力技術供給国はこれらの需要に十分こたえられるよう、「十分にフレキシブルな対応が必要」だと述べました。キリエンコ総裁は、ロシアのトルコ、アルメニア、イラン、インド、チェコ、ウクライナなどの最近の活動を紹介しながら、各国の国産化やジョイントベンチャーなどの要求に応えるなど、導入国のニーズに応えた「フレキシブル」な協力を行っていると強調しました。

0625rsia11 午前中のプレナリー・セッションでは唯一の日本・東アジアからのプレゼンターとなった原産協会の服部拓也理事長は、「原子力エネルギーでのイノベーションと社会への貢献」と題して講演(=写真)。日本の科学技術政策を紹介したあと、原子力におけるイノベーションの概念として、①持続可能な発展の実現②経済発展、エネルギー・セキュリティ、環境保護(3E)の同時達成③低炭素社会の実現――の3点を指摘。このためには、政府政策による全面支援、産学協力、人材育成、国際協力、3Sの遵守などが必要だとしました。

 服部理事長はこのあと、次世代軽水炉開発、東芝の小型高速炉である4S炉、JAEAの高温ガス炉、高速炉サイクル開発など、日本の進めている革新的な原子力技術の開発についても概説しました。

0625rsia23○ 大規模な原子力展示会-主要国が展示
 Atomexpoの会議会場の大きなスペースでは、ロシア、カザフスタン、フランス、ドイツ、中国、インドの各原子力機関・企業が出展して、大規模な展示会が開かれました(=写真)。大型のiPadや3D画面を使った大規模なロスアトムのブースや、白を基調とした品の良い展示にカフェを併設したジーメンスのブースが目を引きました。日本からの出展は今年も無し。展示会の来場者は4,000人を超え、昨年より28%増となりました。

(2)カリーニン原子力発電所訪問

 モスクワとサンクトペテルブルクとのほぼ中間地点にカリーニン原子力発電所があり、3基の100万kW級PWR(VVER)が運転中、1基が建設中。この地点は、電力潮流の観点から両都市への電力供給に都合の良いこと、周囲に湖沼があって冷却水に恵まれていることなどから選ばれました。
 運転中の1~3号機のうち、1、2号機は初期型のV-338型、3号機はその後、標準型炉になったV-320型。前者を「小」VVER-1000、後者を「大」VVER-1000とも表現しています。これは320型が標準型炉として多数、建設されていることからきているといいます。

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原発構内

3号機
 訪問時には定検中だった3号機の中央制御室は、ドイツ・ジーメンスの設計をロシア国内でライセンス生産した、フルデジタル仕様のロシアでは初めての近代的なもの。左側が原子炉制御系、右側がタービン・発電機関係で、主循環ポンプ、原子炉保護系、圧力容器、蒸気発生器の状態などの原子炉の重要なパラメーターは、中央上のパネルにて、集中的に見ることができます。

 タービンは高圧1台、低圧4台の3,000回転で、低圧タービンの最終3段にはチタン製ブレードが使われています。排熱の一部は3km離れた町の地域暖房や外部のコンクリート製造工場にも送られています。

 運転サイクルは12か月で定検40日ですが、18か月へ段階的に上げていく計画で、申請中。段階的に行うのは燃料の対応のため。今回は4年に一回の長めの定検で50日間を予定しています。

 冷却は近傍の湖(1億m3)から取水し、もう一つの湖(2,000万m3)へ放水しますが、冷却塔を併用(ΔTは10℃)。冷却水の温度を下げて環境影響を減らすため、現在、原子炉3基で2基の冷却塔を共用していますが、環境保護規制の強化により、さらに2基を建設中。湖は漁業にも使われているとのこと。

4号機の建設状況
 1986年8月に着工しましたが、その後中断し、2006年に建設再開を決定、2008年に建設を再開しました。2年間で原子炉建屋、タービン建屋をほぼ完成し、2011年9月完成、10月定格出力運転の予定。建設にはトヨタのカイゼン方式を取り入れ、工期を短縮できたという。現場では4,200人が作業中。

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4号機の格納容器内にて

 格納容器内に圧力容器、4つの横置きSG、主循環ポンプなどが据え付け済みで、年内には格納容器内の主要機器据え付けを完了の予定。低圧タービン4台や発電機ステータの組み立ては終わり、今後は高圧タービンや発電機を組み立て。復水器管はステンレス製。

 格納容器内のクレーンは容量が160トンなので、2台を同時に使って重量物の組み立てを行います。カイゼン・カンバン方式をとりいれたのは「上が目を光らせている」からだということですが、現場のインセンティブが上がり、仕事の質が上がった、もっとも、旧ソ連時代から、現場の「提案活動」はあったともいいます。

1-2、3号機用のフルスケール・シミュレータ見学
 カリーニン原子力発電所内の訓練センターは、1986年に設立され、1、2号機用、3号機用の2種類のフルスケール・シミュレータがあります。1、2号機の中央制御室は1960年代に設計され、運転開始後25年が経過しため、大規模改修の時期にきています。フルスケール・シミュレータも今後3年間で表示板などをすべて取り替える予定。

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3号機のシミュレータ

お問い合わせ先:国際部 TEL:03-6256-9313(直通)