服部理事長がロシア国際フォーラム「ATOMEXPO-2011」に参加・講演(2011.6.6~8)
当協会の服部理事長は6月上旬、モスクワで開催された国際フォーラム「ATOMEXPO2011」に参加し講演するとともに、国営原子力企業ロスアトムのキリエンコ総裁らと懇談しました。さらに、国営原子力発電公社ロスエネルゴアトムの浮揚型原子力発電プラント(FNPP)関係者と会い、FNPPについて説明を受けました。
ロスアトム主催の国際会議・展示会併催イベント
ATOMEXPOは2008年以来、ロスアトムが主催しているもので、原子力展示会と国際会議を兼ねています。モスクワ市内中心部のクレムリン近くのマネージ中央展示センターで6月6日から3日間開催されました(=下写真)。
展示会には、ロスアトムを中心に燃料サイクル企業トヴェル、テネックス、原子力発電事業者のロスエネルゴアトム、原子力製造企業のアトムエネルゴマッシュ、原子力輸出業者のアトムストロイエクスポルト(ASE)などロシアの関係機関が勢揃いし、ロシアの原子力産業を世界に誇示していました。ロシア以外からは、中国核工業集団公司(CNNC)、フランス原子力庁(CEA)、フランス電力(EDF)、アレバ、アルストム、ドイツのシーメンス、ニューケム、カザフスタン原子力公社(カザトムプロム)、英ロールスロイスなどが出展。日本からの出展はありませんでした。
国際会議は、『原子力開発:中止か前進か』を基調テーマに4会場に分かれて各セッションが設けられました。ハイライトは、基調テーマを主題にしたプレナリー・セッションにおけるパネル討論で、パネラーの1人として服部理事長が参加しました。(=右写真)
ロシアの連邦テレビ局「ロシア24」の名司会者のソロビヨフ氏が進行を務め、約2時間に及ぶパネル討論が同局のインターネット・テレビでライブ中継されました。
服部理事長は、ラウンド・テーブルセッション『新規導入国のためのインフラ』にも参加したほか、ロスエネルゴアトムのアスモロフ第1副総裁が議長を務めたセッション『福島NPP事故の教訓』にも飛び入り参加しました。
国際会議では、日本の福島第一原子力発電所の事故を受けて、『フクシマ』という言葉が至る所で聞かれました。『フクシマ』の教訓を学ぶべきことが異口同音に述べられ、原子力の安全性強化と基準の見直しが強調されました。さらに、原子力はやはり必要であるとの指摘が行われ、エモーションに基づいて長期的なエネルギー戦略を決定すべきでないとのコメントもなされました。
国際会議には約1,000名が参加。展示会のみの見学者は約3,000名。
プレナリー・セッション パネル討論「原子力開発:中止か前進か」(6月7日)
服部理事長は、パネル討論において、福島事故について、安全設計という技術的な側面に加え、想定外事象が万一発生した場合の危機管理能力が十分でなかったと説明しました。
日本が、原子力発電の運転を積み重ねる中で、いつしか「厳格な規制基準に合致していれば安全は確保される」という錯覚に陥り、原子力がもつ潜在的な危険性に十分目を向けてなかったとし、安全文化の基本である、「謙虚に、何事にも疑問を持つ態度、想像力を働かせること」を怠ってしまったことが今回の事故の根幹にあると述べました。
また、今後、国の「エネルギー基本計画」における原子力の見直しも避けられず、新規建設についてはこれまでの計画どおりにいかないのは明白であると述べました。エネルギー需要増加、温室効果ガス問題という世界的課題への対処を含めて、エネルギーミックスのあり方について難しい判断を迫られていくと指摘。「今は、エネルギーの安定供給という使命を果たすため、まずは、既存の原子力発電所の安全性の強化を徹底したうえで、運転再開することが何よりも重要だと思う。立地地域の住民の理解を得るとともに、国民に安全、信頼を約束できるように、事業者はもとより、産業界、国家が一丸となり、安全確保に努めていくことが、日本の原子力関係者の責務である。」と強調しました。
このセッションでは、①IAEAの基準を拘束力のあるものにすべきかどうか、②国際緊急時対応部隊の必要性、③事故時の情報の量、スピード、頻度についての国際規則の必要性-の3点について、アンケート調査も行われ、会場参加者の多くが賛成意見を表明しました。
ラウンド・テーブルセッション「新規導入国のためのインフラ」(6月7日)
このセッションでは、ロスアトムのソコロフ顧問(前IAEA事務局次長)が議長を務め、イントロとして、60カ国がエネルギーミックスに原子力を考えており、2030年迄に新たに20カ国が原子力発電所を持つようになると紹介しました。
服部理事長は、『責任ある開発:先進国の役割』と題して講演。「持続可能な低炭素社会に向けた特効薬はないが、原子力抜きのソリューションもない」と述べるとともに、G8サミットで合意されたように、「福島事故の教訓を共有することが重要である」と強調しました。
また、新規導入国への支援については、「先進国の役割と責任であり、人材育成を中心に新規導入国のニーズに合った形で進められる必要がある。」として、日本での原子力国際協力センター(JICC)、国際原子力開発(JINED)、原子力人材育成国際ネットワークの活動について紹介しました。さらに、原子力の安全・安定運転には、ハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアがうまく揃う必要があり、ヒューマンウエアでは安全文化と技術倫理の定着が不可欠であると訴えました。
キリエンコ総裁との懇談
ATOMEXPO初日の6日午前、会場内貴賓室で、服部理事長は、キリエンコ総裁、ロクシン第1副総裁、スパスキー副総裁、ボリショフ原子力安全研究所長ら要人と会談しました。
キリエンコ総裁は冒頭、福島事故に対してお見舞いの言葉を述べたあと、福島事故の収束について「お手伝いできることは何でも協力する。このような事故の収束がどれだけ大切かはロシアが良く知っている。」と述べました。服部理事長は、これに対して感謝するとともに、「福島事故の経験を国際社会と共有して、世界の原子力の更なる安全強化に尽くしたい。これが日本の世界に対する責任である。」と応えました。
会談では、キリエンコ総裁から、2009年に署名され、昨年暮れにロシア議会で批准手続きが完了した日ロ原子力協定について、日本での早期批准の要望が表明されました。また、福島事故に関する情報について、原産協会からの情報提供が時宜を得て適切なものであり、大変有益であった旨が述べられました。
浮揚型原子力プラントで意見交換
6月7日、服部理事長はATOMEXPO会場内で、ロスエネルゴアトムの浮揚型原子力発電所(FNPP)プロジェクト担当者と懇談しました。
FNPPは、ロシアの極北や極東の僻地の低人口地域への熱電併給用に計画されたもので、これまでの原子力砕氷船で実績のあるKLT-40S炉、2基を使用。電気出力は2×35MW、熱供給は2×25Gcal/時。19%の濃縮ウランを使用し、燃料交換間隔は4年。ロシアは舶用炉について7,000炉年の豊富な運転経験を有しており、舶用炉開発を断念しなければならないような事故は起きていないとのことです。
FNPPの建造は、サンクトペテルブルクにあるバルチック造船所で2009年5月に始まり、翌2010年6月に進水。2012年末迄に機器等の据付を終えて、2013年にはカムチャッカ半島のビリュチンスク市の港湾に係留して熱電併給プラントとしての営業運転を開始する計画です。
ロスエネルゴアトムによると、この初号機に続いて、極北・極東地区で7基のFNPP計画を立てています。さらに別途、大型砕氷船計画もあるとのことです。
お問い合わせ先:国際部 TEL:03-6256-9313(直通)