「NetZeroには原子力が必要」―世界の原子力産業界団体がオープンレター公開 (2021.5)
一般社団法人日本原子力産業協会
日本原子力産業協会は、6月に開催されるG7に先立って、カナダ原子力協会、欧州原子力産業協会、米原子力エネルギー協会、英国原子力産業協会、世界原子力協会とオープンレターを公表しました。
世界で持続可能な開発目標を満たしつつ温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するには、原子力を含むあらゆる低炭素エネルギーの利用が必要です。各原子力産業協会は、現在利用可能で最も効率的な低炭素電源の一つである原子力がその一翼を担うために、既存の原子力発電所を活用するとともに、新規の原子力発電所への投資を加速させていくことを求めました。
オープンレター本文
オープンレター仮訳
ネットゼロには原子力が必要
先月、気候変動サミットに世界の首脳が集まり、気候変動への緊急な対応の必要性を強調した。サミットは、各国が総炭素排出量をネットゼロへと削減するまでの時間が30年を切っているという懸念すべき事実を背景に開催され、取組が議論された。来月、G7でもこの課題を取り上げることになっており、COP26に先立ってミラノでも議論が予定されている。これらの会合は、気候変動との闘いに大胆な新しい方向を打ち出す重要な機会となる。
この闘いで勝利を収めるには、低炭素エネルギーによって、各国がシステムと炭素集約度の高いセクターを転換させる必要がある。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、「エネルギーは有益なものだが、問題は炭素排出量である」と述べている。世界各国は、持続可能な開発を目指して今も努力しているが、さらに効率の良い低炭素エネルギーを生産していかなければならない。この努力においては、現実的で科学的研究に基づいたアプローチを指針とする必要がある。ビロル事務局長の言葉を引用すると、「われわれが気候変動を真剣に考えるのであれば、クリーンエネルギー技術のどれかを排除するという贅沢は許されない」。原子力エネルギーはクリーンエネルギーミックスの一翼を担わなければならず、ネットゼロを追求するにあたり、原子力に対しても他のクリーンエネルギーと同様の意欲を示す必要がある。
原子力は、先進国では最大、世界全体では第2位*のクリーン電源である。数十年にわたって、各国で求められる、安定的で信頼性の高い低炭素の電力を供給し、長期にわたって高収入の雇用を、然るべき人たちに対し創出してきた。世界経済全体で各セクターの電化が進むにつれ、クリーン電力への需要が高まる。原子力エネルギーを活用すると、環境フットプリントを最小限にとどめながら発電容量を拡大でき、原子炉を使用してグリーン水素を生み出し、重工業の脱炭素を進め、水の脱塩も可能である。実証済みの技術に基づく新しい原子力の設計により、規模を問わずどの国でも、原子力発電を展開してエネルギー安全保障を向上させることができる。
クリーンエネルギーの発電容量を追加していく機会を確保することも重要である一方、既存の低炭素発電を維持するために喫緊な対応も求められる。2040年までに100ギガワット以上の原子力発電設備容量が廃止期限を迎えるが、これだけで世界の歴史上で最大のクリーン電力を喪失することとなる。IEAは、同期間に世界の電力需要が50%増加すると予測している。この新たな発電分をカーボンフリーで補うためには、各国政府が風力、太陽光、水力など、他の低炭素技術と共に、原子力の展開を後押しする必要がある。
世界の政策立案者として、既存の原子力発電容量を期限より早く廃止することなく、新規の原子力発電設備への投資の規模とタイムフレームを加速させていくことを、われわれは要請する。
- 国内・国際的な政策・協定において、原子力エネルギーを他の低炭素、クリーン、持続可能エネルギー技術と併存するクリーン、低炭素、持続可能なエネルギーとして明確に認識する必要がある。
- 国内・国際的な政策枠組みで、原子力を含むすべての低炭素エネルギー源の気候資金調達への公平なアクセスを保証し、このことを幅広い環境・社会・ガバナンス(ESG)基準を通じて各企業とプロジェクトを評価する民間の金融・投資コミュニティにはっきりと伝える必要がある。
- 各国は、既存の原子炉の発電能力を最大限に高め、廃止する原子炉をリプレースする原子炉を建設し、世界がクリーン電力容量を失わないよう努める必要がある。
- 既存の民生用原子力エネルギー技術を備えた国は、自国の原子力容量を拡大すると共に、責任をもって原子力発電を展開しようという国を支援する必要がある。
- 各国は、国が決定する貢献(NDC)と低排出型開発戦略に、他の低炭素エネルギー技術に加え、原子力エネルギーを含める必要がある。
これらの行動により、世界の首脳たちは、各国が利用可能なすべての低炭素オプションを展開するための技術的に中立な政策を追求しながら、低炭素の発電容量へのこれまでの投資をもとにさらに強化していくことができる。現在と将来の世代から、現在利用可能で最も効率的な低炭素電源の一つを奪い取ってはならない。
地球と子供たちの未来は、私たちが協力して成功を収めることができるかどうかにかかっている。
注記
*原子力は、水力発電に次ぐ世界全体では第2位のクリーン電源である。
https://www.iea.org/data-and-statistics/data-browser/?country=WORLD&fuel=Electricity%20and%20heat&indicator=ElecGenByFuel
この声明を発行している団体の詳細は以下のウェブサイト参照:
カナダ原子力協会
欧州原子力産業協会
日本原子力産業協会
米原子力エネルギー協会
英国原子力産業協会
世界原子力協会
お問い合わせ先:国際部 TEL:03-6256-9313(直通)