[原子炉熱利用懇談会] 原子炉熱利用に関する将来展開検討会 報告書 top
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−高温ガス炉の展望と実用化に向けて−
平成12年3月

はじめに

わが国の原子力利用は現在、軽水炉による発電を中心に行なわれている。発電を含め発電以外の熱利用にも可能な高温ガス炉は、固有の安全性などの特長を有するにも拘わらず過去においては、経済性の問題より開発段階に止まっている。この高温ガス炉が経済性を満たし実用化レベルになれば、将来のエネルギー保全、地球環境保全および軽水炉の補完として大きな意義を持つことになる。

当会議は、原子力開発の初期から原子炉熱利用懇談会を設置し、原子力の発電以外への利用に関し各種の検討を行ってきたが、主に経済性と社会環境の問題で、実用化への具体的な動きに至っていなかった。しかし近年、CO2による地球温暖化が世界的に問題となってきたのに対応し高温ガス炉の熱利用について、平成4年に「地球環境保護への貢献をめざして」と題する報告書をとりまとめ、炭素税を考慮すれば、核熱は基本的に経済的競合性のあることが示された。その後は、世界的な地球環境保護への対応状況、原子力の開発状況、日本原子力研究所が進めている高温ガス炉「HTTR(高温工学試験研究炉)」の建設状況などを見守ってきた。このHTTRは1998年11月に臨界に達し、最近試運転を開始している状況にある。一方世界的には、地球環境問題に関わるCO2による地球温暖化問題に強い関心が高まっており、 またCO2排出と不可分である化石燃料などのエネルギー利用については、その需要が21世紀におけるアジア地域で、急激に増大する見通しである。近年海外では、南アフリカ、ロシア等で、高温ガス炉の特長を生かし、発電用として実用化に向けた検討が進められている。特に、南アフリカでは、高温ガス炉について、軽水炉より安価なコストの見通しを持って、実用炉の建設準備を進めており、成功すれば他国への売り込みも視野に入れている。また中国でも建設中の高温ガス試験炉(HTR−10)が2000年には臨界を予定しており、これを受けて高温ガス炉を用いた内陸部の石炭のガス化や液化、さらに海水脱塩の検討が行なわれている。このように高温ガス炉への期待が海外諸国で大いに高まっている。

特に、固有の安全性に優れ、人に受入れ易い原子炉であること、加えて高温の熱を取り出せることなどから、広範な利用分野、広範な地域への適用の可能性を持っている高温ガス炉は、軽水炉とは異なった視点で将来実用化されるであろうとの見通しを持って、原産としても新たに検討を開始することとした。

そのため、当会議では原子炉熱利用懇談会(生田豊朗座長)において、平成9年度より、原子炉熱利用の開発の現状と今後の進め方について、関係者にヒアリングによる意見聴取を行うなどの検討準備を始めた。その後、原子炉熱利用懇談会の下に、電力会社、メーカ、熱利用企業など、および大学、国公立試験研究機関からなる委員で構成される「原子炉熱利用に関する将来展開検討会」(主査:東京工業大学 関本博教授)を設置し、高温ガス炉に焦点を絞り、その展望と実用化に向けた施策を体系的に調査・検討を行い、報告書としてまとめた。これらの結果を国の「原子力研究開発利用長期計画」に反映させるべく提言を行うこととしたい。以下に本報告書の要約を示す。

要 約

1.検討の背景

 高温ガス炉は、安全で、高温熱が利用できるという特長が有り、過去には米国やドイツで大型指向の原型炉が建設されたが、運転後、経済性の問題で、その開発が停滞した経緯がある。

 しかしながら最近、南アフリカや米国−ロシアは、10〜30万kWe級の小型モジュールによる高温ガス炉は、固有の安全性が優れ、かつ経済性でも軽水炉、火力等と競合し得るとして、発電、あるいは解体プルトニウム燃焼処理等を目的に、実用化開発をそれぞれ推進し始めた。このため、高温ガス炉が再び、新たな視点も加えて、内外の注目を浴びるようになった。一方、我が国でも1998年11月に、原研の高温工学試験研究炉(HTTR)が初臨界を達成し、核熱利用へ向けての技術開発計画が進められている。

 これらの情勢に鑑み、当会議では、以前、軽水炉や高温ガス炉による熱利用の可能性について検討したことが有るが、上記のような新たな動きや状況を踏まえて、今回改めて高温ガス炉に焦点を絞って、その開発利用に関する検討を行った。

2.検討内容

(1)高温ガス炉の開発の経緯と現状および特徴の整理

 高温ガス炉の開発は、当初の大型化開発路線から、固有の安全性を積極的にかつ最大限に活用した小型モジュール型炉(10〜30万kWe級)へ移行し、現在南アフリカの発電用高温ガス炉の建設計画(PBMR)、米国−ロシアのGT−MHR計画などが進められている。

 高温ガス炉は、優れた固有の安全性、高温核熱エネルギー供給などの特長を持ち、標準設計モジュール化、安全設備の大幅簡素化、高効率発電・高熱利用率、需要地近接立地、シリーズ生産効果などにより、コストを大幅に低減できる可能性を持つ。このため、高い安全性と経済性を備えた、運転容易な高効率発電利用炉、原子力エネルギーの利用拡大をはかるプロセス熱利用炉、および途上国に適した発電・熱利用炉として実用炉としての高い可能性を持っている。

(2)熱利用システムの検討と導入効果の評価

  • 世界的な一次エネルギー需給想定については、1990年から2100年の間について、IIASA(注1)予測を基に整理した。年率1.2%の一次エネルギー需要増加が予想され、2050年以降に化石資源枯渇問題が発生すると考えられること、またCO2排出量抑制効果があることから、原子力の比重が大きく伸びると予想される。
  • 熱利用システムにおいては、次のような分野への高温ガス炉の適用について、さらにそれらの実現に向けた開発工程について検討した。
    1. 発電(ガスタービン発電、蒸気タービン熱電併給、IPP運用)
    2. 2次エネルギー媒体製造(水素、メタノール、石炭ガス化・液化)
    3. 製造業(還元鉄生産)

  • 導入効果の評価には、MARKALモデル(注2)による分析および簡易モデルにより解析評価を行った。2030年から30万kWe/年の割合で高温ガス炉を導入すると仮定した場合、60〜70百万トン/年(2070年時点)のCO2低減が期待できる。また、エネルギー輸入依存度低減に繋がり、環境およびエネルギー問題解決の選択肢の一つとして十分な効果が期待できることが明らかとなった。

注1)IIASA : International Institute for Applied System Analysis
注2)MARKALモデル : 長期エネルギーシステムの最適化分析モデル

(3)実用化への課題と方策

 技術、経済社会、開発体制、規制体系、国際協力面から見た課題と方策について検討した。今後の主要課題は、経済性見通しの明確化、技術開発、国際協力上の具体的方策、および原子力政策の中での位置付けを明確化させることである。

(4)導入シナリオと実用化施策

  1. 導入シナリオ
  2.  比較的早期に実用化が可能な発電利用炉について、2010年代に運転開始を想定した実用化に向けたフイージビリティ・スタディを実施し、総合評価を行うべきである。この評価の結果、実用化についての合意が得られれば、それに向けた開発準備を進める。また、並行して長期的観点から、プロセス熱利用炉の1号機建設目標を2030年頃に置き、2050年頃の本格実用化を想定して、核熱利用技術の開発等を進める。

  3. 実用化施策
  4.  上記導入シナリオに基づいて、実施すべき施策を下記の提案として示す。

【 提 案 】

 優れた固有の安全性を備え、経済性向上、高温核熱エネルギー利用に高いポテンシャルを持つ高温ガス炉は、地球環境問題やエネルギー安定供給等を解決する選択肢の一つとなり得る可能性がある。従って、我が国のエネルギー政策における高温ガス炉の位置付けを明確化させるため、国の主導のもとに次の検討を進めることを提案する。

  1. 発電用高温ガス炉に対しては、実用化(ここでは2010年代に1号機が運開すると想定)に向けたフィージビリティ・スタディを実施し、得られた結果を盛り込んで、以下の観点から、高温ガス炉システムの総合評価を行う。その結果、実用化についての合意が得られれば、体制を整えて、実用化に向けた開発準備を進める。その際、海外の実用化開発計画に関して国際協力等を通して得られた関連情報を積極的に活用する。
  2. ・安全性と経済性・燃料サイクル上の位置付け
    ・需要地近接立地の実現・エネルギー安定供給と多様化
    ・地球環境負荷の低減・核不拡散
    ・産業や経済の活性化・近隣諸国の需要

  3. 原研で現在進められているHTTR計画を着実に進めるとともに、実用化に必要な各種試験等の実施を加える。また、水素製造等高温プロセス熱利用の研究開発計画については、海外ニーズ動向等も見ながら長期的視点で取組む。

 なお、アジア等発展途上国向けの高温ガス炉システムの開発協力についても、地球環境問題やエネルギー安定供給等の解決に重要な役割を果たし得るため、具体的方策を検討する。


「原子炉熱利用に関する将来展開検討会」 委員

主査
東京工業大学 教授関本 博
電力会社
東京電力(株) 原子力技術部 計画グループ高橋 務
中部電力(株) 原子力計画部川口 裕
関西電力(株) 原子力・火力本部合澤 和生
日本原子力発電(株) 研究開発本部土江 保男
電源開発(株) 原子力部細川 明彦
メーカ
(株)東芝 原子力開発設計部西口 洋平
(株)日立製作所 原子力開発技術部真野 多喜夫
富士電機(株) 火力・原子力事業部山田 正夫
三菱重工(株) 長崎造船所 火力プラント設計部溝上 頼賢
(社)日本電機工業会 重電・原子力部垂石 嘉昭
(株)間組 原子力部島邊 賢一郎
熱利用企業
千代田化工建設(株) 原子力環境プラント部栗間 昭典
新日本製鉄(株) 技術開発企画部田中 富三男
トヨタ自動車 東京技術部伊藤 純雄
三菱化学 技術本部 技術部善家 彰則
東京ガス 技術企画部淵上 武彦
商事会社
日商岩井 エネルギー本部清水 良雄
研究所
日本原子力研究所 大洗研究所 核熱利用研究部宮本 喜晟
(財)エネルギー総合工学研究所
プロジェクト試験研究部
松井一秋
(財)日本エネルギー経済研究所
総合研究炉部
湯浅 俊昭
(財)電力中央研究所 原子力政策室魚谷 正樹
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
石炭資源開発部
吉田 晴彦
大学
高温ガス炉関係学識経験者(アドバイザー)
東京工業大学名誉教授
鈴木 弘茂
エネルギー・環境関係学識経験者
東京大学
山地 憲治

日本原子力産業会議 計画推進本部西郷 正雄

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