平成13年度原子力関係政府予算編成・施策に対する要望
平成12年8月10日 (社)日本原子力産業会議
来年からの省庁再編をにらんだ本格的な予算編成作業を行うに当たっては、21世紀のわが国の経済社会の発展を支えるエネルギーの中でも、その中核的な役割を果たす核燃料サイクルを含めた原子力開発の計画的な遂行がぜひとも必要である。そのためには、すべての原子力関係者が安全の確保に十全の努力を払い、責任感をもって対処することは当然ながら、社会の信頼を確立し、後継者の育成など長期的な人材確保に努め、地球環境問題やエネルギー安全保障をも念頭に置きつつ、政府としても以下の諸点に十分配慮し、各項目について特段の予算措置ならびに所要の体制整備と政策の充実を講じられるよう強く要望する。
平成13年1月より発足する新たな中央行政体制においては、エネルギー・環境政策や研究技術開発、人材育成等に対して国家的な省庁を横断した幅広い総合政策が必須との認識にたって、内閣府が設定された。この意義からして、我が国のエネルギー政策の中核であり、科学技術の拠点の一つでもある原子力分野では、特に内閣府に期待される役割の大きさに鑑みて、原子力委員会、原子力安全委員会は内閣府の所掌となった。この主旨を十二分に活かすために複数の省に及んで行われる原子力行政実務も、内閣府設置法に定められた「広範な分野に関係する施策に関する政府全体の見地から、関係行政機関の連携」に基づいて、関係各省の緊密かつ全面的な相互協力が求められることは言うまでもない。
原子力委員会は、自主、民主、公開の基本方針と積極的な国際協力を行うという原子力基本法の精神にのっとり、国民的立場にたち、効率的でかつ均衡の取れた原子力研究開発利用推進の最高機関として、今後も総合的政策立案の主導的な役割を十全に果たすことが求められる。また原子力委員会は今後さらに複雑さを増すと思われる国際情勢の中で、核兵器廃絶への活動を支援しつつ、わが国の原子力開発の円滑な推進を図るという重責を負っている。そのために、新たに発足する原子力委員会は国民の十分な信頼を得る構成とするとともに、それを補佐する事務局機能の充実強化も極めて重要である。
原子力関係各省は、行政改革の理念に基づき、国民から付託された任務を遂行する中で、原子力委員会・原子力安全委員会と十分な連携を図り、相互補完的な行政により、諸課題に直面している原子力政策を、安全を第一に確実かつ柔軟に実施に移していくことが求められる。
- 広く官民から人材や知識・知恵を集める等、原子力委員会・原子力安全委員会の機能の強化
- 開かれた審議の場を通じての国民各界・各層の意見の集約・反映と、合意形成への積極的取り組み
- 効率的で均衡の取れた原子力研究開発利用に資するための財政的基盤の確保と配分の最適化
昨年のJCO社の臨界事故は、原子力安全確保の重要性と同時に安全対策にひそむ脆弱性をも改めて認識させた。これを教訓として、国は安全規制の強化と原子力防災対策を進めたが、本来、安全確保は核物質防護対策も含め、原子力事業者が自己責任において自主的に行うべきものであり、それが事業遂行の基盤であることは言うまでもない。国は、民間のこうした努力を奨励しつつ、重点的かつ効率的な安全規制を図り、また原子力安全性研究の実施についても、かかる視点から取組む必要がある。
- 関係機関による有機的、効果的な防災対策の確立
- 輸送段階を含め核物質の盗取や原子力施設の運営に対する妨害・破壊活動等に対する予防措置の充実
- 安全目標の設定を含め、規制の効率化に資する安全性研究の着実な推進と成果の活用
将来において、人類社会の持続的発展は、エネルギーの安定供給とならんで地球環境の保全なしには果たし得ない。わが国は、国際約束として温暖化防止京都会議で課せられた温室効果ガス削減目標を達成する重要な方策として、原子力発電の安全・安定運転と着実な開発推進を行う。さらに地球環境問題の解決に向けて、進んで貢献を果たすべき先進国として、気候変動枠組み条約締約国会議等において、環境負荷の小さな原子力発電の重要性について積極的・継続的に理解と合意を求めていくことが望まれる。
また、高速増殖炉と並んで長期的な観点からは、核融合もエネルギー供給確保とCO2排出削減に大きく寄与する裾野の広い技術分野であることから、国際協力のもと、広汎な核融合技術開発を着実に進めていく意義は大きい。
- CO2削減柔軟性措置制度への原子力発電の取り入れに向けた積極的戦略的な取り組み
- 地球環境問題の観点から、海外諸国、国際機関とも連携した国内外に対する原子力発電開発の必要性と安全性についての理解活動の展開
- 核融合研究開発の計画的推進と国際熱核融合実験炉(ITER)計画へのわが国の積極的な貢献
本年5月、高レベル放射性廃棄物処分の事業制度の枠組みを定めた法案が成立した。今後は、国の策定する基本計画に沿い、立地選定をはじめとして事業主体となる原子力発電環境整備機構による処分実施計画が確実に進められなければならない。新たに発足する機構は、公開度の高い組織運営に努め、国民の十分な信頼を獲得することが求められることは言うまでもない。さらに、経済合理性を備えた地層処分技術の確立のため、核燃料サイクル開発機構と新機構が中心となり研究・技術開発を不断にかつ着実に実施し、計画に適切に反映していくことが必要である。また、喫緊の課題である使用済み燃料の中間貯蔵対策についても、法令に基づき、事業者による早期に具体的な計画の推進が求められている。
バックエンド対策における重要な柱である両計画の実現のためには、積極的な情報公開による国民の合意形成とともに、最大の課題である立地選定および立地地域との共生方策等に、国による適切な措置が講じられる必要がある。
- 高レベル放射性廃棄物処分に係わる基本計画、および立地選定に係わる安全上の基本的な考え方の早期確立
- 資金確保をも含め、地層処分の信頼性確立に関する技術的・制度的・社会的対応の強化
- 使用済み燃料中間貯蔵事業の早期実施に係わる技術的・制度的・社会的課題への取組みの充実
- ラジオアイソトープ(RI)および研究用放射性廃棄物等の適切な処分制度の確立
- 再利用をも含む原子炉解体に伴う放射性廃棄物の合理的・効率的な処分基準ならびに処分技術の確立
わが国は10年来、アジア地域原子力協力を意欲的に推進してきたが、平成12年度からは「アジア原子力協力フォーラム」を発足させ、アジア諸国に対する原子力協力活動の新たな展開を進めている。今後は、原子力発電や原子力技術の農業・医学・工業分野の利用について、より前進した具体的プロジェクトを促進していく必要がある。なかでも、原子力発電導入に意欲を示している国に対しては、優れた原子力発電の実用技術の蓄積のあるわが国として、官民あげて積極的な支援を行うことが肝要であり、そのため、国は当該国との間に諸制度面における必要な整備を図りつつ、必要な財政的支援策を講ずることが求められる。
- 「アジア原子力協力フォーラム」を核とし、RCA地域協力協定の活動も含め、アジア地域での原子力協力に関わる総合的な政策立案と活動の充実
- 充実したアジア原子力協力活動のための財政的な基盤の確保
- アジア市場も視野に入れた原子力発電計画および放射線利用への積極的協力の展開
原子力の平和利用を円滑に実施していくためにも、わが国は、NPT再検討会議で採択された核兵器国の「全面核廃絶を達成するとの明確な約束」を具現化するため、積極的な対応を進める。また核不拡散上、重要な課題である核兵器解体からの余剰核物質の利用・処分に関する協力を進める必要がある。
万一の国際的な放射能影響を与える原子力事故の発生に備えて、諸外国の対応を踏まえながら国際的な賠償制度への加盟に向けた調査を進めていくことが重要である。
核兵器廃絶に向けた国際情勢への積極的対応
ロシアに対する余剰核物質(プルトニウム)利用に関する協力プロジェクトの推進
核物質国際輸送の円滑化の観点から、太平洋地域島しょ諸国への理解促進活動の充実
国際的な原子力損害賠償制度への加盟に向けての調査検討の推進
市場経済の下で原子力を一層競争力のある基盤電源としていくためには、事業者による取り組みはもとより、国においても、安全を旨としつつ効率的な発電所の運転が可能となるよう、一層の規制合理化等の諸措置を講じることが求められる。また、原子力発電所の新立地に関して、原子力の有する潜在能力を活用すべく、柔軟な発想に基づく研究技術開発や調査検討に官民で取り組み、国民合意の下に原子力利用の幅を拡大していくことが必要である。あわせて、既設を含め、原子力施設の立地地域に対する地域共生等の立地対策を進めることが肝要である。さらに、原子力発電所の基数増大に対応し、電力系統の安定・効率化、電力の長距離輸送などの技術開発等も推進すべきである。
- 運転効率向上と発電コスト低減に向けた規制合理化を含む諸対策の推進 (長期サイクル運転、熱出力一定運転等)
- 柔軟性のある立地地域と原子力施設との共生的立地施策の推進
- 発電所高経年化対策の推進
- 経済的で自動安全機能に優れた中小型炉開発への支援
- 原子力発電所の新立地方式に関する調査研究の推進
高速炉の開発は、長期安定的なエネルギー源の確保を図るうえで必要であるとともに、燃料サイクル技術の高度化や高レベル放射性廃棄物対策上も重要である。この意味からも、原型炉「もんじゅ」は国際的にも数少ない貴重な研究開発資源と位置づけられ、その早期の運転再開は何よりも待たれるものであり、引き続きすみやかに国際的研究の場として活用されることが大いに期待される。
MOX燃料のプルサーマル利用については、海外での工場検査データの捏造等に起因し、計画が遅れているが、早期に軽水炉での利用計画が前進するよう、地域社会の理解促進はもとより、引き続き再処理、プルトニウム利用について国際的な理解活動など官民の積極的な措置が講じられる必要がある。
- 「もんじゅ」の早期運転再開にむけた積極的対応とFBRサイクル技術開発の推進
- プルサーマル計画の着実な実施とそれに向けた理解促進活動の推進
原子力が将来も国内ならびに世界的にも主要エネルギーとしての地位を確保していくためには、成熟期に達しているわが国において原子力技術の維持・継承はもとより、一層の発展をめざした原子力研究の活性化や創造的な技術開発が必要であり、その基盤となる後継世代の科学的な探求意欲と未踏分野への研究意欲が高められることが強く望まれる。
一方、急激な成長を見せている情報技術関連産業に見られるように、若手世代の経営者・技術開発陣が重要な役割を果たす状況が生じてきている。原子力の分野においても、柔軟な思考力に富む若手の技術者等が積極的に開発に参画し能力を発揮できる環境と、あわせて、原子力政策の立案過程にも若手世代が積極的に関与できる環境を整えることも、国として、また企業経営として取り組むべき重要な課題である。
- 初中等・高等教育におけるエネルギー関連教育、ならびに大学等における科学・原子力分野の基礎教育の充実
- 学界、産業界、行政府の連携と有機的な原子力研究体制の整備
- 教育・研究用原子炉の利用促進と環境の整備
- 優秀な人材確保と、若手研究者・技術者に魅力ある研究開発体制の構築
- 若手世代の開発プロセスへの積極的参画の推進
原子力技術は、エネルギー利用と並んで、RI・放射線利用を通じた各種産業など、広範な分野での実用化が進むとともに、とりわけ医療をはじめとする国民の福祉向上への有用性についての認識が広く社会に浸透してきている。今後も、健全な経済社会の発展と健康な市民生活を維持していくためには、医療の一層の向上や食品の安全確保に役立つ放射線利用の普及拡大とともに利用に関する拠点の整備を図ることが重要である。
さらに原子力技術はライフ・サイエンスや物質・材料系科学技術分野等の基盤技術・先端的研究開発で新たな地平を切り開く可能性を有しており、独創性を重視しつつ、各種基礎研究の充実を図る必要がある。
- 食品の殺菌保存や医学利用における効果的な放射線利用の推進
- 放射線による生物学的影響に係わる放射線影響科学の体系化と放射線研究の促進
- 光量子・放射光、中性子科学等の先端的研究の推進
以 上
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