[第41回原子力産業実態調査報告] 第二部 アンケート調査:電力自由化と原子力産業 Back

世界的な電力市場自由化の流れの中で、わが国でも2000年3月から部分自由化がスタートした。2000年度の電力各社の事業計画では、大口顧客を対象とした小売自由化の開始や電力需要の伸び悩みといった厳しい経営環境の中で、設備投資の抑制等の動きが鮮明になっている。また、コスト削減を目的とした海外調達の動きも拡大していくとみられている。こうした状況を踏まえ、今回調査では、電力自由化が原子力産業に及ぼすと思われる影響についてアンケート調査を行ったところ、売上実績を有する企業282社中、約250社から回答が得られた。

調査結果については、自由化によって各企業の原子力部門がどうなっていくのかまだ予想し難いといった結論の段階にあると見られるため、あえて評価を加えずに結果をまとめた。

40%が市場規模縮小を予測

電力市場の自由化が各社にとって好ましいか聞いたところ、短期的(1〜5年)、長期的(5年〜)とも、「好ましくない」が「好ましい」を上回ったものの、半数近く(短期44%、長期48%)の企業が「どちらとも言えない」と回答、まだ様子眺めの状況にあることが分かった。これを業種別にみると、建設業が自由化に対して厳しい見方をしていることが明らかになった。具体的には、短期的にみて「好ましい」と答えた企業が8社だったのに対し、「好ましくない」はこれを大きく上回る32社となった。また建設業では、長期的にも「好ましくない」(26社)が「好ましい」(12社)を上回った。原子力産業の市場規模に対する見通しについては、「拡大する」とした企業が、この設問に回答した企業全体の4%にすぎないわずか11社しかなかったのに対し、「縮小する」と回答した企業は全体の40%に相当する100社に達し、市場自由化に対して厳しい見方をしている現状が浮き彫りになった。

売上減少予測も50%に

自由化が各社の原子力関係売上に与える影響について聞いたところ、「売上減少に結びつく可能性がある」とした回答が全体の50%に相当する125社あった。これに対し、「増加する可能性がある」「影響ない」と回答した企業はそれぞれ21社、34社で、売上減少を予測した企業の数を大きく下回る結果となり、自由化が業績に厳しい影響を及ぼすと予想していることが明らかになった。業種別では、建設業の39社と原子力専業の12社が売上減少を予測しており、減少を予測した全企業の約40%をこの2業種で占めた。また、「売上減少」「売上増加」のどちらかを予測した企業のうち「すでに自由化の影響が出ている」と答えた企業が49社あり、このうち16社が建設業であった。このほか、実際に自由化の影響が出ると思われる時期については、5年後を予想する企業が35社と一番多かったものの、2年後31社、5年より先17社、1年後15社となり、回答にバラツキがみられた。

「単価下落」と「受注量減少」予測がほぼ同数に

売上が減少すると予測した企業に対しどのような影響が現れると思うか聞いたところ(複数回答)、「受注単価の下落」「受注量の減少」がほぼ同数の、それぞれ88社、81社となった。「他社の参入による受注競争の激化」と回答した企業も44社あった。一方、売上が増加すると予測した企業に対し同じ質問をしたところ、「受注単価の上昇」と答えた企業は1社もなかった。これに対し、「受注量の増加」と回答した企業は18社、「新分野への参入機会の拡大」と回答した企業は7社にとどまった。

技術力で差別化ねらう

自由化がもたらす影響を克服するためにはどのような戦略が有効と考えられるかという質問(複数回答)に対しては、「技術力による他社との差別化」と回答した企業が最も多く139社あった。その内訳を業種別にみると、建設業(40社)、原子力専業(18社)、機械製造業と電気機器製造業(各9社)などが上位を占めた。「人員削減等の合理化によるコスト削減」と答えた企業も104社あった。「競争力のある製品への特化」と回答した企業は全部で89社で、業種別にみると、電気機器製造業が最も多く12社、以下、建設業11社、機械製造業10社、鉄鋼業8社などと続いている。「市場拡大が見込める(原子力)分野への人材・生産のシフト」と答えた企業は76社で、建設業(20社)、原子力専業(11社)、窯業・土木製品製造業(6社)、機械製造業(6社)などとなっている。

「合併や合弁による規模の拡大」と回答した企業は27社で、内訳は、電気機器製造業の5社を筆頭に、以下、鉄鋼業(4社)、建設業(4社)、原子力専業(2社)、化学工業、窯業・土木製品製造業、機械製造業、輸送機器製造業、運輸・通信業(各1社)と続いている。「海外市場の開拓による輸出拡大」と回答した企業は20社にとどまり、輸出指向の低いわが国原子力産業の実態を証明する形になった。具体的には、機械製造業(5社)、建設業(4社)、鉄鋼業、電気機器製造業、造船造機業(各2社)などから回答が寄せられた。一方で、「原子力分野からの撤退」を自由化に対する有効戦略として考えている企業も22社あった。これを業種別にみると、建設業、原子力専業、鉄鋼業がそれぞれ3社、化学工業(2社)などとなっている。

図−8 電力自由化と原子力産業

(設問項目によって、未回答があるため合計は一致しない)

設問1 電力市場の自由化は短期的・長期的にみた場合、貴社にとって好ましいものですか

設問2 電力市場の自由化により今後、原子力産業全体の市場はどうなると思いますか

設問3 電力市場の自由化が貴社の原子力関係売上に与える影響は

設問4 (設問3で「売上減少」、「売上増加」と回答した企業に質問) 自由化の影響はどのくらいで現れると思いますか

設問5 (設問3で「売上減少」と回答した企業に質問) どのような形で影響が現れると思いますか

設問6 (設問3で「売上増加」と回答した企業に質問) どのような形で影響が現れると思いますか

設問7 自由化がもたらす影響を克服するためには、どのような戦略が有効と思いますか


Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. (JAIF) All rights Reserved.