日独電力・原子力専門家会合 共同議長サマリー
2004年4月27日 名古屋
- 日本とドイツの専門家は、2004年4月26、27日の両日、名古屋市で日独電力・原子力専門家会合を開催した。会議では両国の原子力開発・政策、電力自由化と原子力問題、原子力再活性化への取り組み、燃料サイクル・放射性廃棄物管理、および人材問題と将来技術等について、情報交換するなど、有意義な意見交換を行った。
- 原子力発電は現在、ドイツおよび日本のいずれにおいても、全電力供給の30数%を占め、重要な役割を果たしている。旧中東欧諸国がこの5月1日から欧州連合(EU)に加盟する拡大EUは、世界最大の原子力発電者(年間原子力発電量1兆30億kWh、米国は8135億kWh)になる。拡大EUの原子力発電電力量シェアは30%強である。
- ドイツでは、原子力の段階的廃止の政治的決定が行われ、原子力発電所の残余発電量が制限されている。しかし、原子力発電所は高い設備利用率を誇り、CO2の放出削減に寄与するとともに市場においても競争力のあるエネルギー源となっていることが報告された。ドイツ側専門家からは、経済的・技術的な観点から、既存原子力発電所の運転延長が、現実的かつ有効なオプションになるとの意見が出された。ドイツは政治的には厳しい状況下にあるが、グロナウにあるウラン濃縮工場は順調に操業しており、その設備能力の拡大が進行中である。
- EUでは、将来を見通した場合、輸入エネルギー依存度の増大、CO2放出量の増大、発電設備更新量の巨大化、という3つの挑戦に直面している。EU加盟各国の原子力に対する取り組みはそれぞれの国内事情によって異なるが、EUがまとめたグリーンペーパーでは、エネルギーの安定供給および温室効果ガス排出削減における原子力の寄与を認めている。
- 日本では、近年、核燃料サイクル計画の遅延、原子力発電所の設備利用率の頭打ち、東京電力の不祥事による公衆の信頼の喪失、安全規制問題(科学的合理的規制の問題)など、原子力開発は停滞している。公衆の信頼回復のための電力会社による様々な取組みが報告された。日本は現在、このように厳しい環境にあるが、2003年10月に、核燃料サイクルを含む原子力発電を国の基幹電源とするエネルギー基本計画が閣議決定されたのは、好ましい動きである。
東京電力問題の背景についての分析報告が行われた。また、原子力開発の再活性化のための原子力産業界団体の再編・改革の方向性についても報告された。
- ドイツでは、1998年の電力市場の完全自由化以来、原子力発電所においては、安全性・信頼性を損ねることなく、経営効率化により経費が削減された。
- 一方、日本でも1995年以来、電力市場の自由化が進められており、2005年には全販売電力量の60%が自由化される。日本の電力会社は、今後とも安全最優先の下に、原子力発電を推進していく。日本では、これまで総括原価主義の下で電気料金に含まれてこなかったバックエンド事業経費の回収に関する法的仕組みについて検討中であることが報告された。
- ドイツでは、2020年までに4000万kWの発電設備(原子力、火力を含む)の更新が必要になる。また、EUでは、2020年までに、2億kWの更新、1億kW以上の新規建設が必要と予測されている。
ドイツの専門家からは、安全性、経済性を一層向上させた欧州加圧水型炉(EPR)やその他の先進的原子力システムが紹介された。2003年12月に、フィンランドが同国5基目の原子力発電所としてEPRの契約を締結した。このEPRはアレバ社とシーメンス社のコンソーシアムによって建設される。また、フランスでは、今年中に、EPRプロジェクトの決定をする見込みであることが示された。
- 日本では、長期的視点から、競争力のあるFBRの開発が進められている。FBRサイクルは、長寿命の高レベル廃棄物の燃焼により放射能の減少にも寄与する可能性を有していることが紹介された。
また、原子力ルネッサンスに向けて、先進的大型炉APWR+、ABWR‐U、超臨界軽水炉(SCWR)、ガスタービン高温ガス炉(GTHTR300)などの革新的原子炉の開発状況が紹介された。 さらに、21世紀の地平を拓く技術として、日本原子力研究所における水素製造技術の開発状況が紹介された。原研の高温工学試験研究炉(HTTR)は、この4月に950℃を達成した。
- ドイツでは、過去25〜30年間にわたる実績に基づきMOX燃料の使用は今や日常的になっており、すでにパブリックアクセプタンスを得ている。これまでのところ、MOX燃料に係る特別なトラブルは起きていないことが報告された。
日本では、プルサーマルの実施が遅れていたが、関西電力の高浜原発で2007年に、日本原電の敦賀2号機で2008年までに、MOX燃料を装荷する計画である。
- 放射性廃棄物の管理および処分対策については、日独間で活発な議論が行われた。
ドイツでは、原子力の段階的廃止政策により、2005年7月から再処理のための使用済み燃料の輸送が禁止されるので、原子力発電所サイトに使用済み燃料の中間貯蔵施設が建設されることになっている。 連邦環境相は、すべての種類の放射性廃棄物を一つの共同処分場に処分することとし、これまでの調査活動を一切中止してゼロからサイト選定手続きを始めることを決めた。この手続きに従うと、2050年以前に処分場の操業開始は不可能であろう。一方、これまで調査活動を行ってきたサイト活動を継続すれば、コンラッド(低中レベル廃棄物用)は2010年に操業開始、ゴアレーベン(高レベル廃棄物用)は2020年頃に操業開始できる見込みであることが報告された。
- 日本では、原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物は六ヶ所村に運ばれて埋設されている。
再処理過程で取り出される高レベル廃棄物(ガラス固化体)は冷却のため30〜50年間貯蔵され、それから地層処分される。2000年10月には原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立され、2002年12月からサイトの公募が開始された。 また、日本では、燃料リサイクルについて柔軟な事業展開を図るために、使用済み燃料の中間貯蔵施設計画が進められている。
- 原子力の技術能力の維持も両国にとって重要問題である。ドイツからは、2000年に発足した原子力技術能力アライアンスにおける取組みが紹介された。日本からは、大学、産業界、あるいは地域の主導のもとに、政府の支援を得つつ、原子力教育を進めていくべきことが強調された。この分野での日独間の協力を強化すべきことが指摘された。
- 原子力事業者にとっては、透明性の下に、原子力発電所の安全・安定運転の実績を積み重ねることが重要であることが再確認された。そして、そのことが信頼への一番の鍵であることが指摘された。しかしながら、ドイツでは、この努力に加え、原子力がエネルギーミックスの重要な要素としての現実的な見方がされるには、政治的・社会的な変化のプロセスも必要であることが紹介された。
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