[JAIF] プレスリリース 平成15年度原子力産業実態調査報告
 原子力産業実態調査は、わが国における原子力産業の経済面の実態を把握し、産業としての健全な発展に資するとともに、あわせて各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的として、昭和34(1959)年から定期的に実施しているものです。

第45回 平成15(2003)年度原子力産業実態調査報告


2005年2月4日

(社)日本原子力産業会議
情報・調査本部

1.電気事業の原子力関係支出動向

  • 原子力関係支出、2年連続して減少

     電気事業の2003年度の原子力関係支出高は前年度から13.8%減少し、1兆5,551億円となり、過去13年間で見ても最低額となった。2年続けての減少で、減少幅は前回調査(−13.5%)とほぼ同じ。支出の中で最も大きな割合を占める費目は原子力発電所の「運転維持費」(57.4%)だが、2003年度は前年実績とほぼ同水準の8,924億円となった。これに対し、「核燃料費」は対前年度比−34.5%の大幅な減少(3,500億円)。また、「建設費」も−15.8%減少し2,588億円となり、支出費目別ではこの二つの項目が減少の最大の原因となった。

  • 修繕費が増加

     「運転維持費」は電力10社合計で対前年度比−0.4%となり、01年度の過去最高(1兆1,303億円)との比較では約2割の減少。内訳で見ると、運転維持費全体の約4割を占める「修繕費」が、前回調査で対前年度比−18.6%だったものが、今回調査では11.5%増加した。一方、廃棄物および特定放射性廃棄物の処分費用を含む「その他」経費(全体の4割強)が2年連続で減少した。

  • 減少傾向続く「建設費」

     「建設費」については、建設計画の縮小にともない支出高は一貫して減少傾向を示している。特に建設費の4割強を占める「機械装置費」は、4年連続して減少し、03年度は1、104億円(対前年度比−34.4%)となった。「建屋・構築物費」も2年連続の減少(−31.1%)となっているが、諸装置や無形固定資産などを一括した「その他」経費は逆に+14.8%と2年連続で増加したほか、建設利子や人件費を含めた「間接費」も前年度実績の2倍近い額(+77%)に増加した。

  • 「核燃料費」、対前年度比−34.5%に

    ウラン精鉱費、転換費、濃縮費、加工費、再処理費、貯蔵費、輸送費などが含まれる「核燃料費」は、96年以降、緩やかな曲線を描きながら増加していたものの、今回調査では、前年度比34.5%の減少となった。

  • 「試験研究開発費」も最低水準

     このほか、電力共通研究の経費や原子力発電の各分野における技術開発費、外部機関への研究委託費、各種の訓練・研修費を含めた「試験研究開発費」が電気事業の支出全体に占める割合は例年2%に満たない規模だが、2003年度は前年実績からさらに5%減少して272億円となった。過去13年間の実績で見ても最低水準となり、1995年度(約550億円)の半分以下まで落ちこんだ。

2.鉱工業の売上動向

  • 原子力関係売上高、92年度実績から35%の減少

     鉱工業全体の2003年度の原子力関係売上高は、91年度以降で初めて1兆5,000億円を下回った前年度実績(1兆4,980億円)からさらに3.3%減少し1兆4,482億円となった。過去13年間で最高を記録した92年度実績の2兆2,410億円と比べると約35%の減少。

  • 「燃料サイクル」部門の売上が2割減

     部門別では、原子炉機器・関係設備や原子力材料、機器据付け分野をまとめた「原子炉機材」部門が対前年度比5%増の4,588億円になったものの、「燃料サイクル」部門(核燃料物質や濃縮役務、再処理役務、廃棄物処理処分役務、核燃料輸送役務、および核燃料サイクル機器の分野を網羅)が前年度から19.9%減少して2,749億円になったことが全体の売上高低下につながった。また、「発変電機器」部門でも前年度(804億円)比19.5%減の647億円となった。このほか、「RI・放射線機器/照射サービス役務」部門や「建設・土木」部門、「その他製造」部門(核融合機器およびその他の各種試験機器、保守メンテナンスなどの値を総合)はほぼ横ばい。

     最近の特徴は、部門別で鉱工業の原子力関係売上高の最大部分を占める「原子炉機材」部門のシェア低下。過去13年間で見ても1995年度までは40%以上を維持していたが、それ以降は最高でも30%台前半で推移している。

     売上高を予測する上で重要な指標となる鉱工業の原子力関係受注残高は2004年3月31日現在で1兆9,706億円で、過去3年間ほぼ同じ水準だった。過去13年間で見ると、91年度から一貫して減少している。

      部門別で見ると、全体の46%を占める「原子炉機材」部門が前年度実績から約6%減って9,136億円となった。4年連続の減少。これに対し、「燃料サイクル」部門の受注残高は対前年度比7.5%増の5,350億円となった。このほか、全体の約1割を占める「発変電機器」および「その他製造」部門で2桁の伸びを示しており、03年度はそれぞれ、2,133億円(+28.4%)と2,041億円(+33.1%)となった。

  • 一層の売上減少を予想

     本調査では、鉱工業における今後の原子力関係売上高を、毎回調査表に添付して実施しているアンケート調査に基づいて予想している。それによると、鉱工業の原子力関係売上見込み高は1年後に2003年度実績の−13.4%(1兆2,549億円)、2年後に−17.1%(1兆2,003億円)、5年後に−7.8%(1兆3,355億円)になり、売上高がさらに減少すると予想していることが明らかになった。

3.鉱工業の支出動向

  • 支出高は「原子炉機材」中心に2年連続減少

     支出高に目を向けると、03年度の総額は対前年度比11%減の1兆4,132億円で2年連続の減少となった。98年度に1兆4,227億円となって以来、01年度に1兆8,166億円を記録したが、今回調査では過去13年間で最小となった。全体の3割を占める金額的に最も大きい「原子炉機材」部門は2000年度以降3年連続で支出が減少した。03年度の実績は対前年度比−12.6%の4,456億円。これ以外では、「その他製造」部門で18.7%増加して3,955億円になったのに対し、「燃料サイクル」部門は90年代にかけて記録していた3,000億円台(3,597億円)に再び低下、減少率は前年度比−33.8%となった。

  • 原子炉機材」「燃料サイクル」ともに一層の支出減少を予想

     総支出高の将来見込みは、1年後の04年度は03年度比6.2%減の1兆3,255億円、2年後は同じく03年度比で15.9%減少して1兆1,892億円。5年後は1兆2,276億円になると予想されている。

     部門別の予測では、「原子炉機材」で1年後の04年度に03年度比17.8%減の3,665億円、2年後の05年度は同じく03年度比28.1%減少して3,205億円、5年後は14.3%減の3,818億円になる見通し。「燃料サイクル」部門は、04年度に14.4%増の4,115億円になるが、2年後は03年度比−5.7%の3,394億円に減少。5年後の08年には3,012億円になると考えられている。

  • 研究支出の減少傾向に歯止めかからず

     原子力機関への出資金や海外技術導入費を除いた鉱工業全体の研究支出高は対前年度比−1.8%の300億5,300万円となった。過去13年間でみると、97年度に852億4,400万円を記録したものの、98年度には502億2,400万円(−41.1%)に急落し、その後も減少傾向に歯止めがかからない状態が続いている。全体の36.9%を占める

    「原子炉機材」部門は前年度実績から3.5%減の110億9,600万円で、90年代前半の実績と比べるとほぼ半分の水準。「燃料サイクル」部門も減少傾向を示しており、2003年度は対前年度比−21.9%の50億200万円。「発変電機器」部門における研究支出高も前年実績の約半分(1億8,300万円)に落ちこんでいる。支出額の増えた部門は、「その他製造」(36.1%増)および「RI・放射線利用」(21.4%増)のみとなっている。

      研究開発の活動状況指標である「研究投資率」は研究用・総支出高を売上高で除して計算しているが、03年度はほぼ前年度並みの2.2%だった。部門別で見ても、「その他製造」部門で0.21ポイント増加、「建設・土木」で0.29ポイント低下した以外、大きな変化はなかった。

  • 「燃料サイクル」部門の生産設備投資高が6割減に

     2003年度の鉱工業の生産設備投資高は1,271億円。全体の78.4%を占める「燃料サイクル」部門が対前年度比で−59%(996億円)となったことが影響して、全体でも−51.6%の大幅減少となった。「建設・土木」や「その他製造」の部門で50%以上の伸びが見られたものの、全体への影響はほとんどなかった。生産設備投資高は「燃料サイクル」部門の伸びを牽引役に96年度以降、順調に拡大してきたが、01年度に過去最高の2,940億円に達した後は再び減少に転じた。

     これ以外の部門が総投資高に占める割合は、「原子炉機材」部門も含めてそれぞれ1割以下となった。

4.民間企業の原子力関係従事者数

  • ピーク時から28%減少

     2003年度に原子力関係の業務に携わった鉱工業および電気事業の従事者数(事務系を含む)は、前年度から2,730人減少(−5.3%)し48,534人となった。本調査を開始して以来、最高を記録した1982年度(67,468人)と比べると約28%の減少。また、同年度以降でみても初めて50,000人を下回った。電気事業は前年度から0.4%増加し10,321人となったが、鉱工業は6.8%(2,773人)減少し38,213人となった。

  • さらに減少を予想

     今後の見込みについては、電気事業の原子力関係従事者数がほぼ横ばいであるのに対して、鉱工業では従事者数がさらに減少するとみられている。このため、民間企業全体の従事者数も引続き減少傾向を辿ると予想され、具体的な数値では1年後に+0.4%の48,730人とわずかながら増加するものの、2年後には48,409人、5年後には48,162人の見込み。

  • 運転保守部門の技術者が増加傾向

     電気事業の原子力関係従事者のうち技術系従事者(研究者を含む)をみると、「運転・保守部門」の占める割合が大きいのが特徴。1999年度以降で見ても常に60%以上を占めていることに加えて、人数・割合とも上昇する傾向にあり、建設から保守にウエイトが移ってきている状況が伺える。また、今後の見込みについても、1年後に対03年度比0.8%増の5,554人、2年後には1.8%増の5,609人、5年後には2.4%増の5,641人になるとみられ、こうした傾向がさらに強まる。「調査・計画・管理部門」でも従事者数はわずかながら増加傾向にあり、将来見通しについても小幅ながら増加すると見込まれる。一方で、「設計・建設工事部門」の技術者は例年900人前後で推移していたが、03年度には対前年度比−8.6%の822人に減少した。同部門の技術者数は、今後も徐々に減少していくとみられている。

     電気事業の原子力関係従事者の中で「研究者」(原子力関係固有の研究テーマを持った専門知識を有する者)の数は03年度に対前年度比−6.8%の82人となり、3年連続の減少。

  • 鉱工業、「設計」「原子炉機器製造」部門の人員減少に歯止め

     最近の傾向として、鉱工業の技術系従事者のうち、「設計」と「原子炉機器製造」の人員減少が顕著であったが、今後の予想をみると、そうした傾向にも歯止めがかかりそうな見通しとなってきた。

     鉱工業の技術系従事者のうち、「研究者」の数は1,317人で、前年度実績(1,312人)とほぼ同じ。2000年度に一時的に1,800人台に乗ったものの、徐々に減少して1300人台で安定。今後もこの水準で推移するとみられている。

     今後事業が本格化していくとみられる「再処理、廃棄物、処理処分部門」の従事者数は対前年度比3.9%増の1,209人となった。99年度には434人で、技術系従事者全体の1.5%を占めるに過ぎなかったが、01年度には3倍の1,306人に増加、シェアも4.7%に上昇した。

5.鉱工業のアンケート調査

 日本原子力産業会議は原子力産業実態調査を補完する目的で、毎回鉱工業を対象に「原子力産業についてのアンケート調査」を実施している。03年度の設問は従来通り、設備の平均操業率、売上見通し、および輸出の3項目。

  • 操業率について

    〔問1(1)〕原子力関係主力製品製造設備の2003年度の平均操業率

     原子力関係の売上が多い4業種に注目すると、03年度は操業率の高い順に原子力専業の75.7%、重電メーカーを中心とする造船造機業の70.0%、家電メーカーや計測機器メーカーなどを含む電気機器製造業の64.7%、建設業の62.1%という結果だった。電気機器製造業で前回調査より3.3ポイント上昇したほかは軒並み操業率が低下しており、原子力専業で−2.1ポイント、造船造機業で−5.0ポイント、建設業で−1.0ポイントとなっている。こうしたことから、有効回答企業・全208社の原子力関係製品・製造設備の操業率(下記の計算式により売上高で加重平均)は前回調査の実績を2.9ポイント下回る62.1%となった。

    〔問1(2)〕採算ベースに乗る操業率

     原子力関係機器製造設備の採算可能ラインについて回答企業の加重平均をとると、前回調査(74.43%)とほぼ同じ74.02%となった。今回の平均操業率が62.06%であったことから、採算可能ラインを約12ポイント下回ったことになる(前回は9.5ポイント下回った)。主要原子力関係業種について採算ベースにのる操業率をみると、建設業73%、原子力専業77%、電気機器製造業78%、造船造機業83%であり、建設業10.8ポイント、原子力専業1.8ポイント、電気機器製造業13.3ポイント、造船造機業12.5ポイントなど、いずれも操業率の実績が採算ラインを下回った。操業率が採算ベースを超えたのはゴム製品製造業(+10ポイント)のみ。

  • 売上見通しについて

    〔問2(1)〕2003年度の売上実績を100%とした場合の1年後(2004年度)、2年後(2005年度)、5年後(2008年度)の売上

     2003年度の売上実績を100%とした場合、1年後(04年度)に同等の売上(100%)が見込めるとした企業は有効回答数214社中81社で、前回調査より11社の減少。80%まで見込めるとした企業数は59社で、前回の54社から増加した。これらの合計が140社となることから、全体の65.4%が1年後も概ね現状を維持できると見込んでいる。

     「2年後」の05年度については、120%以上の売上を見こむ企業数は50社・23.8%と前回調査(52社・24.1%)をわずかながら下回った。しかし、「5年後」の08年度では74社(全体の35.4%)に増加しており、前回調査の70社・32.9%を上回った。

  • 輸出について

    〔問3〕2003年度および過去の輸出実績と今後の計画について

     2003年度の原子力関係の輸出実績に関する設問では有効回答217社中25社(11.5%)が「実績あり」と答えており、年度実績の28社(13%)をわずかに下回った。当該年度では実績がなかったものの「過去に実績あり」とした企業は25社で、これは企業数も割合(12%)も前回調査と同じ。また、「03年度を含めた過去にも実績なし」と答えた企業は前回から7社増え167社。

     今後の計画についての設問では22社(11%)が具体的な計画があることを示唆した。なお、前回調査で27社(14%)が「計画あり」と回答した。一方、「参入を希望しない」企業の数は前回の123社(62%)から03年度は134社(65%)に増加した。

    具体的な計画はないが参入を希望するという企業の数は前回より3社増えた。

     三つ目の設問は今後の輸出量の見込みに関するもので、前述の設問で「具体的な計画あり」と答えた企業22社を対象に実施した。有効回答21社のうち7社(33%)が「(輸出量は)増加する」と答えており、前回調査の13社(48%)からほぼ半減した。「横ばい」あるいは「減少する」と答えた企業数は前回とまったく同数で、それぞれ11社、3社という結果になった。

6.商社の動向

  • 取扱い総額は縮小するも電気事業向け核原料物質が大幅増

     商社による原子力関係の取り扱い高は4,169億円で対前年度比−18.7%。年毎に増減が大きいという特徴はあるものの、80年代に記録していた1兆円台と比べると規模は確実に縮小している。03年度を見ると、国内取扱い高(2,363億円)の占める割合が56.7%と最も高かったが、金額比では前年度実績から25.7%減となった。輸入取扱い高は1,757億円で6.4%の減少。輸出高は48億円で前年度からは31.6%減った。

     納入先は「電気事業」の占める割合が最も高く、国内取扱い高の90.8%を占めた。輸入取扱い高は、電気事業向けのシェアが前年度実績から13.0ポイント上昇して66.7%に達した。 

     項目別では(国内、輸入、輸出も含めて)「原子炉機器・関係設備」のシェアが45.5%(1,896億円)で最も高かったが、前年度のシェアと比べると8.8ポイントの低下。国内取扱い高および輸入取扱い高で電気事業向けの納入総額がそれぞれ−29.4%(1,785億円)、−36.6%(10億円)となったのが影響した。

以 上


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