自ら考え問い続ける姿勢忘れぬ技術者に 岡山大学で安全文化シンポ

2015年11月26日

OkayamaSymposiumIMG_6617 岡山大学耐震安全・安心センター、津山工業高等専門学校、日本原子力研究開発機構(JAEA)人形峠環境技術センターが主催する第8回環境・エネルギーシンポジウム「安全文化と安全教育〜世界にはばたく安全技術者育成を岡山から〜」が11月24日、岡山大学創立50周年記念館で開催された。
 竹中信吾JAEAバックエンド研究開発部門人形峠環境技術センター所長は開会の挨拶で、東日本大震災の震源から最も近い原子力発電所でありながら無事に停止した女川原子力発電所の建設に関わった平井弥之助氏の例などを挙げながら、柔軟な思考と説得力を持つことの大切さを語った。
 服部拓也原産協会特任フェローは「原子力安全を確かなものにするために」と題する基調講演を行った。原子力安全対策の変遷をたどりながら、継続的な改善や疑問を持つ態度などが求められてきていることを示し、具体的行動に結びつけるために「なぜ」を5回繰り返して疑問を追及するトヨタ方式や、過去の宇宙船事故の事例による失敗要因の分析などを取り上げた。会場に集まった大学生などの若い世代に対しては、低線量被ばくによる人体への影響や高レベル放射性廃棄物の処分などの問題について、科学技術と社会、専門家の役割と社会的責任、不確実性への対応といった切り口から、議論を深めていってほしいと期待を込めた。
 タチアナ・ユーヴルモヴィック・ユタ大学原子力工学科専攻長は、同大学での原子力エンジニアリングプログラム(UNEP)で学ぶ安全文化についての基調講演で、DevonWayというソフトを用いての過去の事例や新しい知見などの習得や、チームワークを通じて新たな検査機器の試作に至った例などを紹介し、安全文化の本質を考える力を養うカリキュラムを紹介した。
 ライアン・スカウ・ユタ大学原子力工学科主任研究員は、海軍や電力会社に従事した自身の経験も踏まえながら、スリーマイルアイランド事故の経験から原子力発電運転協会(INPO)の設立や複合事故対策の強化など米国が進めてきた安全対策について説明。現在はより柔軟で汎用性が高く人間に焦点を当てた対策が求められていることについて触れ、不測の事態に備えるべきことや常に安全文化を進化させていくことの大切さを強調した。
 渡辺文隆JAEA安全研究・防災支援部門原子力緊急時支援・研修センター副センター長は、原子力安全文化および核セキュリティ文化とは「安全問題の重要性にふさわしい注意を最優先に払うことのできる組織や個人の特性と姿勢の総体」であると定義するIAEAの概念について紹介。マネジメントシステムと同様に個人およびリーダーのふるまいに重点が置かれ、個人の態度においては厳格かつ慎重な取り組み、用心深く問いかける姿勢、素早い対応などが期待されることを解説した。
 本田広信中国電力電源事業本部部長(原子力品質保証)は、安全最優先の組織風土、継続的な改善活動、コミュニケーションの充実に重点を置いた中国電力の原子力安全文化醸成について説明し、経営層と発電所員との意見交換会やヒューマンエラー防止検討会などの実施を通じて、マイプラント意識や技術者倫理の向上が図られてきた実績を示した。
 小林敏郎津山工業高等専門学校電子制御工学科教授は、JAEAや岡山大学、中国電力との協働により教材の開発やインターンシップなどを充実させた結果、同校では現在14の原子力関連科目分野を扱っており800人以上が履修していることを報告した。
 質疑応答では、原子炉が停止したままでは学んでいくこともできず再稼働をすべきではないかという会場の声に対し、服部特任フェローは「再稼働はしていくべきだと思うが、その前に国民へ十分な説明が必要であり、各電力会社は精力的に安全対策に取り組んでいるが、まだ議論が尽くされていないと感じる」とさらに対話を進めていく姿勢を促した。
 則次俊郎津山工業高等専門学校校長は閉会挨拶で、原子力安全は結局のところ科学技術を扱う人間の問題に行きつくとして、志、知力、行動力を兼ね備えた技術者を養成していきたいと意欲を示した。