「教科書記述が増えて放射線教育が充実すると考えるのは幻想」理科教育の現場語る
原産協会が放射線利用の理解促進を図ることを目的として関係機関と協力活動を行う「量子放射線利用普及連絡協議会」(座長=勝村庸介東京大学名誉教授)の会合が12月1日、都内会議室で開かれ、「放射線治療の最新の状況」、「中学理科における放射線教育」について、それぞれ現役の医者、中学理科教諭からの講演を受け、意見交換を行った。
山下孝・日本アイソトープ協会常務理事は、RI(放射性同位体)による放射線治療の現状と今後について歴史を振り返りつつ解説し、患部のみに正確に照射する技術の革新によって複数回照射しなくとも済むようになり、かつてに比べ患者の負担は軽くなってきていることを示した。コバルト60線源3個を用いてMRI撮影下に照射し、照射ビームの可視化を実現した装置「VIEWRAY」が2017年に日本で使用開始となることにも期待を込めた。
がん患者への説明は究極のマンツーマン放射線教育なのではないかという会場からの声に対しては、手術をすることと放射線治療をすることのメリットとデメリットを明確に示した上でどちらを選ぶか決めてもらっていると説明した。
畠山正恒・聖光中学高等学校教諭は、中学校理科教育での放射線教育について、新教科書では内容がてんこ盛り状態で内容をこなすのに精一杯であることを指摘。また一社を除き全教科書で中学三年三学期に放射線の項目を配置しており、授業現場では受験を控えて消化試合状態の時期となっていることを述べた。さらに原子力発電からしか放射線が語られていないこと、小学校から中学校への難易度のギャップが激しく生徒の発達段階が考えられていないこと、放射線を学んでいない理科教員が質問できる場がないことなどの問題を挙げ、教科書記述が増えたからといって必ずしも放射線教育が充実するとは限らないことを語った。
放射線には怖くて体に悪いというイメージがすでに刷り込まれてしまっているのをどうすればよいかとの質問には、「まずひっくり返すこと」にしているとして、放射線はどこにでも存在し、例えばバナナにも自分にも放射能があることを教えていると応えた。