IEA事務局長・ビロル氏が講演、2040年のエネルギー情勢「インドが最大の需要源に」
IEA事務局長のファティ・ビロル氏は12月21日、総合資源エネルギー調査会、日本記者クラブ、日本エネルギー経済研究所で講演を行い、IEAがこのほど発表した「World Energy Outlook 2015」(WEO2015)について、先般のCOP21における新たな国際枠組み合意や、化石燃料価格の低下傾向などを踏まえながら説明し、日本のエネルギー政策に助言した。ビロル氏は9月にIEA事務局長に就任した。
経団連会館(東京・大手町)で行われたエネルギー経済研究所のシンポジウムに登壇したビロル氏は、2040年までの世界のエネルギー情勢について、アジア地域での需要が増え続ける中、中国では、急激な経済成長の反面、エネルギー効率化とも相まって、非製造部門拡大などの経済構造変化により、エネルギー需要の伸びは鈍化傾向に入るとしている。一方、インドでは、新規インフラ開発や電力に接続する人口の増加などから、エネルギー需要は大幅に増加し、特に石油の消費量では、自動車の普及拡大により世界最大の増加要因となると分析した上で、「中国は引き続き牽引力となるがインドが最大の需要源となる」との見通しを示している。
また、石油市場に関して、ビロル氏は、低価格が10年単位で続けば、政情不安な中東への依存度が1970年代の水準(約75%)に戻り、石油安全保障上好ましくないとして、低油価が長期化することに警鐘を鳴らした。
こうした見通しを背景に、ビロル氏は、世界のエネルギー効率化政策の拡大について、2005年から2014年の間に倍増している状況を図示し、「まだ大きなポテンシャルが存在する」とした上で、IEAとしては今後、「世界の省エネセンター」として注力していく考えを述べた。
日本のエネルギー政策に対して、ビロル氏は、安定供給、経済効率性、環境適合性の3Eバランスを維持する鍵として、漸進的な原子力発電再稼働、省エネルギー・再生可能エネルギー拡大の必要性を述べたほか、2016年のG7議長国として日本の取組に期待をかけた。
講演を受けて、パネリストとして登壇した元IEA事務局長で笹川平和財団理事長の田中伸男氏は、中国とインドのエネルギー需要急増に関し、両国の石油輸入量はいずれOECD全体を上回ると述べたほか、新興国の原子力導入を見据え、今後の日本の原子力技術について、福島第二原子力発電所を活用した使用済み燃料処理の実証試験を行うなど、新しい技術体系を構築する必要を強調した。また、地球環境産業技術研究機構参与の山口光恒氏は、COP21の「パリ協定」に関し、「2度目標」の科学的根拠に疑問を呈した上で、気候変動の不確実性についても、IEAで検討していく必要を訴えた。