原子力学会の専門委員会が研究炉の役割検討で中間報告、規制の合理化など提言
日本原子力学会の専門委員会はこのほど、国内の研究炉を巡る課題について提言を取りまとめた。国内11基の研究炉および臨界実験装置の役割について、主に人材育成の観点から行った実態調査を踏まえた検討結果を中間報告として公表したもので、これに関し、同学会会長の上塚寛氏(日本原子力研究開発機構特別顧問)は1月13日の年頭記者会見で、新規制基準対応のため研究炉全基が停止している現状から、「大学で原子力を専攻する学生が現場体験のないまま卒業していくのは非常に問題」と憂慮し、学会の重点活動の1つとして、引き続き議論していく考えを強調した。
原子力学会は2015年7月、実際に触れることで核反応現象や原子炉施設の管理などを実感・実体験できることから、人材育成の「必須のツール」である研究炉の果たす役割、そのために解決すべき課題について検討を開始し、実態調査を行うとともに、日本学術会議の総合シンポジウムを通じ他学会からも意見を聴くなどした。
調査結果によると、研究炉による人材育成は、(1)カリキュラムに沿って進められる教育・実習・研修、(2)研究開発を通じた研究者・技術者の育成――に大別され、これらが全運転時間に占める割合は、大学の施設で90%程度、日本原子力研究開発機構や民間企業の施設でも30~40%に上っており、震災前、原子力を志望する学生は卒業までの間に原子炉に触れる機会が確保されていたものと考察している。震災以降は、研究炉が順次停止したことにより、実習は原子炉運転シミュレータを用いたものとなり、学生が実機に触れる機会は激減した。
一方で、今後も一定規模で原子力エネルギー利用を継続していく見通し、それに伴い発生する放射性廃棄物の処理処分、福島第一原子力発電所の廃炉作業など、長期的な課題に関わる技術者の育成や研究開発を行う場として、研究炉の役割は引き続き重要なものとみて、中間報告では、今後の課題を(1)新規制基準への対応、(2)高経年化対策、(3)使用済み燃料の措置、(4)核セキュリティ強化・燃料低濃縮化、(5)廃止措置・次期研究炉の検討、(6)運転員の力量と士気の確保――に整理した。新規制基準への対応に関しては、調査対象施設のうち、7基については既に原子力規制委員会に審査が申請されているが、熱出力・炉型式・燃料仕様がバリエーションに富んでいるほか、原子力発電所と同様に、自然災害に対する評価への厳密な論証が求められていることなどから、審査に時間を要し、まだ1基も再稼働に至っていないため、「発電炉に比べ内蔵する放射能量がけた違いに少ない研究炉への基準」として、新規制基準の合理性について検討する余地があると提言している。
また、2015年12月に、1965年に初臨界した原子力機構のJRR-4の廃止措置計画が規制委員会に認可申請されたところだが、今回の中間報告では「遠くない将来には現在の施設すべてが廃止措置対象」と見通し、残すべき施設と廃止すべき施設の選定に関し、国レベルでの俯瞰的な検討が必要とも提言した上で、利用ニーズに立脚した次期研究炉建設の重要性を掲げており、引き続き、海外の状況も踏まえながら、調査を進めていくこととしている。