特集 アトックス「現場経験を活かし技術力を高めた今こそ飛躍の時」
福島第一原子力発電所の除染や汚染水処理の最前線で活躍中のアトックスは、事故が起こる前から日本全国の原子力発電所の保守管理業務で広く知られていた。現場力に加えて技術力に磨きをかけた今、小型遠隔除染装置RACCOONを始めとする自社製品の開発、アレバとの合弁会社ANADECの設立、国際廃炉研究開発機構(IRID)への参加など、次のステージへと力強く歩みを進めている。同社を担う3氏に話を伺った。(中村真紀子記者)
矢口敏和代表取締役社長=写真中央
岸本邦和(前)専務取締役=写真右
藤川正剛常務取締役(技術開発センター総括)/
ANADEC代表取締役社長=写真左
<事故対応で仕事の幅を広げ、技術面でのソリューションも提供>
アトックスは、除染、廃棄物の処理、放射線管理の3つを基本業務として行っている。国内の各発電所では約1年に1回の定期検査があり、原子炉ウェルや原子炉キャビティの除染、タービンや復水器などの保守作業などを業務の中心として全国で仕事を行ってきた。アトックスのはじまりは1957年に日本原子力研究所(現:日本原子力研究開発機構)の東海研究所内の除染作業を受注した時に遡り、今では全国の原子力発電所が立地する地域には全て事業所を置いている。また近年は、原子力発電所の保守管理だけでなく、放射性物質の取り扱い業務も行っている。医療業界でRI(放射性同位元素)を取り扱う施設での放射線防護および放射性治験薬製造などの事業も手掛けている。
2011年3月の福島第一原子力発電所の事故で、アトックスは大きく変わった。事故当初は、多くの社員が被災者になったこともあり一時混乱したが、創業以来お世話になってきた電力会社・地元の皆様に恩返しするのは今しかないと考え、すぐに事故対応を決断した。課題が山積する誰もが経験したことがない状況の中、汚染水処理装置の運転などに挑戦し、電力会社やメーカーと築いてきた信頼をさらに発展させる大きなきっかけになった。アトックスが単なる作業会社から一歩踏み出したこの時が第二の創業だと思っている。
アトックスは、国プロ事業「総合的線量低減計画の策定」を幹事会社としてメーカー、ゼネコンとの連携のもと完遂した。これをきっかけとして、従来の作業会社から、設計や許認可なども含めてより幅広い仕事に取り組める集団へと飛躍しようとしている。
<技術開発センター、ANADECの概要および連携>
千葉県柏市に1988年8月開設したアトックス技術開発センターは、現在約10,000平方メートル(うち大型実験棟約3,400平方メートル)の敷地面積を持つ。6年前に近隣の原子力研究施設も買い取り、研究設備・施設を大幅に充実・高度化した。敷地内には原子炉ウェルのモックアップ施設、除染・解体・遠隔技術の試験施設や各種の化学分析施設があり、同業他社にはない大線量のコバルト60ガンマ線照射施設も保有している。技術開発センターは10年前の40名くらいの規模から、今では倍以上の80数名が技術開発に従事している。
福島第一原子力発電所事故後は、アトックスの技術と経験を活かせる分野として除染と遠隔技術に着目し、除染作業に用いるロボットや汚染水の処理装置などを自主開発してきた。その一つである遠隔除染装置「RACCOON」は、現場投入まで2年半ほどかかったが、福島第一原子力発電所の2、3号機で実用に供されており、2014年にはロボット大賞の公共・特殊環境ロボット部門で優秀賞を受賞した。現在は、狭隘部除染装置「SWAN」を開発中であり、間もなく現場に投入する予定である。
また、技術力を高め一層貢献していくための方策の一つとして、フランスのアレバとの合弁会社ANADECを2014年7月に設立した。ANADECのコンセプトは、アレバの高度な技術を導入してアトックスの現場力を活かしながら国内向けにカスタマイズしていくというもので、現在はアレバからの技術者3名を含む総勢12名で、柏市に本拠地を置き活動している。ANADECは設立早々に、国の公募事業である海水浄化、土壌浄化の技術検証の2プロジェクトに加え、さらに燃料デブリ取り出し代替工法として気中での取り出し工法の概念検討の計3つを受託し、アレバ、アトックス、ANADECの3社でコンソーシアムを組んで着実に成果を挙げることができた。いずれのプロジェクトも引き続き検討を進めているが、なかでも海水浄化や土壌浄化についてはフィージビリティスタディ(FS)を行っており、いよいよ机上の検討から現場で実機を使っての試験という段階に進みつつある。
アレバ、アトックス、ANADECはこれからも技術協力を進め、電力会社、メーカー、研究機関等との連携を深めながら総合力を発揮して、国内外の原子力産業の再興に貢献したい。
<海外や地域と協力を進めながら福島の復興に貢献>
現在福島には社員の約4分の1が在籍し、汚染水処理装置の運転業務をはじめ、施設の清掃・除染、放射線管理などに携わっている。高橋明男日本原子力産業協会理事長も「福島の復興・再生なくして、日本の原子力の将来はない」とよく言及していらっしゃるが、アトックスも全く同じ気持ちで取り組んでいる。
原子力に対する社会からの評価が依然として厳しい中、原子力への理解や信頼を取り戻していくには、国内の原子力関係者だけでなく、豊富な経験を持つ海外の技術者にも福島で活躍してもらい、世界の叡智を集めて取り組んでいるかたちを示すことも重要である。海外の会社と仕事を行う上で、言葉を始め技術的なやりとりなどで意思疎通に苦労する面も多々あった。しかしそうした課題を乗り越え、アレバとはジョイントベンチャーであるANADECを設立して同社技術を福島に導入するという関係を築き上げた。
一方、福島第一原子力発電所事故から5年が経ったが、地元の皆様が戻ってこないと廃炉がいくら進んでもやはり本当の意味で社会からの理解は得られないと感じている。そのためにも地域での経済活動なども含め、地元の皆様が戻れるような環境づくりを進める必要がある。そうした考え方で、アトックスは7月から福島復興支社を富岡町に移すことにした。また、事故前には大熊町と大熊商工会と大熊農協とアトックスによるホテル「ステーションプラザおおくま」を同町駅前で運営していた。被災して休業中だが、法人格を活かして発電所周辺でも地域に関わり、貢献できたらと思う。
<若手の力を伸ばし将来も安定的な原子力産業へ>
原子力業界では長期的・継続的な人材確保と育成が大きな課題になっている。アトックス社内においてはダイバーシティを推進し、国籍、年齢、男女、新卒・中途採用の区別なく全ての社員がいきいきと活躍できる「多様な働き方のできる風通しのよい職場」をめざすことを経営方針に掲げている。また、福島復興支社にアトックス社員に加え、協力企業の社員も利用できる技能訓練センターの設置を予定している。
アトックスでは、昨年大卒者を13名採用したところ、今年は17名に増員した。またインターンシップの受け入れも積極的に行っており、日本人の学生はもちろん、これまで4名のフランス人学生がアトックスやANADECでインターンを経験している。
アトックス社内では、2014年に今後の会社を担う30代前後の社員が中心となって「中長期事業計画」を作成し、その実現を目指す具体的な取り組みをまとめた「全社5か年計画」を昨年スタートさせた。若手が自分たちで会社を作り上げていくという意識を持つよい機会になったととらえている。アトックスでは、これからも原子力産業の再生やエネルギー・環境をめぐる課題の解決に貢献することを基本として、一段高い挑戦を積み重ねていくことで一層の発展を目指したい。