原子力委員会と規制委員会が人材育成で意見交換、新たな研究炉の必要性も

2016年7月21日

AECNRADISCUSSION 原子力委員会と原子力規制委員会は7月20日、原子力分野の人材育成に関する意見交換を公開の場で行った。原子力委員会の岡芳明委員長は冒頭、(1)優秀な人材の確保、(2)基礎の体得、(3)能力の向上――について問題を提起し、両委員会の委員から、施設の活用や他分野交流の重要性などを中心に意見が述べられた。
 岡委員長は、大学で長く教鞭をとっていた経験から、「大学の制度改革が原子力教育に影響してきた」として、大学院の改編による原子力教育の規格化や、初等中等教育段階では少子化についても問題視するなど、教育の場から見た人材確保の懸念材料を掲げた。さらに、期間が限定された国の競争的資金のあり方や現場経験者のリタイアなども課題にあげ、「いかに魅力を伝えていくか」を訴えた。
 これに対し、規制委員会の田中俊一委員長は、「人が育つためにはインフラが要る」として、現在同委が新規制基準適合性確認の審査を進めている研究炉の重要性に理解を示しながらも、「皆40~50年経っている。管理している人のレベルも落ちており、かなり深刻に考えていかないといずれ破綻してしまう」などと、陳腐化に危機感をあらわにした。規制委員会では、折しも同日の定例会合で2016年度から新規に公募する「原子力規制人材育成等事業」の採択結果が報告されたが、更田豊志委員は、「セキュリティとセイフティを両方理解するには机上の勉強だけではできない」と述べ、汎用性のある新たな研究炉を設置する必要に言及した。また、2015年の規制委員就任以来、原子力分野の人材確保に対する危機感を主張してきた伴信彦委員も、立入検査の経験から大学における放射線施設の老朽化を指摘した上で、「日本全体としてグランドデザインを描いていくべき」などと、引き続き検討していく必要を示唆した。
 一方で、規制委員会の田中知委員は、施設の維持・管理や核セキュリティの問題に加え、「負のレガシーをどう整理していくか」などと、研究廃棄物の増加・蓄積の問題も指摘した。合わせて、田中委員が大学教育に携わった経験を踏まえ「全体を総合的・俯瞰的に考える」姿勢を養っていく必要を述べると、原子力委員会の中西友子委員は総合研究大学院大学の活性化を、規制委員会で地震・津波関係を担当する石渡明委員は他分野とのコミュニケーションシステムの構築など、それぞれ分野・学域を超えた連携の必要性を訴えた。
 この他、原子力委員会の阿部信泰委員は、専門とする軍縮・不拡散の面から、国際機関で活躍できる人材の育成や倫理観に関して意見を述べた。
 意見交換会終了後、記者団の取材に応じた岡委員長は、今回のやり取りを、現在原子力委員会で進めている「原子力利用の基本的考え方」の検討に活かしていく考えを述べた。