学術会議、Web会議システムによる「討論型世論調査」結果を公表
日本学術会議の社会学委員会は8月24日、高レベル放射性廃棄物の処分について、グループ討議を行うことによって意見がどのように変化するかを分析する「討論型世論調査」の結果を公表した。
学術会議は2012年9月、高レベル放射性廃棄物の処分について、科学的により優れた対処方策の取り入れを可能とするよう数十~数百年間暫定的に保管すること(暫定保管)、無制限に増大することを防ぐために発生総量の上限を予め決定すること(総量管理)を柱とする政策枠組みの再構築などを提言した。今回の調査は、この暫定保管や総量管理に対する理解と合意形成の可能性について、2015年3月にWeb会議システムによる討議実験を通じ検証を行ったもので、20歳以上の一般市民を対象に、年齢、性別、居住地、職業について、ほぼ有意差なく、約100名の有効参加者がサンプルとして抽出された。討議は、「最終処分のリスクと責任」と「最終処分地を受け入れますか?」の2テーマについて、15人程度の少人数グループに分かれて行い、討議の後、全グループによる専門家との質疑応答セッションを設けるという形式で、同一内容のアンケートを、討議の1~2か月前(T1)、直前(T2)、事後(T3)の計3回実施することにより、政策態度の変化を分析した。また、比較のために、討議参加者以外にも1,000名のモニターの協力を得て、同一のアンケートを行っている。
グループ討議による政策態度の変容を見ると、高レベル放射性廃棄物の処分方法で、(1)政府が方針とする地層処分、(2)可逆性(深地層に埋設していく過程で何らかの不都合が生じた際、すべて取り出して他の場所に搬出する)を前提とした地層処分、(3)暫定保管、(4)総量管理――について意見を尋ねたところ、政府が既定方針とする地層処分に対する賛成の割合は、T1で32.7%だったのが、T3では48.5%と有意に増加した。可逆性を前提とした地層処分に賛成の割合も、T1で53.5%だったのが、T3では60.4%に増加している。T1調査実施後、討議用資料を参加者に配布しT2調査を実施しているが、暫定保管に対する賛成者は、T1で60.4%、T2で63.4%、T3で75.2%と段階的に増加した。
総量管理については、2つの設問に分けて尋ねており、「処分方法や処分地の議論は、社会的に受け入れ可能な高レベル放射性廃棄物の総量について決定してから行うべきである」という考え方に賛成するのは、T1で57.4%だったのが、T3では66.3%に増加した。さらに、「高レベル放射性廃棄物の総量が社会的に受け入れ可能な量を超える場合には、原子力発電への依存度を見直すべき」という考え方に賛成するのは、T1で82.2%だったのが、T3では85.1%とほとんど変化していなかった。
+
+
これらの結果を総合して、調査報告では、「暫定保管と総量管理」という学術会議の提案に対する支持率は、政府の「地層処分および地層処分に可逆性を加えた方針」よりも高く、その最大の理由として、この提案が原子力発電への依存度を所与として廃棄物問題を考えるのではなく、廃棄物の受け入れ可能量から逆に依存度を見直すという原子力発電の是非に関わる視点を含むことにあるなどと推察している。
また、暫定保管の期間についての問いでは、T1では「10年未満」が56.4%と最も多かったのが、T3では「10~30年」が41.6%と最も多くなった。これより長期間となる「30~50年」、「50~100年」、「100年以上」との回答は、T3でも合わせて14.8%にとどまっており、「一世代程度の間に決着すべき」と判断しているものの、討議を経て、検討には長期間を要するという認識に変わったものと分析している。
地層処分に伴うリスク認識の変化に関しては、火山、地震、地下水、戦争・テロ、工事中の事故の5つをあげて尋ね、そのうち、火山、地震、地下水については、T1で70%がこれらの危険を回避できないと考えていたのに対し、T3では10%程度減少した。一方で、戦争・テロのリスク、工事中の事故リスクについては、T1でおよそ50%が危険を回避できないと考えており、討議を経てもほぼ変わらなかった。
最終処分場の受け入れ態度に関しては、「あなたがお住まいの市町村に処分場が立地することに賛成しますか」と尋ねており、賛成者の割合は、T1で11.9%だったが、T2で17.8%、T3で23.8%にまで増加した。調査報告では、こうしたNIMBY(not in my backyard)的態度が討議によって減少する背景に、「負担の地域公平性を重視する倫理観」があると予想し、集中立地や分散立地の是非に関する回答と合わせて詳しく分析している。