FNCAシンポが開催、「人材育成は各国共通の最重要課題」
原子力技術を通じアジア地域の社会経済の発展を目指す協力枠組み「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)において、今後の日本が果たす役割について考えるシンポジウムが2月13日、都内で開催され、2000年の発足からこれまでの取組を振り返るとともに、FNCA日本コーディネーターの和田智明氏他、参加各国の代表らが登壇し討論を行うなどした。
FNCAは、日本、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ、ベトナムが参画する原子力技術に関する政策対話の枠組みで、日本の研究・技術者のリードにより、主として放射線利用を中心としたプロジェクトが実施され成果を生んでいる。例えば、1993年から行われている放射線治療プロジェクトでは、アジア地域で罹患率が高いとされている子宮頸がんの治療に向けて確立したプロトコル(標準治療手順)がFNCAの全参加国で採用されており、5年生存率が75%に達している。また、放射線育種プロジェクトでは、これまでも害虫や干ばつに強いバナナ、大豆の新品種開発が行われているが、アジア諸国のニーズに対応し2007年からは稲の品種改良にも取り組んでおり、ベトナムで開発された病害に強い稲では5~14%の収穫増をもたらすなど、さらに成果を上げている。
FNCA日本コーディネーターの和田氏は、FNCA発足時のコーディネーターであった故町末男氏の尽力に敬意を表し、「新たにこのような枠組みをスタートさせることは、アジア地域の政治状況から考えると不可能だと考えており、せっかくあるこの国際協力システムをうまく活用していくべき」として、日本の原子力分野の専門家や若手研究者の活躍に期待を寄せている。
シンポジウムでは、FNCA参加各国の登壇によるパネル討論(=写真上)が行われ、その中で、タイは、放射線育種と並ぶ農業プロジェクトの成果として、バイオ肥料の普及が農業のコスト削減や農機具の開発に通じることなどをあげ、FNCAの活動がもたらす経済的付加価値やマーケティングの拡大に期待を寄せた。2011年からFNCAに参加したモンゴルは、食の多様化を見据え、農業分野のプロジェクトに高い関心を示す一方で、FNCAの活動がより効果的・効率的なものとなるよう、プロジェクト評価の必要性を強調した。また、過去に原子力発電計画を有していたフィリピンは、「新大統領の政権は、原子力エネルギーにオープンな考えがある」などと述べ、今後、発電炉に係る人材養成を見据え10MW級の研究炉整備を早急に進める考えを示した。
これを受けて行われた日本の役割について考えるパネル討論(=写真下)では、量子科学技術研究開発機構量子ビーム科学研究部門の田中淳氏がイオンビーム育種の実用化例を披露し、「日本だけでなく是非世界で利用してもらいたい」との考えから、2009年からFNCAプロジェクトとして取り組んでいることを述べ、「知ってもらう機会を増やす。互いの国で理解を深め合う」必要性を強調した。また、群馬大学重粒子線医学推進機構の大野達也氏は、FNCAプロジェクトで確立された子宮頸がんプロトコルが、各国の放射線治療における人材育成のトレーニング・プログラムともなっていることを述べた。
討論の中で、インドネシアの参加者は、「教育はすべての基本。知見を持った国が是非サポートして欲しい」と、マレーシアの参加者も「FNCAを通じた人材育成を図るべき」とそれぞれ訴えていたが、和田氏は、シンポジウムの締めくくりに際し「いかに若い人たちを原子力の世界で育てていくか」と述べ、人材育成が各国共通の最重要課題であることを強調した。