放射線教育はアジア諸国でも課題、日本の経験共有に期待が高まる

 福島第一原子力発電所事故による放射線の影響から、多くの人々が避難を余儀なくされ、風評被害も発生した。一方で、放射線は、工業、医療、農業、環境保全など、様々な分野で国民生活の向上に寄与している。放射線について、われわれは、いたずらに恐れることなく、正しく理解し、自ら考えて行動することが求められている。その基礎となる知識を養うには、中学・高校での放射線教育が重要な要素の一つだが、放射線教育に関しては、「若手教員が学校で放射線について学んでいない」、「実験器具・材料が入手しにくい」という現状もある。
 こうした状況は、安定エネルギーの確保のオプションとして、原子力発電の導入を模索しているアジア諸国でも共通の課題となっている。「教育はすべての基本。知見を持った国が是非サポートして欲しい」、各国から、日本の産業界や高等教育・研究機関による支援に対し期待が寄せられている。
 東京大学環境安全本部准教授の飯本武志氏の取組を紹介したい。

IAEAプロジェクトで東大・飯本氏が教員指導に、日本の教育ツールが高く評価
 専門家育成の観点から、IAEAでも若年世代への放射線教育の重要性が認識され、2012年に、東南アジア諸国を中心に教員への研修などを行う中等教育支援プロジェクトが開始された。この支援プロジェクトのもとで実施された放射線教育パイロットミッションでは、日本の教育用簡易放射線サーベイメータ「はかるくん」実験、霧箱実験などが高く評価されているようだ。
 飯本氏は、IAEAからの要請を受け本プロジェクトで継続的に指導に当たってきた。このほど、同氏は2月27日~3月3日、インドネシア・ジョグジャカルタで行われたプロジェクトの総括会合に出席し、パイロット国で実施してきた教員向け研修や中高生への授業実演の経験を振り返り、「良い教育システムの確立と熟練した教員の人材育成には長い時間がかかる。国際的な視点での良いアドバイザーが必要」などと指摘し、プロジェクトの継続・発展が必要なことを訴えかけた(=写真上)。
 飯本氏は、日本が提案した「放射線教育2時間カリキュラム」(講義、霧箱実験、「はかるくん」実験)を試験導入したパイロット国での教員セミナー(2015年1~4月、フィリピン、インドネシア、マレーシア)で、カリキュラムの背後にある理念や、実施上の留意点の解説のみならず、実習にかかる全工程を実演して見せるなど、実験器具や材料の準備・後片付けも含め、実施教員が認知すべき作業の手順にも重点を置いて指導し、参加者に大変満足されているという。一方、カリキュラムの前半で行う放射線の基礎に関する講義に際しては、文部科学省が作成した副読本の英訳版なども有効だが、多くの情報を詰め込むのではなく、「Wow factor」(新しい発見や驚きや魅力を感じる要素)を盛り込むことがポイントだと同氏は述べている。

インドネシアで放射線に関する実習を視察する飯本氏(左)


 プロジェクト総括会合では、IAEAから、これまでの日本による積極的な活動支援が高く評価されたほか、各パイロット国の要請を踏まえた今後のさらなる研究開発に期待が寄せられ、2018年以降の第2期プロジェクト実施が正式に決定した。第2期プロジェクトには、イスラエル、ヨルダン、バングラデシュ、ミャンマーなども参加に意欲を見せている。
 飯本氏は、放射線教育支援サイト「らでぃ」(https://www.radi-edu.jp/)の動画資料監修等でも活躍中だ。