学術会議、RI使用施設のネットワーク型共同利用・研究拠点整備に向け提言
日本学術会議は9月6日、大学などにおける放射性同位元素(RI)を使用する施設の老朽化に鑑み、今後の研究・教育活動の維持に向けて、ネットワーク型の共同利用・研究拠点の整備を求める提言を発表した。提言が対象としているRIは、放射線障害防止法の規制区分で非密封RIに分類されるもので、医療分野ではがん診断に利用するモリブデン99、工業では電球の製造に利用するクリプトン85が多くを占めている。
提言では、新たな放射性医薬品の開発、各種のイメージング、トレーサー実験における研究の発展、福島第一原子力発電所廃炉や核融合エネルギーの開発に必要な人材の育成、さらに、中学・高校での放射線教育重視に伴い、大学における非密封RI使用施設が一層重要になっていると述べている。一方で、国公私立大学の放射線施設などが組織する「大学等放射線施設協議会」が2014年に281の施設を対象に実施したアンケート調査によると、10年前と比較して、RIの数量、利用件数、利用者数ともおよそ70%の施設が減少していると回答しており、また、60%の施設から設備・装置に関して老朽化の懸念が示された。設備の改修・更新には多額の経費を要するが、直接的な成果に反映されにくいという事情から、各大学の非密封RI使用施設は廃止される傾向が続くものとみられている。
こうした施設の老朽化や、更新に多額の経費を要し利用者が減少している現状下、学術会議の専門家委員会では、すべてを維持するのではなく、「共同利用の可能な拠点を設けて、その限られた施設を効率よく維持・利用することで、全国の教育研究レベルは十分維持できる」として、ネットワーク型の共同利用・共同研究拠点の整備を提言した。これは、全国に非密封RI使用施設を持つ拠点を10~20程度整備することで、各拠点の老朽化対策として毎年実施する施設の更新を予算的にも実現可能な1~2か所程度に抑えるとともに、活動が停滞気味の施設の廃止も検討することで、日本全体での最適化を図る方策だ。また、各拠点では、多様なRIを用いた研究とともに、放射線業務従事者のための教育訓練に加え、理科教員、医師、放射線技師などに必要な放射線教育を積極的に進めるとともに、ネットワークの利点を活かし、教員の相互派遣なども含め、幅広く原子力・放射線教育におけるアウトリーチ活動を行うこととしている。