特集:世界原子力大学(WNU)夏季研修 参加者たちの声 多くの学び業務に活かす

2017年11月15日

 2017年世界原子力大学・夏季研修(WNU-SI)の報告会が10月19日、原産協会で開催され、原産協会の「向坊隆記念国際人育成事業」の助成を受けて参加した5名が発表を行った。スウェーデンのウプサラで6月27日から8月4日までの6週間行われた同研修には、32か国から76名(うち約3割が女性)の若手原子力技術者や規制関係者などが参加。講義に加えてグループ討論およびプレゼンテーションが行われ、バーセベック原子力発電所、オスカーシャム原子力発電所、エスポ地下研究施設、オルキルオト原子力発電所、オンカロ廃棄物処分施設等などの原子力関連施設も視察した。以下に参加者5名の声を紹介する。

ウプサラの風景


関西電力原子力事業本部原子力安全部門安全技術グループ 武田直也氏
 WNU夏季研修では、現在の職務である安全評価に関連する講義があり、「自分が日々実施している業務が原子力プラントのリスクを増加させるものではないのか?」と常に問いかける姿勢が重要という講演者の発言が印象に残った。また、確率論的リスク評価(PRA)によって得られたリスク情報を活用したプラントの安全性向上の取組みについても紹介があり、原子力プラントの安全・安定運転を達成するためには、基盤となる組織及びその構成員の安全文化をさらに強化した上で、リスク情報の活用を推進していくことが重要であることを再認識した。
 グループワークにおいては、最初は海外からの参加者の積極性に日本とのギャップを感じて戸惑ったものの、時間の経過とともに徐々に慣れていき、自分の意見を積極的に発信するだけでなく、最終的には議論やグループワークをまとめるような役割の一端を担えたと思う。文化・言語が異なるグループの中でこのような経験ができたことが本研修で一番の収穫であった。
 本研修に参加して、原子力を取り巻く世界情勢や専門外の分野について幅広い知識を修得するとともに、各国からの参加者との議論を重ねることで、グローバルな視野が獲得できた。これらの知識や経験は、今後管理的な立場で原子力発電所の運転管理や設備・運用変更等の原子力安全に関する業務に従事していく上で、意思決定プロセスに活かしていきたい。また、世界各国からの参加者との交流・意見交換を積極的に実施することにより、国際的な人材ネットワークが構築できた。今後は、構築したネットワークの維持に努めるとともに、世界各国の原子力事業を取り巻く最新の生の情報を得るためのツールとして、自身の業務に活用していきたい。

講義の風景


三菱FBRシステムズプラント設計部冷却系システム第二グループ 井手章博氏
 WNU研修に参加することで、改めて原子力技術を取り巻く周囲の環境が常に変化していることを認識した。具体的な内容として、COP21での二酸化炭素排出量の削減目標がある中で、アメリカで生じている天然ガス燃料の低価格化、ウランの供給過多及び福島第一原子力発電所の事故による価格低迷、再生可能エネルギーの技術革新及びエネルギー又は二酸化炭素貯蔵技術の技術革新による低価格化&容量増大、放射性廃棄物に関する処分地問題や超長期間の貯蔵技術など、原子力を取り巻く種々の制約条件について、講義やグループワークでの他国の参加者との議論を通じて、より身近なものとして知ることができた。これにより、これまで目が届いていなかった範囲にも届くようになり、一つ上の視点から物事を俯瞰することができるようになったと感じる。今後は周囲の環境をフォローしていく中で、下名が携わる高速炉技術開発を含め、世の中で何が求められているか、そこに何を自分(達)が提供できるかを見極められるよう、常にアンテナを高く保ちたい。
 WNU研修で最も重要なことは、次世代のリーダーである他国の参加者と対面で意見交換を行い、学び合うことにあると考える。話題は当然ながら原子力が中心であるが、それ以外にも、日常生活の中で互いの文化や生活など多種多様なトピックで意見を交わし、講義前の朝食から夕食後のバーまで、生活を楽しむことで深い絆が生まれ、ネットワークが構築される。非常にタフな6週間であり、得がたい貴重な経験を得た6週間であった。
 今回の研修で得た経験を基に、原子力産業界の発展に貢献していきたい。

リージョナルパーティー(アジア)


日立GEニュークリア・エナジー原子力設計部原子力精機設計グループ 荒川貴行氏
 BWR機器設計という限られたバックグラウンドを持つ自分にとって、世界の電力事情、気候変動とエネルギーの関わりから、各国の原子力に関する政策・法令、放射線防護、フロントエンドからバックエンドまでの様々な知識を得られたのは非常に有意義だった。ネイティブを交えた英語でのディスカッションが毎日カリキュラムとして組まれており、最初はネイティブ中心の議論についていけず非常に苦労した。メンターの「ネイティブとノンネイティブが互いに理解しあう気持ちをもって臨むように」というアドバイス以降、グループ内での各自の役割に基づいて全員の意見を吸い上げる運営を皆で意識するようになった。自身でも参加者のバックグラウンドを考慮し、議論に参加しやすい話題を振ってメンバーが偏りなく発言できるよう工夫した。この体験が、国際色豊かな参加者間の議論の場での自分の指針となっている。
 本WNU夏季研修では、多種多様な背景を持つフェローと交流できたことが最も大きな収穫であり、自身の視野や考え方に大きな影響を与えた。普段の仕事・生活では決して交流の無い国々のフェローと垣根のないコミュニケーションを取る良い機会となった。日本の原子力動向に関するフェローたちの興味はやはり、福島事故の内容とその対応にあるように感じたが、その一方で正確な情報が海外に伝わっているとは言い難かった。日本からの継続的な情報発信ももちろんだが、日本を代表して参加した自分たちの草の根運動的な会話も重要であり、責任を感じるとともに、継続的に正しい情報を収集することの重要性を再認識した。今後はより一層、広い視野を持って多種多様な情報に積極的に触れると同時に、自国・自社の正しい情報発信者であれるよう努めたい。

テクニカルツアーで見学した銅キャニスタ


三菱重工業原子力事業部機器設計課 川上亮一氏
 WNU夏季研修では、原子力業界のリーダーによる自身の経験を踏まえた講義や各国参加者とのグループワークを通して、原子力業界の一般的な知見を深めるとともにリーダーシップについても多くを学ぶことができた。講師は皆、経験豊富な業界のリーダーで、その言葉は重みがあり、今後のキャリアを考える上で参考になることが多かった。各国参加者は自分とは異なる価値観・バックグラウンドを持っており、担当業務に限定されていた狭い視野を広げることができた。研修全体を通して、何事にも真摯かつ誠実であること(インテグリティ)、自分の過ちを認める勇気、不都合な事や失敗があっても、それを受け入れて成長の糧とする姿勢が、リーダーの資質として重要であることを学んだが、これらは今後の人生の良き道標になった。
 また、英語力については、第1週土曜日講義前に、韓国人メンターから「母国語ではないのだから上手く話せなくて当たり前であり、恥じる必要は全くない。自分に自信を持つことが大事である」と、非ネイティブの参加者に心強い励ましの言葉があり、非常に勇気付けられた。しかしながら、グループワーク等では議論が白熱するとついていけないことが多く、深い討論をするためには相手の主張を理解するリスニング力が必須であることを再認識した。原子力業界は国際化しており、業界全体の発展のためにはルール・基準を統一化することが望まれる。その議論は当然の如く、英語で行われるものであり、ルール・基準策定に参画し、業界をリードしていくために必要な英語力は継続して研鑽していきたい。

テクニカルツアーで訪れたオルキルオト原子力発電所で


東芝エネルギーシステムズ原子力プラント設計部 栗本哲兵氏
 WNU夏季研修では、会社業務を通じてでは知り合うことは叶わない、様々なバックグランドを持つ参加者と濃密な6週間を過ごすことができた。また、参加者は、原子力産業全般の情報に関し、アンテナが高い人が多いと感じた。例えば、フランスの研究者が、カナダの規制当局と政府との間で起こった事象について質問するなど、分野外における出来事についても関心が高いと感じた。一方、私自身、知識に偏りがあると感じ、今後は幅広く世界の動きをウォッチしていきたい。
 また、原子力産業における、中国(10名参加)、韓国(8名参加)の勢いを実感した。上海核工程研究設計院のPresidentの講義では、「最先端」の新型プラント、要素技術、プラント設計ツール等を次々と開発していることについて自信を持って紹介され、韓国人フェローとの会話の中では、Barakahプロジェクトが「世界で唯一成功している海外EPCプロジェクト」として紹介されることが多々あった。今後の世界の原子力発電プラント建設を推進する一翼であることに疑いなく、日本の原子力プラントメーカにとっては大きな競合相手であると感じた。
 さらに、参加者とグループワークやプライベートの時間を共に過ごしたことで、自分の英語力の不足を痛感した。英語による技術打合せの経験はあったものの、WNU夏季研修のように、プライベートも含め、密に英語でのコミュニケーションを取った経験が乏しく、通常会話における独特の言い回し、専門外の単語等に混乱するケースが多々あった。現状の業務では得られない刺激を受け、会話力向上の必要性を強く認識できた。
 今回の研修を通じて得た知識、刺激を活かし、今後の日本原子力産業の発展に貢献していきたい。