原子力委専門部会、原賠制度見直しに向け素案示す
原子力委員会の専門部会は1月22日、原子力損害賠償制度の見直しに関する素案について議論した。福島第一原子力発電所事故の経験や海外の動向を踏まえ、賠償制度の基本的枠組み・目的、官民の役割分担、原子力事業者の責務、国の責務、救済手続きのあり方など、2015年より総合的観点で検討を進めてきたもの。
これまでの検討内容を取りまとめた素案によると、「原子炉の運転等により生じた原子力損害は、原子力事業者が賠償責任を負う」とする現行法により定められる無過失責任、責任集中、無限責任については、いずれも現行通りとすることが妥当とされた。そのうち、専門部会でも数回にわたり議論となった「原子力事業者を有限責任とすること」については、原子力事業者にとって賠償に係るリスクの上限を把握し、責任限度内の賠償資力を効率的に確保できるという利点をあげているが、一方で、賠償が滞ることへの心理的反発を引き起こす可能性などから、現状では、「国民の理解を得ることは困難」としている。
また、これまでの議論で、安全性向上に対する投資の減少のおそれが指摘されたことに関し、オブザーバーとして出席した電気事業連合会の小野田聡専務理事は、外部組織との連携も通じた安全性向上の取組について触れ、「事業者の安全確保に対する姿勢は揺るぎのないもの」と強調するとともに、「有限責任化について将来の環境変化に応じて議論を継続して欲しい」と要望した。
専門部会の2016年8月の論点整理では、現行の損害賠償措置額最高1,200億円の引き上げについて検討するとされており、2017年5月から2回にわたり、原子力事業者の無限責任における賠償資力確保に向け、保険的スキーム(責任保険契約と政府補償契約)、相互扶助スキーム(原子力損害賠償・廃炉等支援機構による資金援助)に新たな枠組みを加えた3層構造の制度設計案を示し議論がなされた。
今回の素案では、保険的スキーム、相互扶助スキーム、それぞれの仕組みの有効性を述べた上で、賠償資力確保のための枠組みについては、(1)迅速かつ公正な被害者への賠償の実施、(2)国民負担の最小化、(3)原子力事業者の予見可能性の確保――の観点を踏まえ、引き続き検討していくこととされた。
専門部会では、素案に対する委員からの意見を踏まえ、今後の会合で最終報告書を取りまとめ、検討事項については文部科学省などと協議される運びだ。