IEAビロル事務局長が講演、世界のエネルギー情勢「2050年に向けた展望」を語る

2018年2月28日

 国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長(=写真)は2月27日、都内で、「2050年に向けた展望」と題し、長期的視点から見た世界のエネルギー情勢について講演を行い、主要国・地域のエネルギー需給・市場の見通しを示した上で、今後の日本のエネルギー政策に対し助言するなどした。講演会は、政策研究大学院大学と日本エネルギー経済研究所との共催によるもので、同氏は、引き続き資源エネルギー庁の懇談会に登壇し、効率的なCO2排出削減の実現に向け、すべての低炭素技術を活用していくことなどを提言(仮訳付き)した。
 ビロル氏はまず、世界のエネルギーにおける「4つの大変動」として、(1)米国は疑うことなく石油・ガス市場のリーダーに、(2)太陽光の発電コストが最も安価に、(3)中国のエネルギーにおける役割が再構築、(4)将来は電化がさらに進展――をあげ、世界の政策や産業との大きな関わりを示唆した。その上で、2016~40年におけるエネルギー需要増に関して、(1)中国の増加は緩やかに、(2)インドは世界最大に、(3)中東は輸出から消費の中心に、(4)米国はシェール革命で大きな輸出国に――などと分析した。IEAの評価によると、中国のエネルギー需要増は790メガトン(石油換算)なのに対し、インドは1,005メガトン(同)と上回っている。
 米国については、石油と天然ガスの生産量が、2040年には2010年のおよそ2倍となることを示し、「エネルギーの地政学を変える」などと、その影響力を強調した。また、中国のエネルギー消費については、2016~40年で、石炭は減少、石油はゆるやかに伸び、天然ガスは役割が増すとしたほか、再生可能エネルギーは「チャンピオンとなる」として、新たな経済モデルを創出する可能性を強調した。将来的な電化傾向についても、ビロル氏は、世界的な消費増の中で、インドと中国の2大市場の重要性を、2016~40年で「中国では米国一つ分」、「インドでは欧州一つ分」に相当する増分などと、繰り返した。
 原子力発電について、ビロル氏は、「多くの国で新設する意欲が下がっている」とする一方、「世界で建設中のプラントの3分の1は中国。10年もすれば米国を抜いて世界一となる」との見通しを示し、こうした中国の躍進をIEAとしても注視していく考えを述べた。
 将来的に電気自動車が急速に普及しても「石油需要はまだ伸びる」としたビロル氏は、気候変動対策について「IEAの議論の中心」と、その重要性を強調した上で、「万人によるエネルギーアクセスの実現」、「新興国における大気汚染対策」を3つ組み合わせた「持続可能発展シナリオ」を通じ、CO2排出削減を加速化していく展望を披露した。
 会場との質疑応答の中で、外務省の有識者会合が最近取りまとめた気候変動・エネルギー外交に関する提言に対し、ビロル氏は、「提言が示すように、日本の再生可能エネルギーには成長の余地がある」とする一方、「役割の低下」と位置付けられた原子力発電については、「最高の安全ルールに従って活用を」などと述べ、エネルギー源の多様化を図る必要性を示唆した。
 ビロル氏の講演を受け、日本エネルギー経済研究所常務理事の小山堅氏は、「世界のエネルギー市場に関する深い分析・洞察といえる」などと称賛した。小山氏は、2月26日の原子力委員会会合で、IEAの「世界の長期エネルギー需給見通し」(WEO)を踏まえたエネルギー需給モデル分析について紹介した上で、「完璧なエネルギーは存在しない」として、石油、ガス、石炭、再生可能エネルギー、原子力、省エネなど、各々の利点を活かしたベストミックスの重要性を述べている。