エネ調原子力小委がこれまでの議論を整理、来週基本政策分科会に報告
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=安井至・持続性推進機構理事長)は3月20日、2年半ぶりの再開となった1月の会合から5回にわたる議論の整理を行った。同小委員会は、今夏を目途に検討が進められているエネルギー基本計画の見直しには必ずしも縛られず、今後の原子力利用に向けての「社会的信頼の獲得」を巡る諸課題について議論してきた。
同日会合で資源エネルギー庁が示した議論の整理では、「福島復興・事故収束」を最重要課題に据え、(1)さらなる安全性の向上、(2)防災・事故後対応の強化、(3)核燃料サイクル・バックエンド対策、(4)状況変化に即した立地地域への対応、(5)対話・広報の取組強化、(6)技術・人材・産業の基盤維持・強化――の各取組により、「安全最優先の再稼働・エネルギーミックスの達成」に向かうという方向性となっている(=図上、資源エネルギー庁発表資料より引用)。
その中で、さらなる安全性の向上については、「産業大での連携を強化し、現場の安全性をさらに高い水準に結び付けていく仕組みを確立する」ことがあげられ、これに関し、事業者として、豊松秀己専門委員(電気事業連合会原子力開発対策委員長)は、現場力の維持に向けては「再稼働とリプレイス」を、新しい組織については「早急に立ち上げる」などと強調した。電事連と日本電機工業会は16日、自律的かつ継続的な原子力の安全性向上のための取組強化に向け、今夏を目途に、原子力産業界が参加する新組織を設立することを発表している。
また、平時や自然災害も含めた地域防災の取組として、地方自治体、地域産業、住民、行政、事業者、科学者などが参画する継続的枠組み「地域共生のためのプラットフォーム」(=図下、資源エネルギー庁発表資料より引用)が提案されたが、これについて、山口彰委員(東京大学大学院工学系研究科教授)は、「色々な価値観を吸い上げる」などと評価した。一方で、一般の人たちから見て、専門家間で意見の相違があることを指摘し、「学会間のコミュニケーションができていないのでは」と問題を提起した。
議論の整理と合わせて、対話・広報の取組に関連し、資源エネルギー庁が、日本原子力文化財団が2006年度より毎年実施している「原子力利用に関する世論調査」の結果を紹介し、福島第一原子力発電所事故後、原子力に対する信頼感や必要感が低下してきたことなどを示した。さらに、元読売新聞編集委員で日本科学技術ジャーナリスト会議理事の小出重幸氏が発表を行い、福島第一原子力発電所事故後の信頼失墜は「コミュニケーションの失敗」が最大の原因だったなどと強調した。
また、高橋明男専門委員(原産協会理事長)は、最近の全国アンケート調査の結果から、原子力発電所の再稼働について厳しい意見が多いことを踏まえ、(1)若年層に自分のこととして考えてもらう、(2)安全性や放射性廃棄物などの重点テーマには根拠情報を分かりやすく示す、(3)SNSなどを活用する、(4)関係機関間が相互に連携し情報のワンボイス化を図る――ことを今後の方策としてあげた。アンケート調査では、特に子育て中の女性で、原子力発電に反対の意見が多かったとしている。
この他、「表面的な情報提供では真の国民理解には至らない。消費地域への広報もしっかりと」(藤田穣・福井県副知事、西川一誠委員〈同知事〉代理出席)、「『人の心』に伝えることが重要。一方で強力なメッセージは時として人を傷つけることもある」(越智小枝委員〈東京慈恵会医科大学臨床医学講座講師〉)といった意見があった。
原子力小委員会のこれまでの議論については26日、エネルギー基本計画見直しの検討を行う同調査会の基本政策分科会に報告される運びだ。