【第51回原産年次大会】福島セッション「浜通りの現状と復興に向けた取り組み」

2018年4月10日

 「第51回原産年次大会」2日目の4月10日に、「浜通りの現状と復興に向けた取り組み」をテーマに福島セッションが開催され、東京電力ホールディングス執行役副社長の増田尚宏氏と福島大学共生システム理工学類人間支援システム専攻教授の小沢喜仁氏が登壇した。

東京電力増田尚宏氏

 増田氏は「福島第一原子力発電所の現状と課題」をテーマに福島第一原子力発電所の現状として、1号機から4号機の状況、汚染水処理の進捗、使用済み燃料及び燃料デブリの取り出しに加え、復興と再生に向けた地域との連携や情報発信について説明した。
 「怪我が起きず計画的に仕事ができる環境に近づいてきた。毎日現場で働いてくれている皆様のおかげ」と述べた後、約8分の映像を投影。そこでは、事故当時を振り返りながら廃炉に向けた取り組みが紹介された。福島第一の1号機から4号機は全て冷温停止状態を継続しており、汚染水処理が進む。放射線量の低減で、作業員も全面マスクから防塵、サージカルマスクの着用に切り替え、一般作業服で移動できるエリアが95%に拡大したことなどが伝えられた。
 今後の課題である使用済み燃料の取り出しについては、2014年12月に全ての燃料取り出しを完了した4号機での教訓を生かし、残る各号機の燃料を取り出していくとのこと。増田氏は「この秋には3号機の取り出しを始めたと伝えられることを期待したい」と述べた。燃料デブリの取り出しは、原子炉格納容器内部調査をしながら状況把握を進めている。また、海水中の放射線濃度については、事故直後と比べると10万分の1から100万分の1まで低下。「この状態をキープしていく」とした。作業員数については2018年2月末時点で協力会社と東電社員を合わせ1日あたり4,970人で、地元雇用率は60%。被ばく線量は同年1月時点で0.32ミリシーベルト/月と報告した。
 汚染水対策においては、汚染源を「取り除く」「近づけない」「漏らさない」の3つの基本方針のもと進められた。雨水や地下水に起因する汚染水発生量は、陸側遮水壁の閉合前は平均490立法メートル/日だったのが閉合後は110立法メートル/日と、4分の1程度まで低減。廃炉作業に伴う建屋への移送量も含めた汚染水発生量は140立法メートル/日まで減少し、2020年内の目標である150立法メートル/日を下回っている。
 廃炉に向けた福島第一の取り組みについて、増田氏は「“伝える”のは“伝わること”が大事」と述べ、地元住民が望む情報提供を心がけていることを強調した。特に福島第一への視察は、2017年には12,489名で58%が県外、福島県内からは26%だった。オリンピック開催までに年間視察者数2万人を目指す。
 福島復興に向けた取り組みとしては、「風評被害に対する行動計画」を策定し、事故の当事者として、これまで以上に福島県産品購入を促進したいとし、「福島第一に世界の英知を結集し、皆様と一緒に廃炉を進めていくことができればと思っている」と締めくくった。

福島大学小沢喜仁氏

 続いて、小沢喜仁氏が「福島イノベーション・コースト構想と地域の活性化について 〜新たな価値の創造を目指して〜」をテーマに、新たな産業基盤の構築に向けた『福島イノベーション・コースト構想』を紹介した。
 東日本大震災と福島第一原子力発電所事故は、人口減少と高齢社会が先行する地域を襲った大災害であり、放射線汚染による広域あるいは長期避難に伴い、住民の生活に密着した第一次産業に大きな打撃となった。小沢氏はこうした背景に触れつつ、「185万人の福島県民のうち、避難者は5万人。180万人が復興に頑張っている」と強調する。
 発災直後から、福島大学では放射線計測チームを発足し、タクシーなどを利用して自分たちの足で地域をまわり、そのデータの精度は行政に提供するほどだったという。また、同大学では3年前には環境放射能研究所(IER)を設立し、自然由来の環境放射能と事故による放射能を把握する研究に取り組む。水が豊かな国であることから、水を介した放射能の移動や生態に与える影響も調べている。こうした取り組みがある一方で、風評被害は免れず、今もなお多額の費用をかけて農産物の放射性物質の濃度を測る状況にあり、小沢氏は「医学的根拠と社会的な感性に理解のギャップがある」と述べた。
 避難者についても、女性より男性、より高齢者が「すぐにでも戻りたい」という意識が強いといった調査も進められている。避難者が避難先で新たな社会を形成できるかについては、子どもたちがいじめを受けたという報道があったことに触れ、被災者が新たな地域で自立した生活が送れるよう受け入れ側が寄り添うことが大事であるとした。
 福島イノベーション・コースト構想には、福島第一原子力発電所廃炉基盤技術開発や、ロボット産業、再生可能エネルギー産業、食品産業など多岐にわたる。さらなる推進における重要な5つの視点として、「市場ニーズに基づく発想で企業自ら発展していく」「効率向上のみならず、付加価値向上を」「技術開発能力だけではなくビジネス視点も理解した人材が必要」「県内外の異業種企業やベンチャーが連携し産学官金報の有機的な連携が大事」「情報のオープン化が重要」と述べた。