【第51回原産年次大会】セッション2「プラントサプライヤーの海外展開」
大会2日目の10日午後、「プラントサプライヤーの海外展開」と題して開催されたセッション2では、世界の大手サプライヤー5社を代表する講演者が登壇し、それぞれにおける最新型炉の開発状況と海外展開戦略に関する講演を披露した。
モデレーターを務めた日本エネルギー経済研究所の村上朋子・原子力グループ・グループ・マネージャー研究主幹は、2011年に福島第一原子力発電所事故が起きたにも拘わらず、世界では様々な国が「原子力は必要」との判断の下で原子力発電所の運転を継続、あるいは導入計画や導入検討を進めている事実に言及。新設プロジェクトのすべてが順調に進むわけではないことから、エネルギー・原子力事業に係わる者としてはどのような要因がプロジェクトを成功に導くのかに無関心ではいられないとした。そこで本セッションでは、各社から原子力国際事業に参入した理由や戦略、取り組み方を語っていただき、これからの原子力国際市場の展望について個別のプロジェクトのみならず、その成否を通じてどのように発展していくのかを見極めたいと述べた。
日立GEニュークリア・エナジー社の吉村真人・原子力国際技術本部・本部長は、日立製作所が英国で進めている原子力発電所新設の取り組みについて述べるとともに、国内ベンダーがなぜ海外案件に取り組んでいるのか、そして、なぜ英国なのかという点について次のように説明した。
日本のベンダーの第一の使命は福島の復旧であり、国内原子力発電所の安全確保だが、そのためには今ある原子力の技術と人材、サプライ・チェーンをどのように長期的に安定して維持していくかが原子力産業界全体としての大きな課題。事業として一定の収益を上げ、その中で技術人材を維持するという長期的ビジョンを持ち続けるには、海外案件にも取り組んで行くべきだと考えている。
海外原子力発電所の建設における競争環境は、2009年のアラブ首長国連邦(UAE)の案件を境にベンダーの関わり方が大きく変わった。これまでは実績のある事業者に発電設備を納入するだけだったが、UAEの入札以降は、当該国が原子力発電事業を発展させていく上で必要なインフラ設備や人材育成する仕組みの提供も含めて、その国における原子力開発の長期的パートナーになっていくことが必要になった。
まずは「bankable」な事業開発環境であることが事業成立のカギ。そのための要件としては、「その国が将来的にも原子力を必要とする政策を持っていること」、「原子力投資を回収する可能性が見通せる電力市場メカニズムが存在すること」、「実証済みの技術と明確な許認可プロセス、調達・建設管理能力に長けたプロジェクト体制」などがある。これらが組み合わさって初めて、実現可能なプロジェクトが進むことになる。
現在、英国の原子力発電設備は総発電量の約10%を供給する容量があるが、高経年化のためこれらは順次閉鎖していく予定。政府は脱CO2やエネルギーの供給保証といった目標の達成に向けて、再生可能エネルギーと原子力を含めた競争力のある低炭素電源の拡大という明確な政策を持っている。また、差金決済取引(CfD)という固定価格の電力買取制度があるため、売電価格を一定期間、維持することが可能。完成した発電所の運営事業者として当社は、日本原子力発電と米エクセロン社の協力を得て支援体制を整えているほか、日立と日揮およびベクテル社の合弁により、エンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約のための会社を設立した。
英国の新設案件は、2012年に日立製作所がドイツ企業から買収したホライズン・ニュークリア・パワー社を通じて進めており、所有する2サイトのうち、差し当たりウィルバでABWRを2基建設するため、英国の事前設計認証審査を同設計について実施。昨年12月に、規制当局から許可を取得するに至っている。
しかし、プロジェクトはまだ入り口の段階にあり、最終投資決定(FID)を下してプロジェクトにGOサインを下すまでには、様々な許認可取得や交渉が残っている。また、プロジェクトを「日程通り・予算内」で実行する自信を高めていくことも必要で、そのための方策も色々と進めている。
いずれにしても、海外の建設案件は誰かが成功例を作らないと後が続かない。日立としては、英国案件を「日程通り・予算内」で実現する成功プロジェクトにし、その成功経験をリピートしていくことで世界の原子力建設に貢献できると信じている。また、日本の次の案件にもフィードバックして事業を維持・発展することができれば、原子力技術と人材の基盤を維持することも可能。そのようにして、日本国内の原子力安全を支えるという使命の実現に必要な基盤の維持を目指してしていきたい。
三菱重工業の飯田将人・執行役員・パワードメイン・シノップ・プロジェクト室長は、同社の原子力事業と海外展開に対する取り組みについて、トルコのシノップ案件およびフランスとの戦略的協業を通じて開発したPWR設計「ATMEA1」を中心に紹介した。
三菱重工は原子力総合メーカーとして50年以上の実績を重ねるとともに、技術革新も弛まず継続している。海外事業関連ではコンポーネントの輸出実績が豊富で、これまでに米国やフランス、ベルギー、中国などに対して原子炉容器4基、原子炉容器上蓋22基、蒸気発生器31基などを供給した。2007年にはアレバ社(現フラマトム社)との合弁企業「ATMEA社」を設立し、日仏両国のPWRすべての経験を取り込んだ最新の第三世代+(プラス)設計として「ATMEA1」を開発。世界各国に同設計を展開することで、グローバル事業のさらなる飛躍を目指している。
「ATMEA1」の特長は、両社で実証された技術と経験を反映した最先端の安全設計となっている点で、冷却系と非常用電源を多重化/多様化したほか、炉心溶融対策としてコアキャッチャーなどを設置。シビアアクシデントを含む設計想定外事象への対策を織り込んでおり、国際原子力機関(IAEA)やカナダ原子力安全委員会、フランス規制当局が審査した上で、同設計が第三世代設計に対する様々な国際的な安全要件を十分、満たしていることを保証した。
トルコの黒海沿岸シノップ地区で同設計を4基建設する計画については、2013年に日本とトルコ両国政府が調印した開発協力協定に基づき日本に優先交渉権が与えられ、三菱重工が参加する国際コンソーシアムとトルコ政府は同年、本プロジェクトに関する商業契約について大枠合意に達した。これらの協定は2015年にトルコ国会で承認され、現在はフィージビリティ・スタディ(FS)を実施中である。
この案件は日仏のベストチームでエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)を進める方針で、他の炉型で得られた教訓を踏まえて、段階的なアプローチを取ることで、リスクの低減を図ることになっている。現在の重点的アクションとしては、許認可面に関してトルコ原子力庁(TAEK)とワークショップを定期的に開催し、許認可申請や審査内容などを確認中。設計・エンジニアリング面では、「ATMEA1」の標準設計にシノップ固有の条件を反映した3D-CADモデルを構築している。
資機材の調達については、実績のあるフランスのパートナーや欧州のサプライ・チェーンを活用。国産化の要求に対しては、製造能力や品質管理を見極めた上でトルコのベンダー活用を広めて行く。建設関係では、トルコが原子力の新規導入国である点を踏まえ、3段階の基本工事計画に沿って進める方針。確実な建設工事を行うため、設計図面や施工要領書といった5つの文書をトルコ側に理解してもらうほか、情報・通信技術も積極的に活用することになる。また、原子力安全文化はすべての活動の基盤であるとの認識から、トルコ企業を含むサプライ・チェーン全体で安全文化の醸成を推進していく考えだ。
ロシアの原子力国際展開促進・マーケティング会社であるルスアトム・オーバーシーズ社は、国営原子力総合企業であるロスアトム社の子会社。同社のニキータ・マゼイン副社長は、ロスアトム社が世界で展開中の原子力発電所建設プロジェクトについて、ポートフォリオやサプライ・チェーン管理、プロジェクト実施国における地元産業の参加、といったトピックを取り上げて以下のように示した。
ロスアトム社はロシア国内で3,000万kWの原子力設備を有しており、総発電量の約19%を供給している。また、国際的な原子炉建設プロジェクトの受注残高では世界第一位で、これまでに世界で建設したロシア型PWR(VVER)のうち、60基が現在も稼働中。計画・建設中の原子炉は39基にのぼっている。
このような実績の背景にあるのは、当社が原子炉建設プロジェクトで提供している総合的なオファーで、それらの範囲は、原子炉建設に必要な原子力インフラ開発、バックエンド対策、運転&保守、燃料供給、PA対策、人的資源開発、地元企業の参加、エネルギー・ソリューションの提供と多岐にわたる。これにより、顧客国の国家的な原子力プログラム全体を支援することが可能で、入念なプログラム戦略の作成から廃止措置に至るまでのサポートを提供するポリシーだ。
近年、積極的にプロモートしている原子炉設計は第3世代+(プラス)の最新技術で、出力は120万kW級。設計寿命は60年を想定しており、動的と静的両方の安全系を併せ持つほか、福島第一事故後の安全要件にも適合している。2017年2月に初号機としてノボボロネジII―1号機がロシアで営業運転を開始したが、すでに同じ設計をレニングラード発電所で増設中。国外ではバングラデシュとベラルーシで建設しているほか、ハンガリーとフィンランド、エジプトでも建設計画が決まっている。
これらの国に対しては、産業全体のソリューションとして地元企業のプロジェクト参加を促しており、その際の原則事項も設定。例えば、発電所で安全性や品質、十分な人的資源、製造能力、日程通りの完成を保証するため、地元サプライヤーは技術的な資格要件を満たすべき――などである。
また、地元サプライヤーを参加させる上で、ロスアトム社は段階的アプローチを採用。まず、「サイト・インフラに関して労働力や建設資材を現地調達」するのに続き、「土木建築作業の責任を負わせる」。次には「重要性の低いパーツ等」に段階を進め、「エンジニアリング・サービスとBOP機器の調達」に進展。最終的には「重量のある特殊機器を現地で製造」することになる。
さらに、協力関係にも様々なパターンがあり、初期段階としてはまず下請契約を結ぶが、その次は技術移転と機器投資をともなう協力を実施。最後の段階に進めば、互いのリスクを共有する合弁事業の設立へと発展する。地元企業の参加が成功した例としては、インドのクダンクラム発電所と中国の田湾発電所の建設計画が挙げられる。このように、原子力発電所建設でロスアトム社が提供する総合的なオファーには、プロジェクトの実行に対する包括的アプローチが含まれており、プロジェクト全体の期間を通じてサポートが受けられるといった利点があると言える。
華龍国際原子力技術有限公司の李軍・副主任技師は、中国が知的財産権を保有する輸出用主力設計として開発した第3世代PWR設計「華龍一号(HPR1000)」について、中国における30年の原子力発電開発利用の歴史を振り返りつつ、開発ロードマップや設計特性、エンジニアリングの進捗、潜在的な市場の状況を次のように説明した。
中国では、ロシア型PWR(VVER)やフランス製の欧州加圧水型炉(EPR)、ウェスチングハウス社製AP1000の導入と並行して、自主設計路線として、中国核工業集団公司(CNNC)が「CNP300」と「CNP600」を開発。これらを100万kW級の「CNP1000」にスケールアップしたほか、中国広核集団有限公司(CGN)も独自技術により「CPR1000」を開発した。これらはそれぞれ、「CP1000」と「ACPR1000」へと研究開発が進められ、双方の第3世代設計である「ACP1000」と「ACPR1000+」を統合して「華龍一号」が設計された。
「華龍一号」は、国際原子力機関(IAEA)や欧州電力要求(EUR)など国際的な安全要件、および福島第一原子力発電所事故後の安全要件に準じて開発された改良型PWRであり、全世界の運転中、建設中のPWRから得られた経験をフィードバックして安全性と信頼性および経済性を改善した。出力は120万kWで、設計寿命は60年。安全系には先進的な動的および受動的な設計を採用している
「華龍一号」を採用した国内の実証炉建設プロジェクトは、CNNCの福清5、6号機増設計画およびCGNの防城港3、4号機増設計画として進展中である。福清5号機では今年2月に原子炉圧力容器の据付が完了し、2020年初頭に運転開始する予定。防城港3号機でも昨年12月に格納容器の部品吊り下げ設置作業が行われ、2021年に運転開始することになっている。また、これらに続く「華龍一号」採用プロジェクトも、4サイトで8基分が浮上している。
国外においては、「華龍一号」を世界の原子力市場に大々的に売り込んで行くため、CNNCとCGNは2015年12月末、登記資本金5億元(約90億円)の合弁事業体「華龍国際原子力技術有限公司」を折半出資で設立することを決めた。パキスタンのカラチ原子力発電所では、2、3号機(K2、K3)に同設計を採用した建設工事が2015年と2016年に開始され、K2では原子力系統の据え付け作業も始まった。チャシュマ原子力発電所でも5号機(C5)に同設計を採用することが決定し、CNNCは2017年11月、C5を建設するための事業契約をパキスタン原子力委員会と締結した。
また、英国では、EDFエナジー社が計画しているブラッドウェルB原子力発電所に供給することが決まっているため、同国の規制当局は2017年1月に「華龍一号」の英国仕様版「UK-HPR1000」について包括的設計審査を開始。同年11月には第1ステップが完了し、第2ステップに進展した。さらに、5基目の原子炉はアルゼンチン初のPWRとなる「華龍一号」を建設予定で、CNNCは2017年5月にアルゼンチン国営原子力発電公社(NASA)と一括請負契約を正式に締結している。
韓国水力・原子力会社(KHNP)グローバル原子力ビジネス部のハリー・チャン部長は、韓国における原子力発電開発の歴史を振り返るとともに、近年の新型原子炉開発の状況を紹介した。また、2009年のアラブ首長国連邦(UAE)での受注成功例に基づき、世界市場でKHNP社が追求している原子力ビジネスについて以下のように述べた。
ほんの70年ほど前の韓国は世界でも最貧国の1つであり、1950年代の朝鮮戦争により国土は荒廃した。しかし、貧しい人々が身を寄せていたハン川(漢江)のほとりが今や、摩天楼に囲まれた観光スポットの1つとなるなど、韓国国民には堅い意志と不屈の努力で1つの共通目標に立ち向かっていく国民性がある。
韓国の原子力産業も同様の道筋で発展しており、1970年代にまず、外国の原子炉技術による初号機をターンキー契約で導入。80年代は国産化を開始して共同プロジェクトに参加するようになった。90年代に入ると、標準設計として「OPR1000」を独自に開発。国産化率をさらに上げていき、2000年代には安全性と経済性を改善した「APR1400」を開発するに至った。韓国はこの設計により、国際企業間の激しい競争を制してバラカ原子力プロジェクトの受注に成功。同設計の欧州版となる「EU-APR」は2017年11月に欧州電力要求の認証を取得したほか、米国版の「US-APR」は現在、米原子力規制委員会が設計認証(DC)審査中である。合計6段階の同審査のうち、第5フェーズまで審査が進展しており、2019年5月にはDCを取得できる見通しである。
バラカ・プロジェクトの成功は韓国原子力産業界の努力のみならず、韓国政府の強力な支援の賜である。ドバイから390kmに位置するサイトでは、今年2月時点で1号機が98%完成。4基合計の進捗率は88%に達している。数週間前に現地で開催された1号機の竣工式には、韓国の文在寅大統領がUAEアブダビ首長国のムハンマド皇太子とともに出席した。文化も宗教も異なるUAEでの建設工事は、砂嵐や高温などの厳しい環境下で困難を極めたが、皇太子が両国の協力関係を「離婚が許されないカトリックの結婚」に例えたように、海外の原子力プロジェクトでは信頼し合えるパートナーとなることが重要だ。
KHNP社は、2001年に韓国電力公社(KEPCO)から分社化された韓国唯一の原子力発電企業で、2017年は国内24基の商業炉で総発電量の約30%を供給した。保有する原子力設備容量では世界で3番目に大きく、原子力発電事業で海外展開を推進するという国の政策を当社が牽引。世界の原子力市場をリードする上で必要な輸出戦略をいくつか推進している。
まず、技術面では最新の設計を開発し続けており、顧客国の規制要件に合わせたものを提供。出力は100万kW級と140万kW級どちらでも可能で、顧客国のニーズに合わせて地域熱供給や脱塩、負荷追従運転することもできる。当社が肝に銘じている重要事項の1つが「カスタマイゼーション」であり、輸入国のニーズや要件に応えられるソリューションの提供が必要。また、もう一つ大切なことは、国同士あるいは企業同士の連携が非常に重要になるという点だ。今日のビジネス界では、そうした連携が成功の鍵となった例は枚挙にいとまが無い。世界の原子力ビジネス界もまた同様に、単に企業同士の契約や国同士の協力協定に基づくものではなく、その国民に対する誓約や相互の信頼の上に成り立つのである。