学術会議が研究炉のあり方で提言、学術研究や産業利用における中性子利用を踏まえ

2018年8月17日

 日本学術会議の「原子力安全に関する分科会」(委員長=矢川元基・原子力安全研究協会会長)は8月16日、「研究と産業に不可欠な中性子の供給と研究用原子炉のあり方」と題する提言を発表した。同分科会の下、日本原子力学会で研究炉に係る調査活動をリードしてきた上坂充氏(東京大学大学院工学系研究科教授)をヘッドとする検討小委員会が取りまとめたもので、近年の廃炉・高経年化など、研究炉を巡る状況を踏まえ、「次期炉の検討を早急に進めるべき」としている。
 提言では、研究炉の利用を、(1)材料開発や放射性同位元素製造などを行う中性子照射、(2)物質構造解析や中性子捕捉療法(BNCT)などを行う中性子ビーム――に大別し、それぞれに適した原子炉の必要性を述べている。そのうち、中性子照射の研究炉としては、日本原子力研究開発機構の「JMTR」(=写真)の廃炉決定に伴う影響を懸念し、同規模程度の後継炉を早急に建設することを最重要事項として強調した。「JMTR」は現状、国内でその機能を代替することが困難なことから、これまで多くの実績を持つ東北大学金属研究所では、主にベルギーの海外炉を利用しているが、「経費などの理由により、JMTR稼働時の4分の1程度しか照射できていない」と憂慮している。
 また、中性子ビームの研究炉としては、原子力機構の「JRR-3」の高経年化と長期停止に伴う学術研究や産業利用に与える影響を懸念し、早期の再稼働とともに、実験設備の高度化などを訴えた。学術会議が大学や研究機関などを対象に実施したアンケート調査によると、「JRR-3」の運転中と停止中の前後で関連の学位論文数が激減しているほか、共同利用の採択課題数や利用者数に関しても「長期停止の影響が顕著」とみている。中性子ビームの利用については現在、大強度陽子加速器施設「J-PARC」が産業利用のニーズに応じているが、「とてもすべてをカバーできるものではなく、研究炉の役割は非常に大きい」という意見もあがっている。
 さらに、再稼働の前提となる新規制基準適合性審査の長期化に関し、提言では、リスクの大きさを考慮した審査対応、いわゆるグレーデッド・アプローチの重要性も述べている。現在、原子力規制委員会では、4基の研究炉(廃炉が決定した「JMTR」を除く)が審査途上となっており、「JRR-3」については、審査の申請から間もなく4年が経過するところだ。
 提言では、この他、将来の研究炉の建設・運営に向け、関係省庁間での適切な費用分担、運営組織や共同利用体制のあり方、人材育成への貢献についても述べている。
 今後の研究炉のあり方を巡っては、文部科学省の原子力研究開発基盤作業部会が3月に「新たな照射炉の建設に向けた検討を」とする中間報告書を取りまとめたほか、4月には小谷隆亮・大洗町町長の声かけで立地自治体による開発推進協議会が発足するなど、動きが盛んになりつつある。