国立がん研、転移性脳腫瘍の放射線治療に伴う記憶・認知障害の低減に向け研究成果

2018年8月29日

 国立がん研究センターは8月28日、他臓器から脳に転移した転移性脳腫瘍を摘出した後の標準治療として、これまでの脳全体に放射線を照射する「全脳照射療法」に替わり、残存した腫瘍などにのみ照射する「定位放射線照射療法」を行うことで副作用が低減できるとする研究結果を発表した。全国約190の医療機関が参画する「日本臨床腫瘍研究グループ」(代表=大江裕一郎・国立がん研究センター中央病院副院長)が2006~14年に行われた2つの療法に関する比較を実施し示されたもの。

国立がん研究センター発表資料より引用

 それによると、脳腫瘍摘出手術後、「全脳照射療法」を受けた137名の患者と、「定位放射線照射療法」を受けた134名の患者とで、生存期間については差はないものの、術後3か月以降に記憶障害・認知障害が現れる割合が、「定位放射線照射療法」の患者群では、「全脳照射療法」の半分以下にまで低減することが確認された。
 本研究代表者の嘉山孝正氏(山形大学医学部特任教授)が取りまとめたデータをみると、食欲不振が現れる割合では、「全脳照射療法」、「定位放射線照射療法」のそれぞれについて、治療開始から30日までで10.4%、4.6%、31~90日で13.6%、8.6%、91日以降で22.1%、17.9%と、差が縮まっている。一方、記憶障害が現れる割合は、「全脳照射療法」、「定位放射線照射療法」のそれぞれについて、治療開始から30日までで5.9%、5.3%、31~90日で4.5%、3.1%、91日以降になると16.4%、6.8%と、「定位放射線照射療法」が日数の経過につれ顕著な効果をみせた。認知障害についても同様の傾向だ。
 腫瘍のみにピンポイントで照射する「定位放射線照射療法」は、正常脳への影響が少ない一方、適用が3cm以下の腫瘍に限られるという難点もあるが、国立がん研究センターでは、放射線治療による認知機能障害などの副作用を軽減することは、転移性脳腫瘍患者の生活の質(QOL)の改善につながるものと期待している。