原子力機構報告会でT.ウィルソン氏が講演、小型モジュール炉の将来展望を披露

2018年11月16日

 日本原子力研究開発機構は11月13日、都内のホールで報告会を開催し、6月に運転を再開した研究炉「NSRR」による安全研究や福島の環境回復に向けた取組など、最近の成果について報告するとともに、「第51回原産年次大会」(4月9、10日)にも登壇した米国核物理学者のテイラー・ウィルソン氏による講演を行った。
 「核融合で遊んだ少年」として知られるウィルソン氏は、講演の冒頭、10歳頃から核物理学に関心を持ち自宅で様々な実験をしていた自身の少年期について触れた上で、現在、「プロメテウス・インダストリーズ」社を立ち上げて、小型モジュール炉の研究開発に取り組んでいることを披露した。同氏は、数MW~100MWの電気出力を想定する小型モジュール炉のメリットとして、安全性とともに、「工場で製造でき、2、3体のモジュールを現場で組み立てる」という簡便性をあげ、将来の応用分野では「宇宙における電力供給に一番関心を持っている」と強調した。この他、ウィルソン氏は、自走式ロボット、ナノテクによる燃料・材料開発の研究などを紹介し、科学者として、「人類には困難な課題が隕石のように降り注ぐ。しかし自分の知能で問題を解く力を持っている」と締めくくった。

鼎談する滝氏、ウィルソン氏、ヤン氏(左より)

 続いて、日本経済新聞社編集委員の滝順一氏、原子力機構高速炉・新型炉研究開発部門炉設計部次長のヤン・ジングロン氏を交えた鼎談に移り、滝氏はまず、ウィルソン氏に「米国では子供の才能をどのように引き出しているのか」と尋ねた。これに対しウィルソン氏は、「様々なサイエンスフェアが行われており、そこで子供たちは何でも質問することができる。また、話を聞くだけでなく、実際に試してみることが重要」と、米国の科学教育を巡る環境について述べた。さらに、日米間の科学技術に関わる文化の違いについて問うと、ウィルソン氏は、「日本は研究を共同作業で進めるのが得意」とする一方、「米国では、何でもやってみること、ともすれば馬鹿げた『クレイジーアイデア』が産業を育ててきた」と答えた。
 また、日米両国で研究に関わった経験を持つヤン氏は、高温ガス炉「HTTR」を例に、「日本には素晴らしい研究施設と才能がある。人を引き付けるモチベーションの高い研究が行われるには、開かれた環境づくりも重要」などとコメントした。ウィルソン氏は報告会での講演の後、「HTTR」のある原子力機構大洗研究所を訪れている。