元東工大教授・二ノ方氏、イタリア・ミラノ工科大の原子力教育について発表
元東京工業大学教授で現在イタリアのミラノ工科大学で教鞭を執っている二ノ方壽氏が、同学の原子力教育を巡る現状について、3月26日の原子力委員会定例会合で報告した。150年以上の歴史を持つミラノ工科大学のエネルギー工学科に7年間携わった経験から、国内に運転中の原子力発電所を持たないにもかかわらず、近年原子力コースを志望する学生が増加傾向にあることなどを述べ、今後の日本の原子力人材育成に関し示唆を与えた。
イタリアの原子力について、二ノ方氏は、第二次世界大戦後の1950年代に研究開発が始まり、商業炉では1963年以降4基のプラントが運転されたが、チェルノブイリ事故の影響で1990年までにいずれも閉鎖に至っているといった経緯を述べ、原子力産業への人材供給に係る課題として「現状で国内に受け入れる素地がない『ねじれ現象』が起きている」ことを指摘した。
二ノ方氏が示したデータによると、ミラノ工科大学の原子力コース(「MSc」と呼ばれる学位を取得する大学院教育)への入学者は、2007~15年は30~40名で推移してきたが、2016年には46名、2017年には65名と急増している。原子力を志す学生の増加傾向について、同氏は、原子力工学実験棟の新設、留学生の増加、英語による授業、イタリア全体の若者の失業率がおよそ3割なのに対し、海外も含めほぼ100%の良好な就職実績を積んでいることなどを要因としてあげた。
また、大学の教育体制におけるポイントとして、二ノ方氏は、「教育第一」という伝統、講義内容の厳正なチェック、日常的な教授陣と学生との面談実施をあげ、「教員の教育への努力が学生に原子力への興味を引き起こす」と強調した。