【第52回原産年次大会】セッション1「低炭素電源としての原子力の役割」

2019年4月10日

(左より、山地氏、クルーグ氏、デバゼイユ氏、高村氏、小宮山氏)

 「第52回原産年次大会」(4月9、10日)の1日目、セッション1では、昨夏に決定された第5次エネルギー基本計画を踏まえ、未来を担う低炭素電源である原子力の価値を確認し、再生可能エネルギーと調和しながら成長していくための方策について考察した。地球環境産業技術研究機構理事・研究所長の山地憲治氏(モデレーター)の進行のもと、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)副議長のテルマ・クルーグ氏が基調講演に立った後、欧州原子力産業協会(FORATOM)事務局長のイヴ・デバゼイユ氏、東京大学未来ビジョン研究センター教授の髙村ゆかり氏、東京大学大学院工学系研究科准教授の小宮山涼一氏も交えてパネル討論が行われた。
 クルーグ氏は、2018年10月に総括した「IPCC1.5度C特別報告書」について説明した。気候変動、持続可能な開発、貧困根絶への対応を強化する上で、世界の平均気温を「産業革命以前に比べ1.5度C上昇」に抑えるための温室効果ガス排出シナリオを披露。その中で同氏は、現状で2030~50年にも1.5度C上昇に達する可能性があるとして、「あらゆるセクターで温室効果ガス排出を低減させる必要がある。最も重要なのは電力セクターの脱炭素化だ」と強調し議論に先鞭を付けた。気候変動が人類の生存に及ぼす危機に関し、クルーグ氏は、特に東南アジア地域や島しょで洪水などのリスクが顕著なことを指摘し、不確実性はあるとしながらも、「気温の上昇が1.5度Cと2度Cでは、海水面の上昇で10cmの差。10cmの上昇で1,000万人の生命が危機にさらされる」と警鐘を鳴らした。
 デバゼイユ氏は、欧州15か国の原子力協会を会員とし3,000超の企業を代表するFORATOMのミッションを紹介し、「再生可能エネルギーと原子力が『炭素ゼロ』の欧州電力システムの柱となる」とする欧州委員会(EC)戦略、および2050年に向けた原子力の役割を分析したFORATOMシナリオを披露。
 高村氏は、政府のパリ協定に基づく長期戦略策定に係った経験から、再生可能エネルギーの導入に向けた投資拡大などに言及し、原子力に関しては、社会的受容性や市場での競争力を巡る課題を指摘した上で、「再生可能エネルギーか原子力か」という二項対立の議論ではなく、パリ協定後の様々な変化の中で役割を再定義する必要性を述べた。
 小宮山氏は、マサチューセッツ工科大学、日本エネルギー経済研究所他との共同研究レポートの中で提唱した「原子力・再生可能エネルギー共存戦略」について紹介。再生可能エネルギー大量導入下での原子力の競争力シミュレーションなどを披露し、原子力が有する「ベースロード電源」としての価値以外に、(1)供給信頼度、(2)出力調整能力、(3)非化石価値、(4)多目的利用――といった価値をあげ、「新たなビジネスモデルを構築していく必要」を強調した。
 会場の参加者から、「高レベル放射性廃棄物の最終処分にかかるコストは正しく算出されているのか」との質問があったのに対し、小宮山氏は、バックエンドを巡り山積する課題に関し「原子力産業界全体で知恵を絞って取り組んでいかないと、今後新増設を検討するにも説得力がないのでは」と懸念を示した。
 基調講演で地球温暖化問題の解決に向けて原子力の役割を強調したクルーグ氏は、「原子力に関しては一般公衆との議論が必要。水力もバイオエネルギーもすべてハザードを含んでいる。正しい情報をベースとした判断を」と指摘。山地氏は、本セッションで制度・社会的課題にまでは議論が及ばなかったことを振り返り、「原子力で一番難しいのは社会の理解。しかし例え難しくても取り組んでいかねばならない」と述べ締めくくった。