【第52回原産年次大会】福島第一原子力発電所の報告

廃炉に向けた福島第一原子力発電所の取り組みについて

 第52回原産年次大会2019の2日目となる4月10日は、東京電力ホールディングス常務執行役で福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント兼廃炉・汚染水対策最高責任者の小野明氏が「福島第一原子力発電所の現状と課題」を報告した。

 同氏は冒頭、同日付で福島県大熊町の一部の地区で避難指示が解除されたことを報告。震災から8年、福島第一の環境は大きく改善し、計画的かつ戦略的に作業を進められる環境が整ってきた。また、福島第一の廃炉を安全、着実かつ遅延なく進めることにより、リスク低減を図るとともに双方向コミュニケーションに努めている。

 講演の中で小野氏は、映像を交えながら「福島第一の現状」、「労働環境の改善」、「汚染水対策」、「使用済燃料プールからの燃料取り出し」、「燃料デブリ取り出しに向けて」、「双方向のコミュニケーション」の6つの取り組みについて語った。

 まず、福島第一の現状として、「各号機は低温停止状態を継続している。注水量を徐々に減少しているが、圧力容器温度や格納容器内温度は安定して推移している」とした。4号機は使用済み燃料の取り出しが完了しているが、1〜3号機は廃炉に向けて重要な工程である燃料デブリの取り出しに向け、ロボットの遠隔操作による内部調査を進めていることを紹介した。

 労働環境においては、事故当時は全エリアで防護服とマスクを着用しなければならなかったが、放射性物質の飛散防止などが進み、一般作業服を着用できるグリーン・ゾーンは、敷地内の96%まで広がった。事故当時は約7千人/日いた作業員も現在では平日で平均4千人/日に減っている。被ばく線量も、2011年3月には事故直後の対応を含め月平均で21.59mSv.だったのが、0.3mSVに下がり、安全面が大幅に改善されたことを報告。

 汚染水対策については、「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」という3つの基本方針で、汚染水の抑制、浄化、貯蔵に取り組んでいる。汚染水発生量は、2014年度の平均470立方メートル/日から2019年2月までに約180立方メートル/日に低減、2020年までに年間150立方メートル/日を目指している。1日あたりの発生量は減っているものの、タンク貯蔵量は増え、2019年1月には112万トンに達した。137万トンのタンク建設が計策されているが、建設に適した用地は限界を迎えつつある。

 また、もともと水の成分にも含まれるトリチウムだけは浄化装置で汚染水から取り除けないという課題がある。経済産業省のトリチウム水タクスフォースが立ち上がり、多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会における議論が交わされた。そこでは地層注入、海洋放出、水蒸気放出、水素放出、地下埋設という5つの処分方法について、規制や安全性を確保するためのモニタリング、技術面、処理期間、コスト等を評価。ALPS処理水の処分は風評被害など社会的影響を与えうることから、2018年8月に福島と東京で説明・公聴会を開催し、現在も議論を続けている。

 津波による汚染水の流出リスクへの対応として、超巨大地震発生から400年程度経過し、切迫している可能性が高いとされる千島海溝沿いの地震発生を想定して評価した。対策の一つとして、廃炉作業が遅れないよう、海抜11メートルの防潮堤を作る計画が進んでいる。

 使用済燃料プールからの燃料取り出しに向けた各号機の状況については、4号機は2014年12月に完了しており、1〜3号機の準備を進めている。1号機は積み重なる瓦礫の撤去の課題があり、2号機は遠隔操作による燃料取り出しを検討している段階にある。3号機は今年4月中に取り出し開始を予定しており、2020年度内の完了を目指している。これに関連して、崩落の危険はないもののリスク低減のため、1/2号機排気筒は、5月中旬に上部の解体作業を開始する。

 燃料デブリ取り出しに向け、原子炉格納容器内部調査を1号機は2019年度上期、2号機は同年度下期に予定、堆積物のサンプリングも計画している。

 双方向のコミュニケーションについては、「廃炉国際フォーラム」への参加や「廃炉に関する安全確保県民会議」で廃炉の状況を説明するほか、福島第一原子力発電所の視察も実施している。2018年度は約1万9千人、2020年のオリンピック開催までには年に約2万人の視察者数を目指す。また、ウェブサイトでの情報発信を強化するとして、「処理水ポータルサイト」や、「廃炉の現場をめぐるバーチャルツアー」などを開設した。2018年11月には東京電力廃炉資料館を富岡町にオープンし、時系列で廃炉に向けた取り組みを紹介している。すでに1万4千人が来場した。

 30〜40年を要する廃炉作業を安全かつ着実に遂行していくとして、「事故から8年、燃料プールからの取り出し、デブリの状況把握も進んできた。計画的に廃炉作業を進められる段階に来た」と締めくくった。