【第52回原産年次大会】セッション2「革新的技術の開発展望」
年次大会2日目のセッション2では、「革新的技術の開発展望」と題するパネル討論が行われた。原子力発電が将来にわたって貢献し続けるには、社会ニーズや環境の変化に合わせて常に技術革新していく必要があり、そのための国際コラボレーションの動きも見受けられている。
本セッションでは経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のパイレール氏をモデレーターに、革新的な技術の開発に向けた国際連携の動きを共有。日本における原子力の革新的技術開発の在り方について、示唆を得るとした。
経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)のアンリ・パイレール原子力技術開発・経済部門副部長は、セッション冒頭で「将来のエネルギー市場における先進型原子炉技術とその役割の展望」と題する講演を行った。
原子力の発電量は、1996年に世界全体の発電量の17.6%を占めていたが、2006年実績では11%未満に減少。2018年には10%近くに落ち、再生可能エネルギーの増加が際立ってきたものの、原子力は引き続き重要な電源である。
将来の低炭素電力システムについては、国際エネルギー機関(IEA)が「気温上昇を2度C未満に抑えるという目標達成に向け、再生可能エネルギーの割合が増加する」と予測。発電シェアが16%に増加することが見込まれる原子力については、長期運転、新規建設に向けた支援のメカニズムがほとんどないが、これまでの歴史から、CO2の排出量削減で非常に効果的な技術であることが証明されている。
世界の原子力発電所は福島第一原子力発電所事故以降、新規の建設が大型化と小型化の2方向に分岐。第3世代/第3世代+(プラス)の大型炉建設計画では、初号機にコスト超過と遅れが生じたが、それでも2018年は世界初のAP1000や欧州加圧水型炉(EPR)が中国で完成した。関心の高い小型モジュール炉(SMR)については、米原子力規制委員会がニュースケール社のSMRについて、設計認証作業を実施中。「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)」も、6つの有望な原子力システムについて、研究開発プロジェクトを進めている。
原子力の役割としては、IEAの分析から、発電所や送電網、エネルギー貯蔵を含む将来の発電システムを柔軟なものにする必要性が明らかになっている。また、様々なクリーン・エネルギーの特性について話し合う重要なフォーラム「NICE Futureイニシアチブ」が、クリーンで統合されたエネルギーシステムにおける原子力の役割周知、といった課題について協議を行っている。
結論として、世界の原子力発電シェアが15%~16%となるよう新規の原子炉を建設するには、大規模投資のみならず、安定的かつ有益な政策、業界の「優れた」製品、公衆からの支援も必要になるだろう。
米原子力学界(ANS)副会長で、6月には会長に就任するエクセロン・ジェネレーション社のマリリン・C.クレイ副社長は、「持続可能な原子力の将来に向けたイノベーション」について講演した。
クレイ副社長によると、米国の原子力産業界は主な目標として、(1)既存の原子力発電所の維持と、(2)軽水炉式小型モジュール炉(SMR)の開発および先進型原子炉の商業利用――を掲げている。既存炉の基数は現在、98基で、米国における総発電量の約2割を発電する一方、国内の無炭素電力に限った場合の電力供給量は55%、平均設備利用率は92.3%に達している。
新たな原子炉としては、軽水冷却式のSMRと先進型原子炉の商業利用が推進されているが、これらを商業運転できるようにするには、既存の商業炉を利用し続ける必要がある。既存炉の早期閉鎖を防止する取組として、国内では「原子力に関する公約の実現」を通じた運転員の協力、国外の取組としては、政策変更に向けた国や連邦レベルでの支援、ほかの発電方法に対する競争力の実現、およびCO2を排出しないという特質に対するメリットの創出等が指摘されている。
原子炉技術は軽水炉から受動的安全性を備えた軽水炉、軽水炉方式のSMRなどに進化しており、その他の方式の先進型原子炉として高温ガス炉、溶融塩炉、核融合炉の開発も進展中。軽水炉方式のSMRで開発が最も進展しているものは、ニュースケール・パワー社のSMRがあり、GE日立ニュークリア・エナジー社はすでに承認済みのESBWR(高経済型単純化炉)設計に基づく出力30万kWの原子炉を開発している。ホルテック社も出力16万kWのSMRを開発中である。
先進型原子炉に関する活動としては、高温ガス炉と溶融塩炉、および高速炉に関して「スリー・テクノロジーWG」が設置された。規制上の課題としては、許認可に向けた段階的アプローチにより、投資の決定を支援することや、非軽水炉を設置する上で必要な規制枠組の変更などがある。また、連邦政府による支援も必要で、米エネルギー省による資金調達機会の進展や、「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」プログラムなどが重要になるだろう。
英国国立原子力研究所(NNL)のガレス・ヘドック科学技術部長は、まず「持続可能な原子力の将来に向けたイノベーション」について講演し、英国で進展中の「共同作業を通じた技術革新」について次のように説明した。
NNLは英国政府の所有であるものの、運営は商業ベースで行われており、政府から3つの役割――(1)英国における戦略的技術アドバイザー、(2)商用ビジネス、(3)国家の戦略的技術作業――を付与されている。英国内の原子力施設では現在、約6万人が雇用されており、英国経済に対して120億ポンド以上貢献。原子力による発電シェアは21%となっている。原子力発電所のほとんどが新型ガス冷却炉(AGR)であり、2030年までに順次閉鎖されていく予定。これらに代わる新規原子力発電所については、建設コストの確保が課題となっている。
技術革新は、原子力企業と非原子力関係企業も含めた、部門全体の広範な協力により行われている。重点を置く分野は、「革新的技術の開発」のほかに、「文化とリーダーシップ」、「協力とサプライ・チェーン」、「プログラムとリスク管理」、「資金調達と商業モデル」などで、技術革新に関してNNLは、新しい技術的な価値の提供モデルを構築した。大学や国立機関と協力して最新の施設を活用して、コストの削減や能力開発など技術が提供する価値や影響を外部に示し、資金を集めるというもの。これにより、組織の能力がさらに強化されることになる。
ケース・スタディとしては、安全性の改善と環境影響の最小化、およびコストの低減を目指して欧州委員会が開発した廃止措置研究のロードマップ「SHARE」に言及した。確証済みの技術がリスクを軽減するなかで、革新的な廃止措置技術に新たに経費をかけることは、個々の国にとって正当化が難しくなっている。SHAREでは、原子力施設の廃止措置でステークホルダーが近い将来、共同で安全性を改善するとともにコストを削減し、環境影響も最小化するためのロードマップや、戦略的な研究課題(SRA)などを提供することになる。
以上のことから、産業界と学術界および政府が協力することは、コストを下げるだけでなく技術の商業化を早め、施設や人材および専門的知識を活用する最善の方法になる。さらに、我々はすべてのものを自分達だけで考え出す必要はなく、互いに学び合い、良慣行を採用し合うことが成功のカギとなる。
なお、モデレーターのパイレール氏は、諸般の事情で登壇できなかったロスアトムJSCサイエンス・イノベーション社のピョートル・ゼレノフ国際コミュニケーション・ビジネス開発部長、および経済産業省・資源エネルギー庁の松野大輔原子力政策課長による発表内容の概略を説明した。
その後はパネル討論に入り、国際協力で原子力研究を行った場合の知的財産権保護という問題について、へドック氏は「出来るだけ守る方向ではあるものの、原子力の場合は個々に抱え込むのはかえって良くない」との見解を表明。技術を直ぐに利用して必要なニーズを満たせば、コストが下がるし安全性も担保される。守らねばならないものがある一方で、知的財産を隔離するよりセクター全体で共有する方がメリットが大きいとの認識を示した。
クレイ氏は今後のSMRの位置付けに関連して、「既存の大型炉が必ずしも無くなるわけではない」と述べた。米国では大型炉はベースロード電源として貢献しており、コスト面でも大規模な方が効果が高い。今あるものは長く利用するが、分散型のSMRや先進型炉は大規模電源が不要な途上国用、あるいは遠隔地での利用に向いている。双方に役割があり、互いに補完し合う関係だと説明した。
また、会場からの質問として「発表では、開発の早い段階から規制当局との対話が重要と強調されていたが、規制側には独立性も必要であり、どのようなアプローチが考えられるか?」というものがあった。これに対してヘドック氏は、「先進的な技術を駆使したものの場合、前向きに評価したくても、その技術を理解していなければ規制できない」点を指摘した。クレイ氏は、米国の規制当局が規制の近代化を進めているとした上で、「作業員の防護といった目標があったとしても、やり方は色々ある。必要なのはある一定の安全基準を確保しつつ、コストがからむ部分や今どのような炉を開発中なのか、規制側がキチンと学び認識しておくことだ」と説明した。
クレイ氏はさらに、「エクセロン社の社長に就任した場合、SMRを作る考えはあるか?」と問われ、「判断の基準は常に経済性だ」と断言。現段階ではSMRの設計が完全とは言えないが、軽水炉型のものなら評価がし易い。会社のバランスシート上、魅力的なものなら作られるだろうとの考えを表明した。