【第52回原産年次大会】EUの低炭素な将来における原子力の役割について

2019年4月12日

 4月10日のリーダー・パースペクティブでは欧州委員会エネルギー総局原子力・安全・ITER局長のマッシモ・ガリーバ氏が「EUの低炭素な将来における原子力の役割」をテーマに登壇した。

 ガリーバ氏は冒頭で「ビジョンがないと長期的な脱炭素の道を歩むことはできない」と述べ、欧州委員会の取り組みについて語った。

 欧州委員会は、2018年11月、2050年に向け気候中立的な経済を目指す欧州の長期戦略として、”A Clean Planet for All” (全ての人のためのクリーンな地球)を打ち出した。
 パリ協定で定められた通り、地球の平均気温の上昇を2度C未満に抑え、さらには1.5度C未満に抑えるため、野心的なシナリオを打ち出す必要があるためだ。これを実現するために、2021~2027年のEU予算のうち4分の1を経済の脱炭素化に当てる見込みだ。
 脱炭素化に向けて、欧州ではエネルギー生産に注目が集まる。中期的な目標として2030年までに、温室効果ガスの排出を1990年代比で45%削減を目指す。EU加盟国は自国のエネルギーミックスを決める権利があるため、EU全体の効果に繋げるためには、強力なガバナンス制度も必要とされる。
 これに対し「欧州委員会は原子力エネルギーの潜在的可能性を認識している」とガリーバ氏。温室効果ガスの排出を少なくとも80%、あるいは100%削減するのであれば、再生可能エネルギーへの切り替えや原子力エネルギーの役割は重要となる。
 現在EUでは14の加盟国で126基の原子炉が稼働している。総発電量は115ギガワット。同域内のカーボンフリーの電力発電の2分の1近くを原子力が担う。
 欧州委員会は、原子力発電と利用において放射線や放射性物質の防護、廃棄物の管理、セキュリティを担保するため、事故発生時の対策に加え、原子力安全規制委員会の独立性と意思決定などにおける透明性を求めている。
 規制のあり方は国によって異なるため、EUでは原子力安全におけるトピカル・ピアレビューを6年サイクルで実施し、特に高経年劣化を評価する。これとは別に2013年、2015年、2017年には福島第一原子力発電所の事故を受けてストレステストを実施した。外部事象への耐性を調べるこの手法はEU圏外にも広がり、スイスやウクライナのほか、アルメニアやベラルーシ、台湾も関心を示す。
 政策的に原子力利用を同盟国同士が把握し、国レベルで俯瞰する一方で、現場の運用にも戦略はある。「この2つの戦略が一貫した結果につながる必要がある」とガリーバ氏は強調した。
 2030年代までにほとんどの原子炉は長期運転の時代に入る。脱炭素に向けて新たな原子炉に置き換えていかなければ、目標達成は困難となる。また、2050年までに80%の発電は再生可能エネルギーと原子力になるとみられており、EUの原子力発電には柔軟性や負荷追従運転が求められる。
 こうした背景から欧州委員会は小型モジュール炉(SMR)に関心を示しており、開発と安全機能強化に資金を投入している。また、経済的かつ迅速な導入を図るために多国間の相互承認制度が必要と強調。このほか、機器や部品の標準化・共通化を促すことにより、製造や保守点検作業の効率化が図れる。この仕組みが機能するには産業界と規制側の連携体制も必要となってくる。

 講演の最後に、ガリーバ氏は、「21世紀後半へと長期的に見据えた脱炭素経済に持続可能な技術は不可欠。それは原子力における核融合の技術である」とし、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決するものと期待され、核融合エネルギーの実現に向け国際協力のもと取り組まれている国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトについて触れた。欧州と日本は、協同で幅広いアプローチ(BA)活動を青森県六ヶ所村と茨城県那珂市で2019年末まで実施する。具体的には原型炉の概念設計や技術の検討、主要機器となる高性能加速器の制作プロセス開発や性能実証の実施、臨界プラズマ試験装置を超電導化し、先進超電導トカマク装置JT-60SAの建設が行われている。
 2019年6月に開催されるG20サミットは日本が議長国となる。その下で脱炭素社会に向けた方向性が打ち出されることに期待を寄せ、「欧州委員会は、2050年の炭素ゼロ目標に向け、気候変動への対策になる国際的なパートナーシップを強化したい」と締めくくった。