【第52回原産年次大会】原子力支持に転換した環境保護活動家、シェレンバーガー氏が記者会見

2019年4月12日

 原子力支持派の環境保護活動家として知られる米エンバイロメンタル・プログレスのマイケル・シェレンバーガー代表(=写真)が4月9日、原産協会の第52回年次大会で特別講演を行うために来日した。講演後の記者会見では、かつて反対していた原子力発電への認識が支持に変化していった理由を説明している。
 同氏は、世界のエネルギー事情を研究した上で原子力支持に転換した環境保護活動家の主張を紹介する映画「パンドラの約束」にも出演。地球温暖化の防止で、原子力が果たす役割の重要性を訴えている。記者会見ではまた、放射性廃棄物の処分についても、原子力産業界は地下埋設に固執しているのではないかとの持論を以下のように展開した。

 原子力に対する考え方が徐々に変わっていったのは、2000年代初頭の30代に入った頃のこと。地球温暖化問題に専門的に取り組んで行きたいと思っていた時期で、技術的な解決策は非常に分かり易いと考えていた。従来的な政治的思想として、再生可能エネルギーが考えられたが、準備状況が未だ完璧ではなかった。
 このため、政府が10年かけて再エネに投資を行い、化石燃料に対する競争力をもてるようにすべきだとの提言が策定されたが、再エネには間欠性という問題があった。また、太陽光や風力で十分な電力を得るには、膨大な土地が必要になるという問題にも繰り返し直面。これを解決しようとした場合、新たに経済性や環境上の問題が発生してしまうという状況であり、最終的には非常に尊敬している関係者から「原子力について改めて考えて見ないか」と勧められたのだった。
 チェルノブイリ事故が発生した頃、自分はまだティーン・エージャーで、原子力には強い恐怖心を抱いていた。しかし、世界保健機関(WHO)の報告書を繰り返し読み、「(同事故で)放出された放射能によって、負傷した人や死亡者が非常に少なかった」という点に驚かされた。原子力のことを色々と学ぶにつれ、考え方も進化してきており、どこかの段階でそれは固まるかもしれない。

 人々が放射性廃棄物や原子力に対してなぜ、これほどまでに恐怖心を抱くのかについては、約75年前の原子爆弾投下以降、その革新的な技術の強力さに、ある種のトラウマを受けていると言える。その残響が今も鳴り響いている状況だが、放射性廃棄物からは誰も実害を受けていないし、量も少量。完全に隔離されているのに対して、化石燃料やバイオ燃料を燃やした大気汚染により、年間700万人が亡くなっていることはWHOの報告でも明らかだ。また、太陽光パネルが20~25年後に寿命を迎えれば、廃棄物は原子力の200~300倍にもなる。
 メディアや一般社会、政府機関や産業界も、原子力発電の放射性廃棄物については、完全に心を捕えられてしまっている。推進派であれ反対派であれ、原子力産業界も含めた全員が、放射性廃棄物をどうするかについてのみ議論しているが、この問題は既に解決済み。それは「封じ込めて貯蔵」という策になるが、これを人の頭の中でどう捉えるかは人類学や心理学の領域の問題になるだろう。
 また、原子力産業界は、放射性廃棄物を地下に埋設することに固執している。地上であれば継続的に監視ができて、安定しているか確認することが可能。人類学者の視点からは、地下に埋める必要がないものをわざわざ埋設するのは、もはや「儀式」のように思える。
 さらに、放射線について色々な人の話を聞いてみると、物理的現象の話というより、まるで悪霊の話をしているかのようだ。あらゆる文化に内在する人類の望みとして、原子力や核を完全に無くして埋葬したい、パンドラの箱に戻したいという衝動がある。無意識のなかに、「存在する強力な技術を無くしたい」という考えがあることに気付いて欲しい。