NUMOが「包括的技術報告書」を踏まえた対話のあり方について意見交換

2019年4月22日

 原子力発電環境整備機構(NUMO)は4月20日、高レベル放射性廃棄物地層処分の実施主体として、これまでに蓄積された科学的知見や技術を取りまとめ昨秋公表した「包括的技術報告書」について説明するとともに、報告書を踏まえ今後の対話のあり方をテーマに有識者を交えてパネルディスカッションを行った(=写真)。NUMOでは、2017年7月の地層処分に関わる地域特性を色分けした「科学的特性マップ」の提示を受け、2019年3月末までに「対話型全国説明会」を全国54都市で開催しており(試行的実施は除く)、今回の会場には説明会に参加したことのある人も含め約70名が参集した。
 「包括的技術報告書」は、長期にわたる処分事業を見据え、わが国の地質環境に対し「安全な地層処分を実現する」ための方法を詳細に説明したもので、(1)どのように適切な地質環境を選ぶのか、(2)どのように安全性を確保した処分場をつくるのか、(3)処分場が安全であることをどのように確認するのか、(4)地層処分の信頼性をさらに向上すべく何をしていくべきか――を示している。NUMOでは本報告書を「地層処分の安全性に関する対話の土台」として活用するとしているが、本編と付属書込みでおよそ5,000ページにも上ることなどから、原子力委員会の岡芳明委員長は専門外の人にもわかりやすい要約版が必要などと指摘しており、現在、意義・要点を平易に伝えることを目的とした「導入編」の作成が計画中。
 パネルディスカッションは、八木絵香氏(大阪大学COデザインセンター准教授)をコーディネーターとして、新野良子氏(柏崎刈羽発電所の透明性を確保する会 初代会長)、井川陽次郎氏(読売新聞論説委員)、佐々木隆之氏(京都大学院工学系研究科教授)、寿楽浩太氏(東京電機大学工学部准教授)、伴英幸氏(原子力資料情報室共同代表)、渡辺凛氏(アジア太平洋エネルギー研究センター研究員)らが登壇。
 「包括的技術報告書」では、処分場閉鎖後の長期的な安全評価として計16の解析ケースについて妥当性を述べており、その中で、極めて発生可能性が小さい自然事象に係る「稀頻度事象シナリオ」に関し、伴氏は「福島第一原子力発電所事故の経験から『絶対に起きない』とは思えない」として被ばく線量の計算に対し疑問を呈した。また、渡辺氏も「『どうして安全を確保できるのか』を、技術的説明だけでなくマネジメントの面からも納得がいくものに」などと訴えた。
 これに対し、NUMOの梅木博之理事は2018年11月の報告書発表時の報道を振り返り「『稀頻度事象シナリオ』については、『何mSv』といった数字が一人歩きしてしまう」と述べ、社会学の見地から寿楽氏は「処分事業が先行するフィンランドなどに比べ、日本では公的なデータへの信頼性が低いのでは」と指摘。また、技術的観点から佐々木氏は「調査の進展に応じ『どれくらい不確実性が下がるのか』という議論もきちんとなされる必要がある」と述べた。
 メディアの立場から、井川氏は「再稼働もゼロから了解を得ねばならない現状。そうした時期に報告書が公表されたことは時宜を得ている」とした上で、報告書をもとに丁寧な議論が積み上げられていく必要性を強調した。
 地層処分の実施主体による安全性コミュニケーションは諸外国でも行われており、こうした国際動向について、資源エネルギー庁放射性廃棄物対策技術室長の吉村一元氏が2018年11月にOECD/NEAと共催で行ったワークショップの概要を通じ紹介した。(ワークショップの内容はNUMO作成の パンフレット「世界とともに」 に紹介されています)