農水省が福島県産品の流通回復に向け説明会、マーケティング戦略の重要性も

 農林水産省は5月16日、先般取りまとめ公表された福島県産農水産物の2018年度流通実態調査結果に関する説明会を都内で開催した。同調査は、福島県産品の販売不振に関わる実態と要因を明らかにすることを目的として、前年度に引き続き実施されたもので、農水産物26品目の出荷量、価格動向のデータをもとに、その流通傾向を分析している。特に、今回の調査では、米、牛肉、桃、ピーマン、あんぽ柿(干し柿)、ヒラメを重点6品目として、出荷、卸売・仲卸、小売の段階ごとの価格形成状況を把握するとともに、他県産品との比較・分析も行っており、これらの調査結果を踏まえ、農水省・復興庁・経済産業省の連名による指導文書が4月26日に、卸売業者、仲卸業者、小売業者などへ発出されている。
 調査結果によると、重点6品目の出荷量はいずれも震災前の水準には回復しておらず、米、牛肉、ピーマンではおよそ2割減に、あんぽ柿とヒラメでは4~5割程度にしか達していなかった。また、価格の推移をみると、福島県産は依然と全国平均を下回っていたが、価格差は徐々に縮小しピーマンではほぼ同程度にまで回復。流通段階ごとの追跡調査によると、ピーマンは、小売業者は産地にこだわらず一定の価格を決め、中間流通業者の手数料も同一であったため、各段階とも、岩手県産品と同じ価格で販売されていた。あんぽ柿も小売業者が産地から直接調達しており、同様の傾向が和歌山県産品との対比で示された。全般的に他県産品との価格形成に明確な違いはみられず、いわゆる「買いたたき」についても確認されなかったとしている。
 一方、消費者へのアンケート調査によると、「福島県産米の購買」と「福島県への親近感、米の味への評価」との間に相関が見られ、今後消費者の購買意識を高めるためには、福島県の「良いイメージ」や「良質な商品という評価」を広めることが重要と分析している。

復興庁が配布したパンフレット(日本語版〈上〉と英語版〈下〉)、6月のG20日本開催に向けて韓国語版や中国語版なども制作予定

 東日本大震災から8年が経過し、他道県でも農水産物の新商品開発やブランド化に向けた取組が顕著となっており、今回の調査では、震災後の生産戦略・流通戦略の現状についても取り上げた。例えば、米では、北海道、東北、北陸の各道県で「プレミアム米」の開発が進んでおり、北海道の「ゆめぴりか」は田作りから収穫までを通じた栽培マニュアルの生産者配布やコンテスト開催などにより、高品質を確立させ市場において高いシェアを獲得している。福島県でも2021年秋の本格市場デビューを目指しオリジナルの「プレミアム米」の開発が進められているが、説明会で農水省の担当者は「近年マーケティング競争が厳しくなっており、他県を凌ぐ取組が必要」と強調した。
 説明会には主に業界団体の関係者約50名が参加し、商品の評価のあり方に関する質問の他、「『汚染水』と繰り返し報道されることで水産物に悪いイメージが定着してしまう」、「給食に福島県産の食材を取り入れている学校もあるが、『どうしても嫌だ』といって弁当を持参させる家庭もある」といった消費者目線の意見も多く出された。農水省とともに説明に臨んだ復興庁の担当者は、「風評被害は、農水産物、観光、いじめ・差別の3つに大別される」とした上で、福島県の避難指示区域や空間線量率、食品の安全性、福島第一原子力発電所の現状を説明したパンフレットを配布し、関係省庁とともに情報発信に努めていく考えを述べた。