量研機構・平野理事長が会見、新たな体制で重粒子線治療普及に向けた研究開発など強化
量子科学技術研究開発機構(QST)の平野俊夫理事長らは6月20日、記者会見を行い、量子生命科学の研究体制整備などを柱とする2019年度からの組織改革「QST ver.2」について説明した。前身の放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の量子ビーム部門・核融合部門との2法人再編により2016年4月に発足してから4年目を迎えたのを機に、大幅な組織改編を図り、次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」の研究開発や緊急被ばく医療に係る人材育成の推進を強化する。新たに理事長直轄組織として設置された「量子生命科学領域」では、機構が発足当初から掲げてきた目標「量子論や量子技術に基づく生命現象の解明と医学への展開」に向けて、各拠点の有機的連携を図るとともに、大学の研究者を迎え入れる「クロスアポイントメント制度」を設けるなど、オールジャパン体制で取り組んでいく。平野理事長は、新たな研究分野である量子生命科学に「学問的研究からイノベーションへ」と期待を寄せ、得られた成果を広く社会に還元していく姿勢を示した。
合わせて創設された「量子医学・医療部門」には、放射線医学総合研究所(放医研)、高度被ばく医療センター、QST病院を設置している。放医研は研究開発に特化し、「がん死ゼロ健康長寿社会」の実現を目指して、他部門とも連携し超伝導やレーザー技術を結集した「量子メス」の研究開発に取り組む。放医研病院を衣替えしたQST病院では、研究成果の臨床応用を促進するとともに、「国際治療研究センター」を新設し、重粒子線がん治療に関する外国人研修の受入れを行う。
同部門長の中野隆史氏は会見で、重粒子線がん治療の普及に関して「現在の装置規模では絶対にできない」と強調し、治療開始から25年を迎えた重粒子線治療のパイオニア「HIMAC」の40分の1程度までの小型化を目指す「量子メス」研究開発の経緯と展望を紹介。「HIMAC」に比べ、群馬大学に設置された装置では約3分の1にまで小型化したが、専用建屋の建設コストなどから、「既存の医療施設に入る」規模の装置開発が進められており、試作機完成の見通しも立っている模様。
また、高度被ばく医療センターの取組については、同センター長の山下俊一氏が説明。原子力規制委員会より全国5か所の「高度被ばく医療支援センター」(同センターの他、弘前大学、福島県立医科大学、広島大学、長崎大学が指定)の中でも中心的・指導的役割を担う「基幹高度被ばく医療支援センター」に指定されたのを受け、「しっかりと連携しオールジャパン体制を構築していく」とした。