エネ研:2020年度までのエネルギー・需給見通し、特重施設完工の可否による影響も分析
日本エネルギー経済研究所はこのほど、「2020年度までの経済・エネルギー需給見通し」を取りまとめ、7月23日の定例報告会で発表した。2019~20年の世界経済の動きなどを予測した「基準シナリオ」を想定し分析を行ったもので、(1)原子力発電所の「特定重大事故等対処施設」完成や再稼働の遅延、(2)中東地政学リスクによる原油価格上昇、(3)貿易戦争による世界のエネルギー需給への影響――がポイント。
原子力発電所の新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」は、プラント本体の工事計画認可日から5年間の設置猶予が与えられているが、期限までに整備されない場合は原子力規制委員会により停止を命ぜられる。同施設は工事が長期化しており、2020年3月に九州電力の川内1号機が最初にその期限を迎える。
「基準シナリオ」によると、原子力発電については、新規制基準をクリアしこれまで9基が再稼働しているが、2019年度内は新たに再稼働するプラントはなく、「特定重大事故等対処施設」の完成遅れにより1基が停止し、総発電電力量は対前年度比4.9%減の590億kWhとなるほか、エネルギー起源のCO2排出量が増加に転じるものとみている。また、2020年度は、5基が新たに再稼働するものの、「特定重大事故等対処施設」の完成遅れにより4基が停止し、総発電電力量は同5.7%増の624億kWhとなる見通し。
これに対し、「特定重大事故等対処施設」が期限内に完工すると仮定した「高位ケース」では、「基準シナリオ」と比較して、2020年度に化石燃料輸入額は1,000億円減、エネルギー自給率は1.2ポイント改善、CO2排出量は800万トン削減されることから、「審査基準を明確化し、プラント固有の状況を考慮した機能的な審査に重点を置くことが重要」とする分析結果を示した。
また、米国・イラン関係を中心とした地政学的リスクの顕在化により、原油価格やLNG価格が上昇する可能性について述べた上で、化石燃料依存度が高止まりしている日本の現状から、再生可能エネルギーの低コスト化、原子力発電所の再稼働の円滑化など、リスクへの備えが重要とも指摘している。