原子力学会が高校地歴・公民の教科書を調査、6項目の提言
日本原子力学会はこのほど、高校の地理歴史と公民の教科書での資源・エネルギー、原子力利用に関連した記述について調査し提言を発表した。〈原子力学会発表資料は こちら 〉
今回、2017年に検定を受け使用されている地理歴史と公民の教科書9科目・計28点を対象に調査し、(1)世界の原子力発電の利用状況、(2)日本のエネルギー政策と原子力発電、(3)福島第一原子力発電所事故、(4)原子力安全とリスク、(5)放射性廃棄物の処理処分、(6)原子力利用の取り上げ方――の6項目について、適切な記述とするよう提言している。
世界の原子力発電の利用状況に関する記述については、「ヨーロッパの人々は、自国や他国に対しても原子力政策の見直しを求め、脱原発の世論が拡大」など、事実と異なり多くの国が脱原子力発電に向かっているニュアンスを含む事例をあげた。さらに、福島第一原子力発電所事故後の世界情勢に関する記述では、前回の高校教科書調査(2017年発表)で「ドイツ、イタリアなど、原子力発電を放棄した先進国もあり、わが国もそれに倣うのが望ましい」と受け取れるものが目立っていたが、今回の調査でもほぼ踏襲されていたと分析。こうした記述に関して、エネルギー政策は、各国の地政学的違い、資源の有無、政治体制、経済状況などにより異なるとした上で、わが国としては、「ほとんどのエネルギーを海外からタンカーで輸入している」というエネルギー環境の中で、原子力利用について考えさせる記述と教育指導が必要とコメントしている。
福島第一原子力発電所事故に関する記述については、「東日本大震災における地震で同発電所の原子炉が爆発・破壊した」といった誤解を招く表現も多くみられたとしており、「地震によって起きた津波によって冷却機器が機能しなくなる可能性を十分考慮していなかったためである」など、技術的説明を加えることを提言。
また、「倫理」の教科書では、「近代科学と自然支配」、「高度技術社会のリスクと地球共同体」、「原発と共存できるか」、「東日本大震災と東北の地域社会」といった項目の中で、原子力関連の記述や写真があった。その中には、「放射性物質を無害にすることは不可能である。このような根本的な欠陥を抱える原発と共存可能かどうか…」といった記述もあり、賛否バランスある取り上げ方がなされるよう提言している。この他、過疎・高齢化の進む東北地域における震災復興の難しさの中で、福島第一原子力発電所事故について触れている教科書もあった。
一方、注目すべき教科書の記述としては、「政治・経済」の「探求」で、「福島第二原発や女川原発は、福島第一原発と同じ地震や津波に襲われたが、事故を起こさなかった理由を考えてみよう」があげられた。この「探求」は、同記述による問題提起から、事故に伴う住民避難や社会の抱えるリスク、原子力発電のメリット・デメリットについて考えさせる構成となっており、今回の調査報告では、指導には力量が求められるが、「注目されるテーマ」と評価している。