IAEA/RCAシンポ、原子力科学技術を通じた多分野の途上国協力を紹介

2019年11月12日

 IAEAの「原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定」(RCA)で行われる途上国協力の取組について理解を深めるシンポジウムが11月11日、東京大学本郷キャンパスで開催。約140名の参加者を集めた。
 RCAのもと、アジア・太平洋地域の開発途上国を対象に、原子力科学技術に関する共同研究、開発、技術移転に向けた相互協力が行われており、今回のシンポジウムは、RCA活動に長く関わるNPO「放射線医療国際協力推進機構」の中野隆史理事長(群馬大学名誉教授)が中心となり、農業、医療、環境、工業の各分野のプロジェクトについて日本の専門家から紹介し議論するものとして企画された。
 開会に際し、RCAの国内担当機関である外務省より、尾身朝子大臣政務官、松本好一朗・国際原子力協力室長が挨拶に立ったほか、IAEAのダーズ・ヤン事務次長のメッセージを紹介。その中で、ヤン事務次長は、「『平和と開発のための原子力』は、故天野之弥事務局長の重要な遺産」と述べ、RCAが1972年の発足以来これまで、IAEAの活動の一つとしてアジア・太平洋地域の社会経済の発展に大きく貢献してきたと振り返った上で、日本のRCA活動を「リソースを有効に活かした重要な国際貢献」と高く評価し引き続き支援する意を表した。
 RCAのプロジェクトについては、医療分野で田巻倫明氏(福島県立医科大学)と畑澤順氏(大阪大学)、工業分野で玉田正男氏(量子科学技術研究開発機構)、農業分野で鈴木彌生子氏(農業・食品産業技術総合研究機構)、環境分野で辻村真貴氏(筑波大学)と加田渉氏(群馬大学)がそれぞれ活動内容・成果を発表。
 田巻氏は、「アジア全体のがん発生数は2040年までに65%増加する」と、プロジェクトを通じた放射線治療専門家育成の意義を述べ、2015年にはこれらの放射線治療医が結集し11か国による「アジア放射線腫瘍学会連合」(FARO)の設立に至ったことなどを披露。
 同位体分析による米の産地判別技術の開発を目指す鈴木氏は、「米はアジアの代表的な農作物だが、アジア・アフリカ地域ではプラスチックによるかさ増しや規定以上の残留農薬が問題となっている」と、途上国の食糧事情を憂慮し、安全性・信頼性向上のため、さらに技術開発を進める必要性を強調。
 「水の保全には循環形態を知る必要がある」として、同じく同位体分析により地下水の年代や流動経路などの研究に取り組む辻村氏は、乾燥地帯の水資源確保とともに、オアシスの起源解明や国境河川における水紛争問題の解決にも貢献する可能性を示唆した。
 シンポジウムでは、小出重幸氏(日本科学技術ジャーナリスト会議理事)の進行によるパネルディスカッション(=写真上)やポスター展示(=写真下)も行われた。
 多くの海外取材経験を持つ小出氏は、RCAのプロジェクトに関する発表を受け、「インパクトがあると感じたが、なぜメディアで取り上げられないのか」と述べ、放射線利用を中心とした国際協力の意義を認識する一方、「原子力」、「放射線」、「核」という言葉がその有用性に関する理解を妨げていることなどを指摘した。これに対し、玉田氏は農作物の放射線育種に対し理解が不十分な現状から「エンドユーザーとの協働」を、学生の頃からプロジェクトに関わってきたという田巻氏は「日本人の勤勉さも是非伝えたい」と強調。医師の人材育成に取り組んできた畑澤氏は「ネットワーク作りの場としても重要」と、それぞれ今後のRCA活動に向けて期待を述べた。
 ポスター展示には14機関が参加し、来場者との活発な質疑応答が見られた。