【ニュース動画】原産協会の特別シンポ 女性の視点からコミュニケーションのあり方を考える

2014年11月28日

原産協会は11月18日、女性の視点から、原子力の理解に向けたコミュニケーションのあり方を考える特別シンポジウムを開催した。本ページでは、動画と合わせて登壇者の発言概要を紹介させていただきます。シンポジウムのモデレータは、長谷川聖治氏(読売新聞科学部長)です。

■動画は右のリンク先をクリックしてご覧ください。  【特別シンポジウム動画へ】

▽基調講演「感性コミュニケーション~脳が創り出すミゾ」
黒川伊保子氏(感性リサーチ代表取締役)
脳を「装置」として見立てると、男女の脳は、回路構成と信号特性が大きく違う。
まずは、男性の皆様に、お家で奥様から、「今日、なんだか腰が痛くて」と言われたとする。そのとき、「医者に行ったのか」などと返したとすれば、女性にとって、こんなにも冷たいセリフはない。女友達同志ならば、ほぼ全員、「えー、腰が痛いの?」や、「それはつらいわね」など、相手の言葉の反復とか同情を返す。「共感」、女性の対話はここから始まる。
ところで、男性と女性の脳の違いは、右脳と左脳をつなぐ「脳梁」の太さが大きく起因している。脳内部の神経線維ネットワークを可視化してみると、女性脳では、右脳(感じる領域)と左脳(顕在意識と連結して言葉を紡ぐ領域)が密度濃く連携している様子がわかる。これが、おしゃべりによって潜在情報を収集し何か事が起こったら何年分もの記憶を一気に脳裏に展開し動けるという女性脳の「臨機応変力」につながっているのだ。
女友達同士の話を思い出して欲しいが、女性は、「共感」が知的行為の核となっている。人の話を体験記憶とし情動の札を付けて脳の中にしまうということは、「共感」するからできるのだ。また、女性は、感じたことがすぐ言葉になる。結論から言うのではなく、一定量しゃべり「共感」してもらうことに意味があるといえる。
さて、ものの見方でも、まばらに空間全体を把握する男性脳、目の前をなめるように見る女性脳と、男女間の違いがある。家庭内で、冷蔵庫から頼んだものを探し出せず、賞味期限切れの食品を差し出す夫に妻が腹立つという光景は、外国でも同じようだ。
しかし、組織の中に男女脳が混在すれば気付き、発想、ホスピタリティ、コミュニケーション、タフさの種類が増える。組織というのは、八割の「正しい方向に頑張っている個体」と、二割の「その仕組みの中でどうにもばらついてしまう個体」がいることで組織力の強さが生み出されているといわれている。この二割をフォローしていくには、「母性」がないといけない。特に、社会コミュニケーションの領域では、「母性」が大きく活躍する。また、女性は、先が見えないことに対して強い。これは子育てのために培われた力だろう。
この世に二つの脳がある。男女は違いを認め合えば最強の組み合わせとなる。どうか、男性社会は女性を受け入れて欲しい。

▽パネリストからのプレゼンテーション
越智小枝氏(相馬中央病院内科診療科長)
「放射線は低ければ低いほどいいんでしょ?」とよく言われる。実際に、放射線を避けて、何の健康リスクもないのであればその通りだ。では、放射線を避けるために、「外に出ない」、「魚を食べない」、「野菜を食べない」という生活が健康によいのか。野菜不足が1・06倍、運動不足が1・15~1・19倍、肥満1・22倍、それぞれ、がんのリスクを引き上げるといわれており、すべて健康のリスクとなる。 特別シンポ
放射線以外の、原発事故による健康リスクは、まったく話が別になる。事故発生直後、避難区域を設定されたとき、屋内退避指示、これは、科学的には正しいのだが、結果、この地域から移動できる人が全員避難してしまったことから、独居老人や病院など、動けない人たちが、食料のない状態で放置されることとなった。
つまり、原発事故の健康被害は、放射線による健康被害よりはるかに大きく、今も増加している。このように幅広い健康被害について語ることが、福島で起きている風評の払しょくにもつながるのではないか。

中村多美子氏(弁護士)
社会における合意形成の問題で、いつも感じることを述べる。まず、科学的事実、ここで大事なのは、その根拠となったファクトを出し、検討過程をクリアにし、透明な情報公開を行うこと。次に、リスクコミュニケーションだが、ここでは、科学的リテラシーを備えた利害関係者が幅広い視点で対話をすること。この中で、中立性・独立性のある専門家が蓋然性のある「物語」を書くことが大事なのではないか。特に、女性にとっては、描かれたストーリーの中でないと、数字だけを並べられてもなかなか理解しにくいし意見を持ちにくい。では、それで合意形成ができるかというと、オピニオンリーダーによる科学的情報の提供、専門家と非専門家による対話など、色々な取組をどんなに繰り返しても、なかなか論点が収束しないようだ。
米国のある学者による著書で、考えが似通った人たち同志の集団が形成され、ある集団は「低確率であっても危険な施策はとりたくない」という方向にシフトし、ある集団は「少々リスクがあっても大丈夫」という方向にシフトするといった「集団極化」が生じ、よく知られ長く論じられてきた問題については、脱極化が簡単には起こらなくなるということが述べられている。話し合えば合意形成ができるというわけではないのだ。

武田美亜氏(青山学院女子短期大学現代教養学科准教授)
「女性」と括ってコミュニケーションを考えることは、相手個人の属性やニーズを覆い隠し、双方向的な対話を阻害する。社会心理学の分野で、「ステレオタイプ化」の研究というものがある。人は、性別、年齢、人種など、目立った特徴で人を分類しがちだ。そして、ざっくりと「女性ってこうだよね」という風に「カテゴリー化」して、過度に一般化された認知を、目の前の個人に当てはめてしまう。これが「ステレオタイプ化」だ。そもそも男女はそんなに違うのだろうか。
黒川氏の講演でも出てきたが、ある研究によると、共感が得意な脳は女性に多く、システム化が得意な脳は男性に多いとされている。これを、数値化してみると、男女でかなり重複していることがわかる。確かにそれぞれの人に応じたコミュニケーションをとるという意味で、「女性」というのは一つの切り口かもしれない。しかし、信頼を得る上では「カテゴリー化」した視点をとるのではなく、相手の視点に立ってみることが重要ではないかと思う。