もうひとつ先の私たちへ。-02不眠不休で?さすがに寝るわい。ワッハッハ(笑)

「なにもすることがない」日々に嫌気がさした
富岡町から郡山へ避難して1年が経ち、「なにもすることがない」日々に嫌気がさした小野さんは、社会福祉協議会が設立した草木染めの工房に参加した。初めの3年間は福島県からの事業補助があった。だが4年目になると県からの補助金はゼロになり自立を促された。
自立というのはなかなか難しく、工房の家賃も払えなくなり、30名いた仲間は徐々に減っていった。現在は工房を郡山から20km離れた三春へ移転。「染め」を担当する小野さんと、「仕立て」担当、事務担当の計3人で運営している。
「この事業を始めた頃は、全員が素人だった。先生に教えられたとおりに修業を重ね、気がついたら男手はわし一人になってた(笑)」
イベントがあると出店し、藍染めの評判も上々だという。小野さんは「これでもなかなか忙しいです」と嬉しそうだ。
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郡山の一流ホテル「ホテルハマツ」では、おだがいさま工房が作るハンカチを、女性客用のアメニティグッズの包みに採用している。小野さんがハンカチを染め、桜の模様を入れているのだ。お雛様のような包み方は、以前工房で事務を担当していた女の子が発明した折り方だという。納品数は1か月で250セット。「中国から輸入するものよりも安いかもしれないよ」とニヤリと笑う小野さん。
帰還?まだ先かな
小野さんの自宅は帰還困難区域にある。
「帰るのはまだまだ先だ」
たまに自宅の様子を見に帰ると、イノブタの被害がヒドイそうだ。イノブタが食べ物を探して庭の植木、庭の小屋と、掘り返してグチャグチャだという。「よくもまぁ掘りやがったな(笑)あちこち穴だらけだもの。愛嬌のある顔してるんだがなぁ」
小野さんの自宅の勝手口のドアも、イノブタに破られてしまったそうだ。
イノブタは以前から山にいたわけではない。噂では、近所で飼われていた豚が、イノシシと交配したのではないか、とまことしやかに囁かれている。野生のイノシシ自体は1匹か2匹ぐらいだったそうだ。
「このイノブタ食えばうまいんだが…」
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クリスマスの柄は、こちらも工房で事務を担当していた女の子が描いて、カットしたものだ。
富岡の桜からピンク色を
草木染めは文字通り自然の草木から抽出する。小野さんが今取り組んでいるのは、富岡の名物である桜からピンク色を採ること。試行錯誤を重ねているのだが、なかなかうまくいかないという。どうしても「赤茶色になってしまう」そうだ。
桜の枝から抽出するのだが、抽出する際はラーメン屋の寸胴のようなもので煮出す。理論上は5~6回目くらいの液で染めると綺麗な薄いピンクになるはずなのだという。「なんとか富岡町の売りにしたいのだが、ピンク色が出ない。ピンク系に近づいてはいるのだが…」
作業は2日間煮出しっぱなしだそうだ。もしや不眠不休で? 「いや、さすがに寝るわい。ワッハッハ(笑)」
「わしは器用というか、好奇心があるんだな。なんだって顔を出すけど、成功したのが一つもない(笑) 飽きっぽいというか、中途半端で、みんなによく言われんのよ(笑) そう考えると今回のこれは、長続きしてんな。これだけは富岡町に帰ってもできっかな」
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通常ピンクは、ラックダイ(カイガラムシから抽出したモノ。サイズが大きい海外産のカイガラムシが使われるそう )とスズを混ぜて、白い布に染める。
photo & text: 石井敬之