もうひとつ先の私たちへ。-12「「あ、すごくいいな」と思ったんです。 」牧ノ原沙友里さん 一般社団法人ならはみらい事務局
楢葉町役場の向かいにある小さな建物の中に、「ならはみらい」のオフィスがある。「ならはみらい」は2014年6月に発足した「まちづくり会社」。楢葉を魅力ある町として再生させるにあたって、行政と町民との間に立って互いをつなぐ役割を担っている。
事務局に勤務する、「楢葉生まれ楢葉育ち」の牧ノ原沙友里さんから、「ならはみらい」の活動について話を聞いた。
牧ノ原さん:「きずな」「安心」「活力」――この3つの基本理念のもと、活動しています。
住民が帰還せずにそのままになってしまった土地や空き家が多々あるので、その情報を一元的に取りまとめ、それをうまく利用希望者とマッチングさせる事業、「空き家空き地バンク事業」ですとか、傷んでしまった自宅を修理したいけどどうしていいかわからない場合に、私たちが間に入り、業者とうまくマッチングさせたりしています。
ほかにもコールセンターの運営や、飲料水の水質モニタリングなど、住民のみなさんの不安を少しでも取り除こうとしています。
牧ノ原さん: 町内外の「きずな」を強めて「活力」を生み出すために、「ならはふるさと案内人」事業を実施しています。町民自身がガイドとなり、視察に来てくださった方々を連れて、1~2時間かけて町内各所をご案内するものです。オプションとして「語り部」もご用意しています。これが人気あるんですよ。リピートされる方もいらっしゃいます。
最近特に力を入れているのが、農業体験等を通じて訪問者を増やす取り組みです。町民自身の活力も必要なのですが、町の外からの力も必要なのではないかということで、まずは楢葉を知ってもらうきっかけを作り、また楢葉に来たいなと思ってもらえるように。最終的な目標としては移住とかにつなげようと、頑張ってやっています。参加する学生たちは、みんな熱心に手伝ってくれています。
「ならは応援団」や「なにかし隊」という取り組みもやっています。「ならは応援団」は、町の外からの「楢葉を応援したい支援したい」という方の受け皿となるボランティア組織です。「なにかし隊」というのは楢葉町民だけで構成される組織で、楢葉のために何かをしたいという気持ちを持った人たちが集まった組織です。「なにかし隊」では最近だとかかし作りを行っています。
ちょっと通常のかかしとは違い、等身大の人形なんです。本当にびっくりするようなリアルなかかしですよ。初めて見る方は、必ずと言っていいほど、驚かれます!
───「ならはみらい」発足当時のメンバーはどうやって集めたのですか?
酒主秀寛さん
楢葉町 復興推進課 課長補佐(当時):
町の中で中心となって動いてくれるような方を社員として声掛けし、組織として立ち上げました。
これまで復興を行政主導でやってきましたが、それでは今後回らなくなることが当然考えられますので、行政と町民の間に立つ「まちづくり会社」が重要になっていくんじゃないかと思っていました。
実際、すでに行政よりも町民の中へ入っていって活動して頂いてます。
───「ならはみらい」に加わったきっかけは?
牧ノ原さん:私は震災前から去年まで東京にいたんです。いつかは楢葉へ帰るつもりで上京していたのですが、「そろそろ帰ろうかな」と思ったタイミングと、楢葉が避難解除された時期(2015年9月)が丁度うまく合致したので帰ろうと決めました。
私は学生の頃から楢葉町で和太鼓をやっていて、上京後、 東京でも活動していました。震災後も月に一度、町の子どもたちに教えに帰って来たり、町のイベントがあれば演奏しに帰って来ていました。
「ふたばワールド」という地元のイベントがあるんですけれども、2015年に演奏で来た時に「なにかし隊」がブースを出してたんですね。これまでイベントですと、お店や、会社の人がブースを出すイメージだったのですが、そうではなくて町民が自主的に活動している姿を見た時に、「あ、すごくいいな」と思ったんです。それで「なにかし隊」の事務局であるならはみらいで働きたいと思いました。
─── 一番苦労していることは?
牧ノ原さん: 町民は徐々にではありますが戻って来ています。ただ帰ってきている人は限られているので、イベントを企画・運営してもいつも同じ人たちが参加する形になるんですね。それはもちろんうれしいことなのですが、その方たちの負担になることが私たちの目的ではないので、そこが難しいなと感じています。
また、帰ってきた人たちの中には、なかなか外に出るきっかけをつかめない方もいると思うんです。そこは社会福祉にもつながるとは思うんですけれども、どうしたものかな? もっとうまくできないかな?と悩んでいます。
東京から楢葉町へは、電車でおよそ3時間。楢葉町のファミリーマートは24時間営業だ。
photo & text: 石井敬之