特集「震災から5年~福島の復興と再生に向けて」 石崎芳行東京電力福島復興本社代表

2016年3月31日

インタビューシリーズ2回目は、住民の方々に寄り添って復興と再生に取り組む東京電力福島復興本社代表の石崎芳行氏に、今の思いをうかがった。

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- 福島復興本社は、地域の皆様との触れ合いとつながりをさらに深めるため、富岡町に移ったとのことだが。
 福島復興本社は3月7日に、Jヴィレッジから富岡町の浜通り電力所に移ったが、富岡町自体は未だ避難指示が解除されていない。そこにあって、日中の立入りが可能な区域にわれわれ社員が東電の制服を着て、住民の皆様に先んじ復興に向けた仕事をすることに大きな意味がある。歩いていれば、一時帰宅をする町の方に会う機会もあり、挨拶もできるようになった。事故を起こした東電は「憎い」と思われているかもしれないが、その社員が町の中で懸命に働いているところを見てもらえれば、少しでも安心につながるのでは、という思いで取り組んでいる。
 町の大きな商業施設(現在休業中)の正面には交流サロンがあり、そこでは制服を着た東電社員も、まずお詫びをした上で皆様と触れ合うようにしている。私は新年の訓示で、「今年のキーワードは触れ合いとつながり」と社員らに呼び掛けた。正にそれを実践する「最前線基地」とするのが、今回の福島復興本社移転の意義と考えている。

- 「人的貢献活動」や「見回り隊」など、復興本社では様々な活動を積み重ねているが。
 しかし、住民の皆様は、東電に対し複雑な思いをまだ持ち続けていると思う。中には、「発電所とともに発展してきた町」という意識を持っている方々も多い。にもかかわらず、原子力発電所が事故を起こして日常生活を奪われてしまったことに対する怒りは、そう簡単に消えるものではない。
 これを十分に自覚した上で、東電社員の皆が、「地域の皆様とこれからも共存共栄させていただきたい」という誠意を尽くすしか東電の信頼を回復していく道はないと思っている。その一つのきっかけとして、皆様と一緒になって草刈りなどに取り組む「人的貢献活動」を続けてきた。ともに汗まみれになる中で、苦労話も聞き、自分たちが「もっと何ができるか」に気付くはず。今はまだ通過点にあり、今後も地道に活動を続けていかねばならない。
 2015年9月には、楢葉町の避難指示が解除された。私たちは、すぐに「見回り隊」と称して、毎日社員2人1組で住民の皆様のお宅を巡回させてもらっている。その都度、何軒回ってきたかを報告させているが、最近では、どうしたことか巡回軒数が減ってきている。聞けば、最初は、訪ねて行っても「用はない」などと帰されてしまうこともあったが、何度か訪ねていくうちに、「上がってお茶でも」となり、中には3、4時間も話をしてくることもあるようだ。そうなれば、1回の見回りで訪問する軒数も確かに減ってくる。やはり、数字ではなく、積み重ねたことで、そこまでに至ったということが重要なのだと思う。
 既に30年が経過した日航機墜落事故にしても、日本航空では遺族の方々とともに御巣鷹山の慰霊登山を続けており、社員研修にも組み込んでいるという。東電も事故を起こした責任として、廃炉、賠償は当たり前、それだけでなく、迷惑をかけた地域の皆様と直接触れ合い、一人一人と関係を築いていかないと、信頼の回復はありえない。事故を起こしてしまったけれども、住民の皆様に復興の仲間として入れてもらい、一緒に同じ方向を向いて町づくりに取り組むパートナーと思ってもらうのが私の願い。「やはりこの地域に東電社員がいてくれてよかった」と思ってもらうことこそ福島復興本社の存在意義だ。

- 今年の3月11日に石崎代表が訓示した「東電グループの総合力」は、被災地の生活再建に向けてどのように発揮されるか。
 福島の避難指示解除に向けては、「まずは戻れる状況を作る」ということが大事だと思う。その現場において、中心となる国や県・自治体の方々の手の届かぬところに、東電が住民の方々に寄り添って、色々な困り事に対応するなど、しっかりと責任を果たしていきたい。
 社員たちが、自分の住んでいた地に戻ってきた方々のため、各人が持っている様々な能力を発揮することも東電グループの総合力の一つだ。自分も趣味を活かし、戻ってきた子供たちとまた一緒に合気道の稽古をしてみたいし、サッカーの得意な社員がいればサッカー教室もいい、色々な可能性がある。東電のリソースをどんどん投入し、町の復興や住民の皆様の生活再建に役立ててもらえれば、と思う。ISHIZAKI2

- 福島で今、課題となっていることをあげるとすれば。
 福島第一原子力発電所には既に、国内外2万人近くが視察に訪れているが、その際に、廃炉の現場だけでなく、是非周辺の町の復興状況も見てもらい、事故の風化防止につなげていきたい。福島では今、2つの「風」に苦しんでいる。一つは「風化」、もう一つは「風評被害」。その2つの「風」に対し、国や県・自治体だけでなく、東電もできることをしっかりやっていくことが必要。実際に見てもらえば、マスコミの報道だけでは伝えられない現実もわかってもらえ、「自分も福島のために何かできるのでは」ということに気付いてもらえると思う。
 そして、風評被害の方は、今後はボランティア精神でものを買ってもらうというのでは長くは続かないと思う。やはり、「本当に福島のものは美味い」と感じれば買ってもらえるだろうし、そういうところまで持っていかねばならない。福島復興本社では2014年11月、「ふくしま応援企業ネットワーク」を立ち上げ、今では参加企業22社、社員数では30万人、家族も入れれば100万人くらいに膨れ上がるまでになった。こうしたネットワークを通じ、福島のものを食べておいしさを実感すれば当然福島に行こうと思い、さらに他にもそれが伝わっていく、そういう好循環を作っていかねばならない。

- 若手社員の皆様に、今後の福島復興に向けて一言。
 東電の採用計画では、2年前から約1割を福島県内の学校出身者を採用することを目指している。実際に採用した福島出身の社員を見ていると非常に志が高く、先輩社員にも大きな刺激となっているようだ。今後も一層活躍してもらい、若手社員の福島復興に対する意識が高まっていくことを期待している。一方で、東電では、4月からのホールディングカンパニー制移行に伴い、分割後の3事業子会社には、福島復興への責任を果たすためそれぞれ「福島復興推進室」を置く。そうした「意識の喚起」と「仕組み」との合わせ技で、福島復興に向けた精神が若手社員をはじめ全社員に引き継がれていくことが大事だと思う。

〈取材後記〉
 石崎代表は、事故後の福島復興への取組とともに、原子力が立地する以前、明治の頃から連綿と続く東京電力と福島との縁を強調されていた。一方で、福島から関東圏へと供給されている電力に関し、殊に都市部では理解が薄いのでは、とも指摘された。同氏が危惧する2つの「風」の払拭には、何より消費地域が福島から多大な恩恵を受けてきたという感謝の意を持つことが不可欠ではないだろうか。
(石川公一記者)