進む本邦初の浅海域地図作り
04 Apr 2023
今年1月、船が航行中に浅瀬に乗り上げる事故が続いた。10日、自衛隊の護衛艦「いなづま」が山口県周防大島沖の瀬戸内海で、約1週間後の18日早朝、今度は海上保安庁の巡視船「えちご」が新潟県柏崎市の椎谷鼻灯台北西沖合でいずれも座礁し、航行不能となった。
護衛艦や巡視船が曳航されていく可哀そうなニュース映像を見ながら、やっぱり浅海地図は必要だと感じさせられたものだ。
実は日本には浅海地図が未だない。昨年10月に公益財団法人日本財団が一般財団法人日本水路協会とともに、全国の浅海域の地形を測量し、地図化する「海の地図PROJECT」を立ち上げたことで、そのことを初めて知った。
昨年は北海道斜里町沖で観光船が沈没し、乗客乗員全員が死亡する痛ましい事故もあった。本邦初という同プロジェクトは、専門家や関係者だけでなく一般の人々にももっと知られて欲しい取り組みのように思う。
四方を海に囲まれ、世界6位の排他的経済水域(EEZ)を持つ日本の海岸線は約35,000㎞と長い。プロジェクトはその内、基地や原子力発電所など重要施設を除く約9割(32,000㎞)の沿岸部が計測対象で、将来はデータを公開し、船舶事故防止はもちろん水産資源の保全から海への理解促進まで、広く役立てたい方針という。
計測開始から約半年、初年度の予定は3,200㎢、地域は東北から関東沿岸、能登半島、遠州灘、瀬戸内海、四国、九州まで12か所(試験調査地域を含む)で、4月末には完了する見込みだ。同財団常務の海野光行氏によると、航空機からレーザー光を照射し、浅海域を連続的に計測する航空レーザー測深(ALB)という技術革新が計測を可能にした。
しかし困難も伴う。例えば海の透明度の高低で取れるデータの量が大きく異なり、濁っていると飛行してもデータ取得出来ない場合もある。また海象は1日でも大きく変化するため飛行計画通りには進まず、変化や状況に柔軟に対処実施することが必要だが、実際には飛んでみないと透明度なども分からない。従って特定の海域の透明度の予測をするための技術や仕組みも必要になってくる。
海野常務は「全国の浅海域を10年で計測するという前例のない取り組みです。さらに1日として同じ環境にない海の中を測るという作業のため、『確実に測るための工夫』と『限られた時間と予算で行う工夫』という相反する課題があり、いかに効率よく最大限の結果を得るか、というところが最も重要な課題と考えています」と語る。
現在は実施済み地域のデータ解析と地図化を行っている最中で、画像の公開時期は数年後に想定している。ただし制度設計やセキュリティをはじめクリアすべき検討課題も少なくないため、具体的には未定だ。
一方で漁業従事者や沿岸域の安全管理の従事者、研究者などへのヒアリングも行っている。
「皆さん、それぞれの立場に基づく課題やニーズと共に、海の地図の具体的な活用法を挙げられていました。例えば、海難事故防止に従事するライフセーバーは地図により水難事故の主な原因でもある離岸流の発生メカニズムが特定の海域毎で解るようになること、また研究者は生態系の解明や保全等に必要な基礎的な情報が得られること、そして漁師は船舶の安全性向上や漁業そのものの効率性の改善と同時に、水産資源の保全を行う場合の必須情報になり得ることなどです」(海野常務)。
しかし共通したのは、海の中の実際の様子を知るための、基本的情報が少な過ぎる現状への訴え。それだけにプロジェクトへの期待の大きさもひしひしと感じたという。その意味で海は依然フロンティアなのだ。
世界で沿岸海底地図を広範囲に保有しデータを公開している国としては米国やフランスが代表的だが、他にもスウェーデン、オーストリア、ドイツなどが航空レーザー測深の結果を使い、水路の航行可能性を調査したり、ローマ時代の水中構造物の特定に活用したり、各国の特性に応じた利用や活用をしているという。
始まったばかりのプロジェクト、成就の暁には海洋国家・日本ならではの活用を期待したい。