原子力産業新聞

メディアへの直言

読売新聞の〝一強時代〟は オールド左派リベラル層の衰退の兆しか!?

二〇二四年八月二十一日

5紙は過去二十年で半減

 ネットを見ていて、衝撃の数字に背筋が寒くなった。一般社団法人日本ABC協会によると、二〇二四年一月時点の全国紙の販売部数は多い順に以下のとおりだ(週刊現代「TV局の歴史」など参照)。

読売新聞=約六〇七万部(約一〇〇三万部) 
朝日新聞=約三四九万部(約八三一万部)
毎日新聞=約一五八万部(約三九八万部)
日本経済新聞=約一三九万部(約三〇一万部)
産経新聞=約八八万部(約二一一万部)
5紙の合計=約一三四一万部(約二七四四万部)

 カッコ内の数字は二〇〇三年当時の部数だ。どの新聞も危機的といってよいほどの減少ぶりである。どの新聞も、過去約20年間でおよそ半分に減ったが、朝日新聞と毎日新聞の減少率は50%を超える。私が毎日新聞社の現役の記者(二〇一八年退社)として活動していたころの部数は、おおよそ四〇〇万部を維持していたが、二〇一〇年を過ぎたあたりから急激に減り、なんとか二〇〇万部を維持できるかと思っていたら、あっという間に一五八万部にまで落ちてしまった。

 毎日新聞社は七月十七日付朝刊(北陸版)で、月末で富山県内での配送を休止すると発表した。二三年の富山県内の販売部数は八四〇部(推計)だったというから、運送費や印刷費などのコストを考えれば、一民間企業として、採算の合わない配送をやめるのは理にかなっているだろうが、全国紙としての地位陥落はさびしい。東海3県を拠点とするブロック紙の中日新聞が一七七万部なので、いまや毎日新聞は中日新聞にも負けてしまったことになる。

いよいよ読売一強か

 朝日新聞の減り方も尋常ではない。朝日新聞と言えば、私のイメージでは「八〇〇万部の朝日」だったが、いまや三四九万部に落ちた。減少率を見ると、毎日新聞と同様に急激に落ちている。これではもはや「天下の朝日」という形容は難しい。

 数字をながめていて分かるのは、読売新聞の健闘である。読売新聞の約六〇七万部は朝日、毎日の合計の約五〇七万部を上回る。読売新聞は最近、媒体資料の中で盛んに「読売新聞は『朝日+毎日』を大きく上回ります」と宣伝している。さらに「朝日+日経」をも上回ると豪語する。そして、読売新聞の県(東京、神奈川、千葉、埼玉)の部数は、朝日新聞の東日本全体(一都県を含む静岡県以東の東日本全体)の部数よりも多いと強調する。広告を載せるなら、読売しかないと言いたいのだろう。

 つまり、新聞界は読売の一強時代になったといえる。それを象徴するのが号外の発行である。昔は、どの新聞もビッグニュースが発生したときは号外を発行し、東京の大手町や新橋駅前などで配ったものだが、いまでは号外を出す余力をもつのは読売新聞だけになってしまった。先日岸田総理が退陣を表明したときも、テレビで報じられていたのは読売新聞の号外発行の様子だった。テレビに登場する号外発行の光景は、いまでは読売新聞だけの風物詩になった感がある。

リベラル派の衰退の象徴

 なぜ、新聞を読む人が減ったのか。いうまでもなく最大の要因はネットでニュースが無料で読めるようになったからだ。新聞を有料で購読していなくても、何一つ困ることがない。私の友人にも新聞を購読していない人が目立つ。

 もうひとつの要因は、これは私の勝手な推測だが、朝日新聞や毎日新聞を好むリベラル層の減少である。新聞を政治的に色分けすれば、朝日新聞と毎日新聞、東京新聞を好む層は左派リベラル層であり、政党で言えば、立憲民主党や社会民主党、共産党を支持する人が多い。これに対し、読売新聞と産経新聞を好む層はいわゆる保守派で、政党で言えば、自由民主党や日本維新の会を支持する人が多いように思える。

 政治資金パーティー収入の裏金問題で、最近の自民党は劣勢となっているが、過去40年の政党の推移を見ると、旧社会党(一九九六年に解散)が消滅し、社会民主党へと党名を変えて生まれ変わったあとでも、いわゆる社会党的な政策、イデオロギーを支持する人たちは徐々に減っていった。これがいわゆる左派リベラルと言われる層だが、このリベラル層の衰退とともに朝日、毎日の人気も陰ってきたように私には思える。

 左派リベラル層は六十代以降の高齢世代に多い。そういったオールド左派リベラル層が後期高齢化とともに時代から去っていけば、それと歩調を合わせるかのように、いずれ朝日、毎日のようなリベラル新聞も表舞台から消え去る運命にある。ずっとそう思っていたが、この傾向自体は今後も続くように思う。

 最近は、政権交代を望む声が強いようだが、これは左派リベラル層が増えたというよりも、カネに汚い自民党的な政治に嫌気がさしたという面が強い。政権交代が実現したら、朝日、毎日新聞が息を吹き返すのか興味はあるが、おそらく難しいだろう。

独自色を放つ産経新聞

 新聞の減少で個人的に残念だと思うのは産経新聞の八八万部である。産経的な論調を好む層は一定数いるので、まさか一〇〇万部を切るとは思ってもみなかったが、現実は厳しいようだ。左派リベラルの目から見ると、読売と産経は同じ右派的グループに見えるようだが、産経は独自の記事が多く、日々の記事を見ている限り、やはり読売とは異なる光彩を放っている。産経新聞の社会部記者だった三枝玄太郎氏が最近著した「メディアはなぜ左傾化するのか」(新潮社)を読んで、ますますその意を強くした。

 この本を読むと、埼玉県川口市でクルド人が近隣住民とトラブルを起こしているようだが、その実態を事実としてしっかりと報じているのは産経新聞だけのようだ。三枝氏は同本で「僕の肌感覚では、(記者の)自由度は、産経>東京>毎日>朝日>読売>日経といった感じだろうか。だが、あまり世間の人は信じてくれない」と書いている。

 私の肌感覚では5紙の中では毎日新聞の自由度がダントツであり、論調に一定の制約のある産経新聞には記者の自由度は少ないのではと思っていたが、この本を読んで産経新聞の良さ、自由さを見直した。

 5紙の販売部数にあまりにも差があっては、健全な言論空間は築かれない。対中国問題などで独自報道を放つ産経新聞はぜひとも一〇〇万部奪還を目指し、新聞相互にけん制できる言論世界をつくってほしいものだ。

 特に原子力への見方では、反原発の朝日・毎日と、原発肯定の読売・産経が対峙する。読売一強が今後の原子力の動向にどう影響するのか興味をもって注視していきたい。

小島正美Masami Kojima
元毎日新聞社編集委員
1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道部で食や健康問題に取り組む。2018年6月末で退社し、2021年3月まで「食生活ジャーナリストの会」代表を務めた。近著「フェイクを見抜く」(ウェッジブックス)。小島正美ブログ「FOOD NEWS ONLINE

cooperation